第4話ファンとの遭遇
天城 美月 … 茶髪の明るいリーダー格。コミュ力が高く、配信の司会役。
* 白鷺 凛 … 黒髪ロングのクール系美少女。戦闘担当で頭も切れる。
* 小鳥遊 ひまり(たかなし ひまり) … 小柄で可愛い銀髪ショートの少女。銀髪美少女の大ファンでかなり重めのオタク。
特にひまりは「銀髪ちゃん大好き!」を隠さないタイプで、前回の危険発言の主でもある。
ダンジョン下層第三十階層。
普通の探索者ならパーティを組んで挑む危険地帯。
しかし玲人――いや、銀髪の少女は一人で歩いていた。
「今日は静かだな。」
周囲には魔物の気配がほとんどない。
少し不気味なくらいだった。
そんな時。
遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「みんなー! 現在下層第三十階層に到着しましたー!」
玲人の身体が固まった。
「……え?」
聞き間違いではない。
この声は。
「天城美月……?」
玲人は慌てて岩陰へ隠れた。
少しだけ顔を出して確認する。
そこには見慣れた三人組がいた。
天城美月。
白鷺凛。
小鳥遊ひまり。
学校一の人気美少女トリオ。
そしてそこそこな人気ダンジョン配信者。
三人は大型カメラを回しながら探索していた。
「なんでいるんだよ……」
玲人は頭を抱えた。
よりによって一番会いたくない相手だった。
もし近くで声を聞かれたりしたら面倒だ。
何より。
小鳥遊ひまりが怖い。
非常に怖い。
昼休みの発言を思い出すだけで逃げたくなる。
その時。
「銀髪ちゃんいるかなぁ。」
ひまりが呟いた。
「またそれ?」
美月が笑う。
「だって会いたいもん。」
「ひまり、最近そればっかり。」
凛も呆れている。
だがひまりは真剣だった。
「もし会えたらサインもらう。」
「アイドルじゃないから。」
「握手もしてもらう。」
「だからアイドルじゃないって。」
「できればハグも。」
「やめなさい。」
玲人は静かに後退した。
関わってはいけない。
本能が警鐘を鳴らしている。
だが。
その時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
地面が揺れた。
三人も顔色を変える。
「何!?」
「魔力反応!」
凛が叫ぶ。
次の瞬間。
壁が爆発した。
巨大な魔物が現れる。
全長十五メートルを超える黒い蛇。
下層ボス級。
ブラックサーペントだった。
コメント欄が一気に荒れる。
『やば、これってイレギュラー、、?』
『逃げろ!』
『やばくね?』
『下層ボス級じゃん!』
『勝てる相手じゃない』
三人も戦闘態勢を取る。
だが玲人は一目で分かった。
勝てない。
実力不足ではない。
相性が悪すぎる。
毒。
再生能力。
異常な耐久力。
長期戦になれば危険だ。
ブラックサーペントは口を開いた。
大量の毒液が飛ぶ。
「なんで下層のボス級がこんな所にいるのよ!?」
「危ない!」
美月が叫ぶ。
「くっ、!」
凛が防御魔法を展開する。
しかし。
(あれじゃ……)
間に合わない。
その瞬間。
銀色の閃光が走った。
ドォォォン!!
毒液が空中で消し飛ぶ。
「え……?」
三人が振り返る。
そこに立っていたのは。
銀髪。
赤い瞳。
謎の美少女。
「うそ……」
ひまりの目が大きく開いた。
「銀髪ちゃん……」
玲人は内心で叫んだ。
最悪だ。
(てかなんか最近人助け多くね???)
見つかった。
しかも目の前で。
だが今はそんなことを言っている場合ではない。
ブラックサーペントが襲いかかる。
玲人は剣を構えた。
「下がって。」
静かな声。
だが有無を言わせない圧があった。
巨大な蛇が突進する。
玲人は前へ出る。
一歩。
二歩。
そして。
剣を振った。一閃。
世界が白く染まる。
次の瞬間。
ブラックサーペントの身体が真っ二つになっていた。
轟音と共に崩れ落ちる巨体。
その銀髪美少女の力は見ているもの達を黙らせるには十分過ぎるほどの圧倒的な力だった。
そして沈黙。
誰もが言葉を失っていた。
いくら強いからと言って誰もがこんな可愛らしい少女がこれほどまでの力を有しているとは思っていなかっただろう。
『え?』
『今何した?』
『見えなかった』
『強すぎる』
『やっぱり化け物だ』
コメント欄が大混乱する。
だが一番固まっていたのは。
小鳥遊ひまりだった。
「本物だ……」
感動で震えている。
玲人は嫌な予感しかしなかった。
そしてその予感は当たる。
ひまりが全力で走り出した。
「銀髪ちゃーーーーん!!」
「え。」
玲人は人生で初めて本気で逃げた。
⸻
ひまりが追いかける。
玲人が逃げる。
視聴者は爆笑している。
『逃げてるwww』
『銀髪ちゃん逃走』
『ファンから逃げるなw』
『ひまりちゃん速いw』
「待ってぇぇぇぇ!!」
「待たない。」
「一回だけ!」
「嫌。」
「サイン!」
「書かない。」
「握手!」
「しない。」
「ハグ!」
「絶対しない。」
玲人は全力でダッシュした。
そのまま角を曲がり。
転移スクロールを発動。
(モンスターは倒したし危険な目に遭ったのだから、今日は大人しく上層へ行くだろう。)
そう考えて。
光に包まれて消えた。
残されたひまりは膝をつく。
「逃げられた……」
まるで失恋したような顔だった。
その様子にコメント欄はさらに盛り上がる。
しかし誰も気付いていなかった。
ブラックサーペントが出現した壁の奥。
本来存在しないはずの巨大な穴が開いていたことに。
そしてその先から。
深層にしか存在しないはずの魔力が漏れ出していたことに――。




