温かい味噌汁
朝の食堂は、すでに人でいっぱいだった。
長い机に、男たちがずらりと並んでいる。
作業服の色も、顔つきも、似たようなものばかりだ。
がやがやとした声。
味噌汁の湯気。
食器の当たる音。
いかにも「朝」という感じだった。
空いている席を見つけて、そこに座る。
目の前に並んだのは、
白いご飯。
味噌汁。
目玉焼き。
それから、少しだけ焦げたウインナー。
質素だが、悪くない。
「いただきます。」
小さく言って、箸を取る。
一口、食べる。
「……うまい。」
正直な感想だった。
前の人生では、コンビニ弁当や冷凍食品ばかりを食べていた。
それに比べると、人の手で作られた温かい味噌汁はありがたい。
黙々と食べていると周りの会話が、自然と耳に入ってくる。
「昨日、ライン止まったらしいぞ!」
「またかよぉ。」
「班長、機嫌悪かったな〜」
仕事の話ばかりだった。
ふと、思う。
これが、自分の生活になる。
毎日、朝起きて、飯を食って、工場に行く。
単純で、分かりやすい。
そして。
「……その合間に、金を稼ぐか。」
ご飯を口に運びながら、ぼそりと呟く。
誰にも聞こえていない。
それでいい。
味噌汁を飲み干して、箸を置く。
「ごちそうさまでした」
手を合わせてから、立ち上がった。
腹は満たされた。
頭も、少しだけすっきりした。
やることは決まっている。
まずは、働く。
それから、考える。
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寮の玄関を出る。
朝の空気は、少し冷たかった。
息を吸い込むと、油と鉄の匂いが混じっている。
遠くから、機械の音が聞こえてくる。
ガタン。
ガタン。
昨日からずっと聞いている音だ。
門の外には、同じ作業服の男たちが何人も歩いていた。
ほとんどがカゴ付きの、古い自転車。
ぎしぎしと音を立てながら進んでいく。
朝の町は、まだ完全には目を覚ましていない。
商店のシャッターは半分閉まっていて、八百屋の前には木箱が積まれている。
新聞配達の少年が、自転車で走り抜けていった。
「……昭和だなぁ。」
思わず口に出る。
何度見ても、やっぱり昭和だった。
便利じゃないし、速くもない。
でも、ちゃんと動いている。
しばらく歩くと、視線の先に看板が見えた。
少し古びた、四角い看板。
『写真』
『現像』
『証明写真』
白い文字で、はっきりと書かれている。
足が止まった。
「……あった。」
小さく呟く。
思ったより、あっさり見つかった。
店はまだ開いていない。
シャッターは閉まっている。
だが、確かにここにある。
写真屋
ポケットの中のスマホを、そっと触る。
硬い感触が、指先に伝わる。
「……ここだな。」
静かに言った。
そのとき、遠くでサイレンが鳴った。
始業を知らせる音だった。
周りの男が一斉に歩く速度を上げる。
日向も、ゆっくりと足を動かした。
「まずは仕事」
そう呟いて、工場の方へ向かって歩き出した。




