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十八歳の誕生日

四月十二日。それは、彼の誕生日だった。

といっても、祝ってくれる人はいない。

会社の独身寮、二〇三号室。

六畳の部屋は、がらんとしていた。

畳は少し黄ばんでいて、窓の外からは遠くの機械の音が聞こえてくる。


ガタン、ガタン。


昼間ずっと聞いていた音と同じだった。

今日からここが、自分の家になる。

日向 恒一(ひなた こういち)は、畳の上に座ったまま、ぼんやりと天井を見ていた。

裸電球の光が、やけに白い。


「……静かだな。」


思わず、声が出た。

返事はない。

当たり前だった。


今日、彼は施設を出た。

十八歳になったからだ。


荷物は少ない。

作業服が二着。

下着が数枚。

古びたアルバムが一冊。

そして——


机の上に、黒い板が置いてあった。


手のひらより少し大きい。

つるりとしていて、冷たい。

角は丸く、傷ひとつない。


日向はそれを、じっと見つめた。

この板は、物心ついたときからあった。

施設の先生が言っていた。


「あなたが見つかったとき、一緒にあったのよ。」


理由は分からない。

誰のものかも分からない。

でも、ずっと持っていた。

特別な気持ちはない。

ただの持ち物だ。


日向はそれを手に取った。


軽い。

指で触れると、表面がふっと光った。

慣れている。

何度も触ってきたから。

画面に、文字が浮ぶ。


『残りバッテリー:100%』


日向は小さく息を吐いた。


「……変わらないな。」


昨夜もそうだった。

その前も、その前も。

どれだけ触っても画面が変わることはない。


不思議だとは思う。

でも、怖くはない。

昔からそうだから。

それだけだ。


日向は時計に目をやり、12時近いことに気が付く。


「⋯⋯そろそろ寝るか。」


明日も仕事だ。

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