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第2話:ダンジョンアイドル配信者救出事件

ダンジョンには大きく分けて三つの層が存在する。


上層。


下層。


そして深層。


上層は初心者探索者でも挑戦できるエリア。


下層はAランク以上の実力者が集まる危険地帯。


深層に至っては国家レベルの戦力しか足を踏み入れられない未知の領域だった。


そして現在――。


私は下層第二十八階層にいた。


「グルルルル……」


巨大な魔狼の群れがこちらを睨んでいる。


一体だけでも上層のボス級。


それが十数体。


普通の探索者なら逃げ出している状況だ。


だが。


「邪魔。」


私は剣を一振りした。


銀色の斬撃が走る。


次の瞬間、魔狼たちはまとめて消し飛んだ。


素材だけを残して。


「さて。」


先へ進もうとしたその時だった。


遠くから悲鳴が聞こえた。


「きゃああああっ!!」


私は足を止める。


探索者なら自己責任。


普通なら助けない。


だが放置するのも後味が悪い。


仕方なく声の方向へ向かった。


すると。


そこには巨大なトロールに追い詰められた少女がいた。


ピンク色の髪。


可愛らしい顔立ち。


そして手には配信用カメラ。


私は見覚えがあった。


「ダンジョンアイドルの……星宮ミア?」


登録者数五百万人超え。


歌って踊れる人気配信者。


ダンジョン配信界でもトップクラスの有名人だった。


コメント欄が凄い勢いで流れている。


『逃げろ!』


『やばい!』


『スタッフ何してる!?』


『死ぬぞ!!』


星宮ミアは必死に剣を構えていた。


だが明らかに限界だった。


トロールが巨大な棍棒を振り上げる。


私はため息をついた。


(あんまり有名人に会いたくないんだけどなぁ)


そして前に出る。


「え?」


ミアが目を見開く。


ドォン!!


棍棒が振り下ろされた。


しかし私の剣はそれを簡単に受け止めていた。


「下がって。」


静かに言う。


「え……あ……」


「危ないから。」


そのまま剣を振る。


一閃。


トロールの身体が真っ二つになった。


一体倒したのちにダンジョン奥の影からゾロゾロと4体のトロールが現れた。


玲人はトロールへ向かって凄まじいスピードで近づいて一閃、一閃と一振で倒してゆく。


「弱いわね。」


沈黙。


コメント欄も一瞬止まった。


そして――。


『銀髪ちゃんだあああああ!!』


『本物!?』


『また現れた!!』


『可愛すぎる!!』


『強すぎるだろ!!』


『結婚してください!』


チャット欄が爆発した。


私は面倒になる前に立ち去ろうとする。


だがミアが慌てて呼び止めた。


「ま、待ってください!」


「何?」


「助けてくれてありがとうございました!」


深々と頭を下げる。


私は少し困った。


こういうのは苦手だ。


「気にしないで。」


それだけ言って歩き出す。


「お名前だけでも!」


「……秘密。」


(これ以上目立ったらどうなるか分からないし)


そう答えて私は去った。


残されたミアは呆然としていた。


そしてその映像は世界中へ配信されていた。



その日の夜。


ネットニュースは再び大騒ぎだった。


『謎の銀髪美少女、人気ダンジョンアイドル配信者を救出』


『正体不明の実力者が再び出現』


『事務所所属か? 国家探索者か?』


『銀髪少女のファンクラブ会員数が急増』


SNSのトレンド一位。


切り抜き動画は数千万再生。


世間は完全に銀髪少女一色になっていた。


てか勝手にファンクラブ作るな。



一方その頃。


黒崎玲人のスマホは地獄と化していた。


このスマホはダンジョンに潜っている人なら誰しも持っているものだ。


救援要請やダンジョンの情報などの用途がある。


私はこのスマホに「匿名」として登録しているから名前はバレていないが。


「また来てる……」


メール。


DM。


事務所からの連絡。


探索者プロダクション。


配信者事務所。


芸能事務所。


モデル事務所。


様々な企業が連絡してきていた。


『ぜひ当社に所属を』


『契約金十億円を用意できます』


『顔出し不要でも構いません』


『一度お話だけでも』


特に星宮ミアが所属する大手事務所からは何度も連絡が来ていた。


だが。


「無理無理無理。」


「ブロックブロック。」


私は即座にブロックして削除した。


事務所に所属したら正体調査は避けられない。


そうなれば女装男子であることがバレる。


学校生活終了である。


「絶対に嫌だ……」


そう呟きながらスマホを閉じる。


しかし玲人は知らなかった。


世界中の企業だけではなく。


ある少女が彼を見つけるために動き始めていることを。


そしてその出会いが、平穏な学園生活を大きく変えることになることを――。

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