第3話:熱狂的ファン
昨夜、玲人は結局深夜まで起きていた。
下層で手に入れた大量のドロップ素材。
魔石。
魔物の牙。
希少鉱石。
高級薬草。
どれも高額で売れるものばかりだ。
しかし種類ごとに分けたり、売却用と保管用に仕分けたりしていたら、いつの間にか日付が変わっていた。
「……眠い。」
朝のホームルーム。
玲人は机に突っ伏しそうになりながら必死に耐えていた。
先生の声もほとんど頭に入ってこない。
(今日は早く帰りたい……)
そう思いながら午前の授業を乗り切った。
そして昼休み。
「おーい、玲人。」
親友の神谷悠斗がやって来た。
「飯食おうぜ。」
「うん……」
二人はいつものように教室の隅で昼食を広げる。
その時だった。
教室の中央付近から大きな声が聞こえてきた。
「だから絶対銀髪ちゃんはS級探索者だって!」
「いやいや、国家機関所属でしょ!」
「私は異世界人説を推す!」
クラスでも特に目立つ三人組だった。
一人目は明るい茶髪の美少女。
二人目は黒髪ロングのクール系美少女。
三人目は小柄で可愛らしい雰囲気の銀髪ショートの少女。
学年でも有名な美少女トリオである。
しかも三人ともダンジョン配信者だった。
登録者数もかなり多い。
玲人も名前くらいは知っている。
「また銀髪ちゃんの話してるな。」
悠斗が笑う。
玲人は思わず顔を引きつらせた。
(やめてくれ……)
自分の話題を目の前でされるのは居心地が悪い。
だが三人の会話は止まらない。
「昨日の配信見た!?」
「見た見た!」
「星宮ミアさん助けたやつでしょ!?」
三人とも大興奮だった。
「あんなに可愛くて強いとか反則だから!」
「本当に憧れる……」
「私もあんな探索者になりたいなぁ。」
玲人は静かに弁当を食べる。
聞こえないふりだ。
しかし次の瞬間。
小柄な少女が爆弾発言を放った。
「私、銀髪ちゃんになら人生全部捧げられる。」
「重い重い。」
茶髪の少女が笑う。
だが小柄な少女は真顔だった。
「本気だもん。」
「いや本気なの!?」
「だって可愛いし強いし優しいし完璧じゃん。」
黒髪ロングも苦笑している。
そしてさらに続いた。
「もし会えたら抱きついちゃうかも、そして更にその先にも。」
「やめなさい。」
「やめない。」
「危ない危ない。」
「もう私の全て捧げちゃう。」
「まぁでも本人前にしたら理性抑えられる自信ないよね。」
『それはたしかに。』
ぶふっ!!
悠斗の顔面にお茶が飛んだ。
「うわっ!?」
「ご、ごめん!!」
「どうしたんだよ、!?」
「いや、ほんとごめん!」
玲人は慌てて謝る。
危なかった。
思わず吹き出してしまった。
(怖い怖い怖い!!)
何だその熱量は。
しかし彼女たちは本人がここにいるとは夢にも思っていないのだろう。
玲人は静かに決意した。
(絶対に関わらないでいよう。)
あの三人に正体がバレたら大変なことになる。
間違いなく平穏な学校生活は終わる。
これからはより慎重に行動しよう。
そう心に誓った。
⸻
放課後。
授業を終えた玲人は真っ先に帰宅した。
「ただいま。」
誰もいない家。
自室へ向かう。
制服を脱ぐ。
銀髪のロングウィッグ。
赤いカラーコンタクト。
丁寧なメイク。
何度も繰り返した手順。
やがて鏡の中には学校の地味な男子生徒ではなく、世間を騒がせる銀髪の美少女が立っていた。
「よし。」
玲人は小さく頷く。
今日もまたダンジョンへ向かう。
正体を隠したまま。
誰にも知られないまま。
だが彼はまだ知らない。
その夜の探索が、さらに大きな騒動の始まりになることを――。




