3
翌日午前中のリハビリを終えて、またスケートリンクにやって来ていた。
昨日より早くついた結果、吾紅夜はちょうど昼休み中で、おにぎりを咥えながら話しかけてきた。
「ねぇ」
「何」
「私の恥ずかしい体験談聞いて」
「恥ずかしい体験?」
「あのね。こないだ、風邪引いて鼻水が止まらない日があったの。ゴミ箱がティッシュで一杯になるくらいだったわけ。で、その日友達が部屋に遊びに来たんだけどね。そしたら、友達に『あんたどんだけ自慰してんのよ』って勘違いされた」
「女の子が突然そんな体験談語ってんじゃねぇよ!」
「男の子はエッチな女の子が好き」
「やかましいわ! 俺は清楚な女の子が好きだ!」
「清楚な女の子が、いざ本番になるとエッチになるのが好き!?」
「お前ホント黙れ」
……こんな奴だけど! こんなエロで変態だけど、俺は尊敬している……一応。
「ところで、明後日からカナダ?」
グランプリシリーズ。
アメリカ、カナダ、フランス、中国、ロシア、そして日本。
世界六国で開催される六つの国際大会で、各選手は最高二大会に出場できる。
選手にとっては世界選手権、国内選手権、四大陸・欧州選手権に次ぐ大会で、世界ランキングに影響し、また調整の場として重要になってくる。
そして、この二体会の成績上位者六名は、最終決戦、グランプリファイナルへ出場できる。
この大会は、五輪、世界選手権に次ぐ世界で三番目に重要な大会で、メダルを取ったりすると世界選手権への出場が内定したりする場合もある。
「うん。やっぱ二日前にはついておかないと時差がねー」
試合は、初日ショートプログラム、二日目フリープログラムと、計二日。
「ま、適当に頑張れよ」
「カナダー!」
突然悠佳が拳を突き上げる。
「悠佳だー!」
とりあえずノッておく。
「…………」
「…………」
意味が分からない。まったく。
♪
「No.10! Yuka Akuya! Japan!」
場内のアナウンスに会場は弾ける。
やっぱり、海外は良い。
だって、私を罵るマスコミが少ないから。
会場にいる客もほとんどは外国人。海外にまで応援に来る日本人は、生粋のファンだけで、決して興味本位な人達はいない。
ただ、自分の演技をすればそれで良い。ただ、良い演技をすれば、客は喜んでくれる。
私は広いスケートリンクの中央に立つ。
見渡せば一面の観客が私を見つめている。
さぁ行こう。
観客を楽しませる。
そして、見せ付けるのだ。吾紅夜悠佳は愚かなマスコミには負けていないと。
吾紅夜悠佳の今期のショートプログラム。曲は〝カルメン〟。




