ハッピーバースデー、俺
布団を敷いた。
薄いせんべい布団を畳の上に広げて、その上にごろりと横になる。
天井は変わらず白く、裸電球の光が、少しだけまぶしい。
ガタン、ガタン。
遠くから聞こえる機械音は、夜になっても止まないらしい。
「……うるさいな。」
小さく呟いて、目を閉じる。
けれど、眠れずに目を開いた。
疲れているはずなのに、頭が妙に冴えている。
日向は、ゆっくりと起き上がった。
枕元に置いた、黒い板。
それに手を伸ばす。
変わらない無機質な感触。
冷たくて、軽い。
指で触れると、画面が光る。
『残りバッテリー:100%』
変わらない表示。
見慣れた文字。
――のはずだった。
「……ん?」
画面が、切り替わった。
今まで見たことがない表示だった。
白い文字が、黒い画面に浮かぶ。
『所有資格を確認中……』
日向は瞬きをした。
意味は分からない。
だが、目は離せなかった。
数秒。
わずかな間のあと、文字が変わる。
『所有資格:承認』
「……は?」
思わず、声が漏れた。
次の瞬間、さらに文字が流れる。
『AI機能を解放します』
その一文が表示されたとき——
頭の奥で、何かが弾けた。
「……っ?」
視界が揺れる。
思考が、押し流される。
知らないはずの映像が、知らないはずの知識が、一気に流れ込んできた。
光る画面。
指で操作する手。
文字を打ち込む感覚。
聞いたことのない言葉。
——生成AI。
——画像生成。
——プロンプト。
断片的な記憶が、ばらばらに浮かぶ。
「なんだ、これ……」
息が浅くなる。
頭が熱い。
だが、止まらない。
情報は、止まらない。
やがてそれは、ひとつに繋がった。
「……あ。」
思い出す。
自分が誰だったのか。
ここが、どこなのか。
そして——
「……俺、死んでるじゃん。」
ぽつりと、呟いた。
次の瞬間、意識が途切れた。
---
夢を見た。
とても長い夢だった。
どこにでもいる、普通の男。
頭は良くない。
要領も、そんなに良くない。
ただ、なんとなく生きていた。
仕事をして、帰って、スマホをいじって、寝る。
その中で、ひとつだけ続いていたことがあった。
——AI。
画像を作って、遊んでいた。
すごいわけでも、上手いわけでもない。
ただの、趣味。
それでも——
少しだけ、分かる。
どうすれば、それっぽくなるか。
どうすれば、見れるものになるか。
そんな、程度の知識。
そして最後、ふとした瞬間。
光。
衝撃。
そこで、途切れた。
---
目が覚めた。
薄暗い部屋く、見慣れない天井。
いや——
「……ここ、俺の部屋か。」
ゆっくりと起き上がる。
体は重いが、頭は妙にすっきりしていた。
全部、ある。
記憶が。
前の人生のことも、
ここでの生活も。
全部、繋がっている。
日向は、手元を見た。
黒い板、いや、スマホ。
画面は、静かに光っている。
そこには、今までなかった表示があった。
日向は、少しだけ口元を緩めた。
「……なるほどな。」
状況は分かった。
完璧じゃない。
でも、だいたいは理解した。
「これ、使えるぞ。」
そう呟いた声は、
昨日までの自分より、少しだけ軽かった。




