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2.

「ええっと、何だ。久しぶりだな」

「うん。久しぶりだね」

 吾紅夜と会うのはおそらく八ヶ月ぶり、五輪の直前の記者会見会場で見て以来だ。

 この八ヶ月。

 人生で一番つらい期間だった。肉体的にも精神的にも。リハビリから逃げたこともある。

 けどそんなの吾紅夜に比べれば別に大したこと無いだろう。

 トリノ五輪を目の前に控えた昨シーズン。

 吾紅夜は母親を交通事故で亡くしたのだ。

 だが、吾紅夜は強かった。一ヶ月で練習を再開、母親のために五輪でメダルを取ると練習に練習を重ねた。

 そして全日本選手権。

 代表二人が内定してる状況で、ライバルの愛湖原智歌<あこもと ともか>との接戦の末、五輪への最後の切符を勝ち取った。

 そして、母親との約束をかけて挑んだ五輪。

 初日のショートプログラム。一位との差僅か0,5点で四位につけ、翌日のフリースケーティングに望んだ。

 翌日のフリー。冒頭に世界最高難度のジャンプ、四回転トウループに挑んだ。

 結果。

 ショート四位。フリー十五位。総合十四位。

 余りにも残酷な結果。

 そして各種マスメディアは彼女を攻めた。

 『愛湖原が出たほうが良かった』『期待外れ』『日本の恥』。

 それが、たった十六歳の少女にかけられた言葉だったのだ。

 良いはずが無い。

 ただ痛いだけだった俺の八ヶ月など、そうしてマスコミにいじられネットで叩かれて過ごした八ヶ月に比べればなんて幸せなことか。

 本当に。本当に彼女はすごい。

 スケートだけじゃない。人間としても強かった。

 この八ヶ月、俺が頑張れた理由の一つは、彼女が頑張っていたから。彼女がスケートを続けたから、俺も頑張ろうと思った。

 俺にとって、吾紅夜悠佳は、誰よりも尊敬できるスケーターだ。

 例え……変態でオタクであったとしても!

「そうだ、真琴くん、今度からここのスケートリンクの所属になるんでしょ?」

「ああ」

 俺がリハビリに勤しんでいる間に、リンクが経営難で潰れてしまった為、俺はここ、クイーンホテルアイスリンクの所属になる予定だ。

「じゃぁ、これからはリンクメイトだね! よろしく」

「ああ、こちらこそよろしく」

 俺は差し出された手を握り返す。

 その華奢な手は冷たい。氷の上で何時間も練習しているのだから当然だろう。

「そうだ、ちょっと教えてよ」

「何を」

「エッチなことを」

「まだ言うか!」

「ごめん。ウソウソ。ジャンプジャンプ」

「は? そんなのコーチに教えてもらえよ」

「今日いないの。あの人忙しいから」

 あー。そういか。

 吾紅夜のコーチは五人の五輪金メダリストを輩出した名コーチで、生徒数も多く、一人に付きっ切り、というわけには行かないのだ。

「何、俺はなにすれば良いの?」

「ジャンプの軸がゆがんでないかとかチェックして」

 そう言って彼女はリンクサイドから離れていった。

 

 ♪


 結局、吾紅夜が八時に練習が終わるまでリンクで過ごした。

 と言っても、ほとんどリンクで読書をしたりリハビリをしたりして、吾紅夜の練習を見ていたのは二時間程度だったが。

 で、リンクを出るまでの短い道を二人で歩いていた。

「なぁ吾紅夜」

「ん?」

「お前はカナダ杯とNHK杯だったよな?」

「うん」

「そっか。NHK杯は俺も見に行くからさ、まぁなんだ、怪我しないようにな」

 そう言うと、彼女は笑顔で頷いた。

「それと、まぁちょっと先になるけど、リンクメイトとして、改めて、これからよろしくな」

 

 ♪

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