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とりあえず、それから悠佳の風邪は全快し、既に練習も再開している。
あわよくば俺に風邪が移って、今度は悠佳が俺を看病……、などというおいしい展開は無く。俺はいたって健康である。
「この辺で、サービスシーンが欲しいところよね」
「はい?」
隣でボンゴレを食べ終わった悠佳が、突然そんなことを言い出した。
「……悪い。意味が分からない」
「意味が分からない? そのままよ。良い? ちょっと読み返してみて」
「振り返るの間違いだろう」
メタ的発言は止めて欲しい。
「だって、私達エロ関係のトークはしているけれど、実際にエロイベントは一切無かったじゃない!」
そうだな。結局、更衣室にも行かなかったし。キャミソール姿の悠佳も見られなかったし。
「そーだ。ここにミルクがありまーす」
悠佳が、コーヒーに付いている、カップミルクを持ち上げた。
「ほぅ」
なんとなく言わんとすることは分かるが。
「これが間違って毀れたりしたら、エロい図になる」
「サービスシーンと言えるかどうか怪しい上に、文字では伝わらない」
しまった。自分でメタ発言してどうする。
「ところで、半身浴が健康に良いと聞いて、右と左、どっちを下にすれば良いのかを真剣に悩んだ経験がある真琴くん」
「そんな馬鹿な経験をした覚えは無い」
「今日、楽しみにしてるから」
不意打ち。
……それは俺も同じことだった。
今日が、約束の十日。人生で初めてのデートの日である。
この日を指折り、機織り、勝負降り、待ち続けていた。
無論、そんなことは悟られまいと、平然を装う。
「真琴くん、なんか表情が作り物っぽい」
「……マジか」
「マジアカ」
「俺は賢者」
見事なコンビネーションで一つのオタクワードが完成した。
「ともかく。練習八時終わりだから、八時過ぎリビング集合ね」
「おう」
人生初のデート(と俺は認識している)。
これほど楽しみなことがあるだろうか(いや、無い)。
俺は古典で習った反語表現を思い出しつつ、妄想にふけるのだった。




