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偽りの勇者と、崩れ去る炎上シナリオ

偽りの勇者と、崩れ去る炎上シナリオ

 ポポロ村の西門に続く、緩やかな丘陵地帯。

 普段は美しい夕焼けに染まるその場所が、今はおぞましい殺気と土煙に覆われていた。

「ヒャッハー! 燃やせ燃やせェ! あのふざけた大根も芋も、全部灰にしてしまえ!」

 土煙の先頭を走るのは、薄汚い鎧を着込んだ数十人の盗賊団だ。

 その後ろには、首に奇妙な『隷属の首輪』を嵌められたオークやゴブリンといった下級魔獣の群れが、数百体規模で押し寄せている。

 彼らは松明や火炎魔法を掲げ、ポポロ村が誇る『月見大根』や『太陽芋』の畑へと、容赦なく火を放とうとしていた。

「いいかお前ら! 雇い主からの命令は『村人を絶望のどん底に叩き落とせ』だ! 畑を焼き、家を壊し、泣き叫ぶ声を響かせろ! そうすりゃ莫大な報酬が――」

 盗賊のリーダーが下劣な笑い声を上げた、その時。

「――それは困るな。明日の朝、その芋でお味噌汁を作るって、義母かあさんが言ってたから」

 スッ、と。

 盗賊団と魔獣の群れの真正面、西門へと続く一本道の中央に、白いパーカーを着た少年が音もなく降り立った。

 キッド・ジーニアスだ。

 夕暮れの風が、彼の背中で交差するように背負われた『二つの柄』を揺らしている。

「あァ? なんだァこのガキは? 逃げ遅れた村人か?」

「死にたくなきゃどきな! 俺たちの数は三百を超えてるんだぜ!」

 嘲笑う盗賊たち。

 だが、キッドは表情を一切変えることなく、背中に手を伸ばした。

 シャラァァァンッ……!

 右手に、白銀の神剣『ルクス』。

 左手に、漆黒の魔剣『ノワール』。

 二振りの剣が鞘から解き放たれた瞬間、空気が凍りついた。

 盗賊たちや魔獣の本能が、目の前の少年から放たれる『異次元のプレッシャー』に警鐘を鳴らす。だが、彼らがそれに気づいた時には、すべてが遅すぎた。

「ここから先には、一歩も通さないよ」

 キッドが、トンッ、と軽く地を蹴った。

 次の瞬間、彼の姿が『消えた』。

「なっ――!?」

 盗賊のリーダーが瞬きをした刹那、キッドはすでに盗賊団のど真ん中に陣取っていた。

 一切の予備動作も、風切り音すらない。極限まで洗練された歩法が、空間の距離を完全にゼロにしていた。

「まずは、火を消さないとね」

 キッドが左手の『ノワール』を軽く横に薙ぐ。

 漆黒の刃から放たれた波動が、盗賊たちが掲げていた松明の炎や、放とうとしていた火炎魔法を、まるでブラックホールのように一瞬で吸い込み、完全に鎮火させてしまった。

「ひぃっ!? 魔法が、消えた!?」

「バ、バカ野郎! ただのガキだ、囲んで殺せェ!」

 パニックに陥った盗賊たちが、四方八方から一斉に武器を振り下ろしてくる。

 しかし、キッドは慌てることなく、右手の『ルクス』をくるりと反転させ、みねの部分を向けた。

 刃は立てない。命を奪う必要はない。

 流れるような体術と、圧倒的な動体視力。キッドは迫り来る刃の隙間を、まるで舞踏のようにすり抜けながら、盗賊たちの首筋や鳩尾みぞおちに、トン、トン、と正確無比な峰打ちを入れていく。

「がッ……!?」

「あぐッ……!」

 わずか十秒。

 それだけで、数十人の盗賊団は全員が白目を剥いて地面に転がっていた。

 残るは、統制を失って暴走し始めた数百の魔獣の群れだけだ。

「よし。次は君たちだ」

 キッドが双剣を構え直した、その時である。

『クソッ! なんだあのガキは!? 俺の完璧なシナリオがぶち壊しじゃねえか!!』

 遥か上空の神界から、この光景を専用チャンネルで配信していた『炎上神ワイズ』が、激しい舌打ちと共にタンブラーを壁に投げつけていた。

 彼の目論見では、村が炎に包まれ、人々が絶望した瞬間に『勇者ゼロス』を登場させ、劇的な救済劇でPVとスパチャを稼ぐはずだった。

 しかし、キッドが強すぎるせいで、村には火の粉一つ落ちていない。これではただの『不発』だ。

『ゼロス! 出番を早めろ! あのガキに全部片付けられる前に、手柄を横取りして「勇者の活躍」として配信を成立させるんだ!!』

 ワイズの焦りに満ちた念話を受け、丘の陰で待機していた金髪の勇者、ゼロス・ディバインが舌打ちをした。

「チッ……台本と違うじゃねえか。まあいい、俺の【マネー】の力でステータスを底上げして、おいしいところだけ頂いてやるよ」

 ゼロスはワイズから提供された莫大な神力(資金)をスキルにつぎ込み、自身のステータスを強制的に跳ね上げた。

 肉体が追いつかないほどのドーピング。だが、見た目だけは派手な黄金の闘気が全身を包み込む。

「そこまでだ、魔物の群れよ!!」

 バァァァンッ! と。

 ゼロスは丘の上から、いかにも『ヒーロー』らしい大仰なポーズで飛び出してきた。

「怯えることはないぞ、少年! この聖なる勇者ゼロス・ディバインが駆けつけたからには、もう安――」

 ゼロスが決め台詞を言い放ちながら着地した瞬間。

 彼の目の前で、信じられない光景が広がった。

「――『ホーリー・バースト』」

 キッドの右手の『ルクス』から、純白の極太レーザーが放たれた。

 それは、突進してくる数百の魔獣の群れを飲み込み……彼らの命を奪うのではなく、首に嵌められていた『隷属の首輪』だけを、精密な魔力制御で完全に蒸発させたのだ。

「グル……ッ?」

「ゴブ……?」

 洗脳から解放された魔獣たちは、自分たちが何をしているのか分からなくなったように立ち止まり、キッドから放たれる『底知れぬ覇気』に怯え、蜘蛛の子を散らすように森の奥へと逃げ帰っていってしまった。

 静寂。

 夕暮れの丘には、気絶した盗賊たちと、双剣を鞘に収めるキッド。

 そして、大仰なポーズのまま完全に固まってしまった勇者ゼロスだけが残された。

「……えっと」

 ゼロスは引きつった笑いを浮かべながら、冷や汗をダラダラと流した。

 出番がない。村は無傷。魔獣は帰った。配信のシナリオは完全に崩壊した。

「あ、あー……よく頑張ったな少年! 俺がトドメを刺してやろうと思ったが、どうやら必要なかったようだな! ハッハッハ!」

 誤魔化すように爽やかな笑顔を作り、ゼロスはキッドの肩をポンと叩こうと近づいた。

 しかし、キッドはその手をスッと避け、冷ややかな瞳でゼロスを見つめた。

「……君が、今回の『監督』?」

「は?」

 キッドの言葉に、ゼロスの顔が引きつる。

「あの盗賊たちから、君と同じ『ポポロシガー』の匂いがする。それに、あの魔獣たちを操っていた隷属の首輪の魔力波長……君のポケットに入っている魔石と、完全に一致しているよ」

 キッドの【知恵】と観察眼は、すべてを見透かしていた。

 さらに、村の方角からは、ケルベロスのアモンの遠吠えが小さく響いてくる。

 ――『キッド様。その男から、極めて腐臭の強い【嘘】と【悪意】の匂いがします』という、確かな報告。

「君が盗賊を雇って、村を襲わせたんだね。マッチポンプの救済劇を演じるために」

 キッドの声音から、一切の温もりが消え失せた。

「な、何を馬鹿な……俺は世界を救う勇者だぞ! 証拠もないのに言いがかりを――」

「証拠なら、これから僕の『義母さん』が、君の魂の底まで徹底的に調べ上げるから心配いらないよ」

 キッドは一歩、ゼロスへと歩み寄った。

 その背後に、巨大な『聖魔竜』の幻影が揺らめく。

 怒り。純粋で、圧倒的なまでの静かな怒りが、周囲の空気をバチバチと震わせていた。

「僕の大切な人たちの日常を、自分勝手な都合で脅かした罪。……しっかりと、償ってもらうからね」

 偽りの勇者は、ついに本物の『最強』を敵に回してしまったのだ。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!

炎上神ワイズの卑劣なシナリオを、圧倒的な実力で一瞬にして粉砕したキッド!

出番を奪われ、さらに自作自演の悪事まで一瞬で見抜かれてしまった偽勇者ゼロス。

キッドの静かな怒りが爆発する寸前です!

(しかも、この後にはさらに恐ろしい『リベラ・オカンによる法的&物理的制裁』も控えています……笑)

次回、偽りのステータスでイキるゼロスに対し、キッドが本物の『力』を見せつけます!

最高にスカッとするざまぁ展開をお見逃しなく!

もし「キッドかっこいい!」「ゼロスださすぎるww」「早くボコボコにして!」と少しでも楽しんでいただけましたら、

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(皆さんの応援がランキングを駆け上がる力になります!)

次回『第12話:本物と偽物チートとメッキ

お楽しみに!

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