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竜血の愚者  作者: INAKA
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第4話:任務と幕開け

玉座に座ったラーサー4世は表情を変えることなく続ける。

「現在人族は魔族の不当な支配から脱却するため駒を進めている。勇者の活躍で有利に事は進んでいるが、決定打に欠ける状況でな。」


"駒"だとか"決定打"だとか、癪に障る言い方をしやがる。

しばらくは話を聞きながら隙を伺うしかない。


「魔族の戦闘能力は高いが、上位冒険者であれば問題ない。真の脅威は主力である魔王と幹部四天王の五体だ。勇者であれば勝てるかもしれんが、あいつが前線を離れるのを許容できん。この国に魔物や魔族が襲って来るやもしれんしな。」


"国"じゃなくて"自分の所"、だろうが。

普段の熱くなる怒りとは異なり、腹の底から冷たい怒りが全身を支配する。


「我々の最終目的はユニーブ・ルータルの奪還だ。人族と魔族の戦力を前線に集中させ、別動隊として魔族の国を襲う作戦を考えていたのだ。だが、中々いい人材が見つからなくてな。...まあ、これ以上細かく説明する必要はないだろう。どうせ理解もできんだろうしな。」

王はわざとらしく欠伸をし、手元に置いていたグラスの液体を口に含んだ。


「さて、お前には別動隊として魔族の国に入ってもらいたい。人族領土の魔族を討伐しつつ、魔族の国で暴れて混乱を引き起こしてほしいのだ。最終的には捕まって偽の情報を与える捕虜になるか、できるなら幹部四天王の討伐をしてこい。」

「死んでも構わない"犯罪者"に汚れ仕事をさせるってことね、嫌なことを考えるもんだな。」

「国の為だからな。さて、死罪か、魔族の国での拷問の末の死かどちらを選ぶ?」


従順なふりをして逃げ出せればいいのだが、こいつらが対策を打たないわけがないな。

監視役が付く程度なら振り切れるだろうが、魔法や魔道具が怖い。

...こいつらの言いなりになるくらいなら思い切って戦うか?


「ちなみに、死罪の場合は国家転覆罪を適応させてもらおう。お前だけじゃなく、お前と関わりのある者全てに死罪が適応されるからな。」

全てを見透かしたように、王は無慈悲に告げる。


「なるほどね、周りを巻き込んででも俺を死地に送りたいわけか。やり方が汚えなぁ!このゴミがっ」

再び衝撃が後頭部を襲う、騎士風の男にまた殴られたみたいだ。

「いい加減にしろ!お前のような犯罪者に恩赦が与えられているのだぞ!ゴミはどっちだ!」


痛えな、結局お前は騎士なのか騎士風なのかどっちだよ。

後で絶対仕返ししてやるからな。


「よい。そんな事よりお前はどちらを選択するんだ。」

「...くそっ!いいよ、命令とやらを受けてやるよ!」

「よくぞ決断した。お前が無事戻ってきた暁には望む報酬を用意しよう。」

表情はそのまま、口だけが小気味よく動いた。


心にもない事を淡々と述べやがって。

調査団を助けた時点で詰んでいたんだろうな。

移転魔法を何回も使えるくらいだし、本当はあいつら末端でもなく正規の実力者だったんだろう。

...仕方ないか、エリスのみんなを巻き込んでまで楽に死にたくないしな。


旅立ちを(無理矢理)決意した後は早かった。

騎士風の男に別室に連れて行かれ、服を全て脱がされる。

動揺したがケツを売るようなことはなく、手を縛られたまま魔法陣に座らされた。


騎士風の男が出て行ったあと、ローブを纏った五人の女性が入ってきた。

それぞれが均等に魔法陣の上に座り、詠唱を唱え始める。

ざっくり1時間程度で詠唱は終わり、俺の身体には"呪詛"が刻まれた。


呪詛とは人族が生み出した"人工的な魔法"だ。

本来の魔法は空気中の魔素を体内の特殊な器官に流すことで特定の事象を発生させる技術。

特殊な器官を有していて、さらに魔素の扱いに長けている、限られた者のみの才能である。


そんな魔法を才能のない者が行使できるようにしたのが呪詛だ。

体内に人工臓器を埋め込むことで、魔素の扱いや魔法の行使が可能になる。

本来は生まれ持った魔法しか利用できないが、呪詛であれば任意の効果を発現できる。


ただし、呪詛の発動には同一の臓器を埋め込んだ複数人での詠唱が必須だ。

さらには発動には精神を病むほどの苦痛が伴い、9割は数年以内に命を自ら断つらしい。


俺が受けた呪詛の効果を術者に確認すると、予想通り位置の特定だそうだ。

俺の魂と肉体の情報を5人に記憶させ、特殊な地図に位置をマーキングできるらしい。

効果はそれだけじゃないとは思うが、教えてくれたのはそれだけだった。

遠隔での肉体破壊なんかもできるんだろうな。

逃げたりさぼったと判断されたら遠慮なく"捨てられる"だろう。


呪詛の刻印が終わり、ようやく手の拘束を外された。

部屋の外では騎士風の男が待っており、出口まで案内された。

さあ、逃げも隠れもできない絶望的な冒険の幕開けだ。


「ここで少し待ってろ。」

騎士風の男は数分離れた後、俺の剣や荷物を持って戻ってきた。


「お前の持っていた荷物はこれで全てだ。...あと、これは餞別だ。」

騎士風の男は世界地図と、1週間は優雅に暮らせるだけの金銭を渡してきた。


「ん?どういう風の吹きまわしだ?」

「昔から続く風習だ。魔族の領土に旅立つ者に路銀を渡しているんだ。」

「ふーん。そんな奴滅多にいないと思うが。」

「俺たちは正規の騎士ではなく王の私設兵だ。元上位冒険者や各国の優秀な騎士が招集されている。要するに、いつかは前線に旅立つ者たちの集まりだ。」


騎士風の男は騎士風なだけだったか。

騎士は国に忠誠を尽くして行動すべてに規律が求められるが、こいつらの動きはどうも違和感があった。

そうか、こいつも被害者なんだな。


「心中お察しするよ。まあ、俺の働き次第では出番はないかもな。」

「ははっ、前線に出るのは精鋭部隊だし、慰められるほど弱者でもない。むしろ、お前は自分の心配だけしてればいい。」

「そいつはどーも。悪いが俺もそんなに弱くないぜ?」

「あまり図に乗るな。そもそも真の強者なら俺たちと共に前線に向かっている。"前線に立つ価値はないが放っておくのはもったいない"程度の実力なんだ、お前は。」

「わかったよ、忠告どうも。...まあ、無一文だからありがたく頂くよ。」


私設兵の男から荷物と金銭を受け取り、街に向かった。

しかし、面と向かって嫌な事いう奴だったな。

ちょっとでも被害者として同情したのがばからしいや。

まあ、お金貰えたし忘れよう。


道具屋で1週間分の荷物が入る大きな背負える鞄と、薬や砥石を購入する。

その次は服屋で数着の衣服と下着を購入し、早めに宿を借りて荷造りを開始した。

それにしても、急に転移させられてそのまま出発なんて本当にくそだな。

簡易テントや携帯調理具、そして着火具など冒険への必需品がまるで足りない。


そういやこの任務についてどこまで他人に話していいんだろうか。

呪詛の効果に情報秘匿は含まれていなかったと思うが。

いらん事言って怒られても面倒だし、私設兵の男に聞きに行くか。


冒険に足りない道具を揃えがてら、再び城に向かい私設兵の男に声をかけた。

「なあ、聞き忘れたけど俺の任務って人に言ってもいいの?」

「なんだお前、馴れ馴れしいな。ここは許可なく近寄っていい場所ではない。立ち去れ。」

「は?おいおい、さっき餞別くれただろ?用が済んだら他人のフリか?」

「...?何を言っている。私は今日ここから動かず、誰とも話をしていない。」


なるほど、俺と関わった人間の記憶を消すっていう効果があるのか。

これなら守秘義務を与える必要も、情報統制をする必要もないな。

全く、恐ろしい呪詛の効果を考えつくもんだ。

まあいい、検証がてら殴られた仕返しでもしようか。


「すまない、勘違いだったようだ。」

「ふんっ。下民は身の丈に合った行動を弁えろ。」


お腹の防具が薄い箇所を狙い、思いっきり拳をぶつけた。

「かっ!?ぐっ、なに..をす、げほっげほ!」

しばらくは呼吸をするのも苦しいだろう。

ダッシュでその場を去り、街の人ごみに消えた。


その後は何食わぬ顔で道具を買いそろえ、ぐっすりと布団で眠りについた。

翌朝は荷造りを終え、最後に武器の手入れをして宿屋を発った。

さて、検証結果はどうだろうか。

少しばかり緊張しながら城に近づいた、同じ私設兵の男が立っている。


遠くからこちらを見たはずだが、特に反応はない。

近づいて声をかけてみる。

「すみません、リーグ共和国にはどの門から出るのが近いですか。」

「リーグ共和国か。それなら南門が近いぞ。最近は魔物が活発だから気を付けるように。」

「ありがとう、それでは失礼。」


かなり強力な呪詛だな、危害を加えても無効化することができている。

これだけ強力だと術者の負担は相当なものだろう。

それに、エリスでの俺の存在は消えてしまったんだろうな。


「仕方ない、余生を楽しむことにするか!」

自分に言い聞かせるように呟き、リーグ共和国に向けて旅立った。


リーグ共和国は人族の食糧生産の中心国家だ。

魔族の領土と隣接しておらず、他の国より平和で農作が盛んに行われている。

確か国民の8割が食糧生産に携わっているとか。

リーグ共和国で物資を補給しつつ、その先のグランダ公国を経由して魔族の国に入る予定だ。


リーグ共和国は飯が上手いし楽しみだが、グランダ公国を経由するのは正直気が引ける。

あの国は魔法至上主義だからなー、魔法を使えない者の扱いはまあひどい。

そういえば修道院の神父様は元気かな。

二度と会わないと思っていたが、経由するなら顔を出しておきたい。

...まあ、俺の記憶は呪詛で消えてしまっているかもしれないけどね。

教えてもらった南門から街を出て、街道をまっすぐと進んだ。


ラース・センテの街を出発してから1週間、地図によるとこの辺りに村があるはずだ。

ここまで運よくあまり魔物と遭遇することなく進むことができた。

少なすぎて食料不足の心配をしたが、森に入れば獣がいたので困ることはなかった。

テント泊を続けるのは正直しんどい、そろそろ布団で寝たいものだ。


村を探しながら歩いていると、空気が張り詰めているのを感じた。

空気中の魔素量が減った時に感じるピリつき、誰かが魔法を行使している。

辺りを警戒していると、森の先で火柱が上がるのを確認できた。


おいおい、あそこ村があったりしないよな?

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