第3話:中心国家への連行
コカトリス討伐の翌日、少し遅めの時間に起きた。
昨日は調査団を名乗る奴らを助けるためにダッシュしちまった。
足が筋肉痛で少し痛むが、まあ歩けないほどではない。
いつも通り床に布を広げて剣の手入れを開始する。
寝る前に簡単に血は拭ったが、本当なら当日中に手入れをした方がいい。
濡らした布で汚れを拭きとり、鉱石の粉末でさらに汚れを浮かす。
汚れを取り除いたら砥石で刃を研いでいき、最後に薄く油を塗っていく。
正しい手入れの方法なんてものは知らないが、俺が育った修道院で教えてもらったやり方だ。
親の顔も知らない捨て子の俺を快く受け入れてくれた神父様。
餞別としてくれたこの長剣は一生使い続けたい。
手入れが終わった長剣と短剣を腰に装着し、昼食のために酒場に向かった。
酒場の扉を開けるとシーラとルーダが何やら深刻そうな顔で話こんでいる。
「よぉ、何かあったのか?」
「あ!ウィルさん!」
「出会い頭にすいません、ちょっと冒険者ギルドに来てもらえますか?」
「あー、朝も抜いているから食事の後でもいいか?」
二人は顔を見合わせて黙り込む。
どうやら嫌なことが起きているみたいだな。
「...ウィルさん、実は調査団の皆様に呼ばれておりまして。」
「ふーん?なんだか面倒くさそうだな。」
ルーダの顔が曇っている。
「わかったよ。シーラ、パンに肉を挟んで持ってきてくれるか?食べながら向かうよ。」
「はーい。ルーダ姉、少しだけ待ってくれる?」
気まずい沈黙の中、食事が来るのを待つ。
しばしの沈黙の後、ルーダが重い口を開いた。
「ウィルさん、ごめんなさい。私では庇いきれませんでした。」
「ん-?どういうこと?」
「今まで大型魔物の討伐実績の報告を止めていましたが、それがまずかった見たいです。」
「なるほどねー。人材不足のラース・センテ国様がお怒りになられているのね。」
実力者を戦地に送って内地は安全に暮らしたい。
そんな中心国家の冒険者ギルドにとって、地方で遊んでる実力者は気に食わないのだろう。
ただ、俺なんて所詮は中位冒険者相当だし、地方を守らせてほしいもんだけどな。
「はい...。その件でどうやら話がしたいようでして、その、なんというか...。」
「いいよ、ありがとう。その先は直接話をしてくるよ。」
ちょどいいタイミングでシーラが食事を持ってくる。
「お待たせ、持ち運びできるように小さく切っておいたよ。」
「お、待ってました!料金は戻ってからでいいか?」
シーラは驚いた顔をした後、目に涙を浮かべながら唇を嚙み締めた。
「...うん。必ず戻ってきてね。」
酒場の扉を開け、冒険者ギルドに向かう。
え、なにあの反応。
お説教くらう程度だと思ってたけど、もしかしてヤバイやつ?
なんか急に足取りが重くなってきたんだけど。
だらだらと歩いて冒険者ギルドにたどり着くと、入り口の前に調査団が立っていた。
「ラウジディー・ウィルギス殿、遅かったですね。」
「やぁ。飯食いに行ったら急に言われたんでね。むしろ早いだろ?」
代表らしき男がすこしムッとしたが、すぐに真顔に戻った。
「まあいいでしょう。少し奥で話をしましょうか。」
ギルドの奥の部屋に連れて行かれ、四人と向かい合って座る。
「私たちがこの街に来た本当の理由、それは魔物の消失反応です。」
代表の男が淡々と話を続ける。
「各街の冒険者ギルドには魔物を観測するための特別な装置が設置されています。魔物の侵略が迫っていないかと、魔物の討伐漏れによる危機を回避する目的です。」
「なーんか、冒険者にとっては疑われているみたいで嫌だね。」
「実際に偽装討伐もありますからね。」
男は顔色を変えることなく続けた。
「ここ数年、この街エリスで大型魔物の謎の消失が相次いでいました。しかし冒険者による討伐の報告はあがっていない。我々は未知の魔物による魔物虐殺を疑っていたのです。」
「"我々"って。末端の調査員が偉そうに何言ってんだか。」
この言葉でようやくイラつきの表情を浮かべる。
対人戦では相手の心理を揺さぶるのが重要だ。
心の乱れをいかに生み出すか、そこにつけ入る隙が生まれる。
「...あなたの言う通りですね。では、結論を述べましょう。」
「未知の魔物の正体、それはあなたです。」
「人を魔物扱いか、これだから中心国家は礼儀がなってないな。」
「いいですか、実力を持つものが正しくそれを行使しない。これは重罪です。強者は弱者を救う義務がある。あなたは強者でありながら、その責務を果たすことなく隠ぺいした。」
「おいおい、下位冒険者の俺がコカトリスを運良く討伐したのが気に食わないのか?」
「攻撃を受ける間もなく慣れた手つきで討伐してました、あれのどこが"運良く"ですか。このギルドの大型魔物の討伐履歴を見せてもらいましたよ。」
ルーダは無理言って俺の実績を隠してくれた。
その責任はちゃんと俺が背負わないとな。
「まあ、バレちゃったら仕方ないか。実は受付の姉さんを脅して報告を隠してもらってた。中位冒険者として頑張るより、下位冒険者でフラフラしたかったからな。」
「はっ、クズが本性を現しましたね。では正式に宣言させてもらいます。」
「ラウジディー・ウィルギス殿、あなたに違反行為が見られたのでラース・センテ冒険者ギルドで尋問を行います。」
男の言葉の後、周りを光が包んで真っ白な世界が広がった。
一瞬なのか膨大な時間が過ぎたのかもわからない、時間間隔を失った空間を漂った。
意識を戻して視線を前に向けると、目の前には身なりの整った女性が座っていた。
俺の武器は腰から消えており、手も後ろで縛られている。
おいおい、完全に犯罪者扱いじゃねえか。
そこからは淡々と時間が過ぎた。
話をまとめると、転移魔法でラース・センテの冒険者ギルドに連れてこられたようだ。
距離が遠かったのと拘束魔法を兼ねる必要があり意識がフワついていたらしい。
実力を隠していたことに関しての尋問と説教が4時間ほど続いた。
「これからは実力を正しく行使するように。」
「はーい、以後気を付けまーす。」
「...さて、もちろん信頼できないしこのまま帰すつもりはありません。」
「おいおい、監禁でもするつもりか?」
「あなたのこれまでの実績は、十分上位冒険者として通用するでしょう。この後は上位冒険者として活動するために面接を受けてもらいます。」
「勘弁してくれ、そんな柄じゃない。」
「先ほどお伝えした通り、能力の独占は重罪です。このまま面接会場に連行します。」
両手を拘束されたまま、騎士風の男たちに紐で引っ張られた。
一体どこに連れて行かれるのやら。
それよりも俺の愛剣は返ってくるんだよな?
しばらく歩いた後、大きな扉の前に跪かされる。
「これより、上位冒険者候補に王への謁見が賜られる!」
「王の寛大な御心に感謝の上、嘘偽りなく質問に答えよ!」
扉が開かれた先に、玉座にふてぶてしい男が座っていた。
中心国家で人族の頂点に立つ男、ラーサー4世。
魔族との前線に勇者と上位冒険者を送り込んでぬくぬくと暮らしている王族。
俺が最も嫌いな、安全な後方で偉そうにしている馬鹿。
王が気だるそうな顔をして口を開いた。
「お前、上位冒険者として戦地で死ぬ覚悟はあるか?」
「はっ!そんなもんあるわけないだろう!」
騎士風の男に殴られた。
「口の利き方に気を付けろ。本来お前程度が一生見る事も出来ないお方だぞ。」
「よい。じゃじゃ馬を見るのも久しぶりだ。よい暇つぶしになった。」
ああ。頭に血が上るってこういう感じなんだ。
俺が今まで怒りだと思っていた感情は別物だったんだろう。
「自分の事だけを悩めばいい立場の奴が偉そうに値踏みしてんじゃねぇよ!戦地で散る命の事を想ったことはあるのか?お前の命で魔族の支配を買えたらさぞかし幸せだろうなぁ!」
「ははっ。品のない犬の遠吠えだな。まあいい。お前のような使い捨ての実力者を探していたんだ。」
王は顔色を一切変えずに笑った雰囲気を作り出す。
「お前、ここで死罪になるか特別な任務で死ぬか選べ。」




