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 ♪


 廊下を歩いていると、途中で吾紅夜に合った。

「よぉ。吾紅夜」

「真琴くん」

 吾紅夜は既に衣装に着替えていて、その上から日本代表のジャケットを羽織っている。

 それを見て、俺は不謹慎にも、ああスタイルが良いなと思ってしまった。

 と言うか、日本期待の若手十七歳は二人とも胸が大きい。おそらく、ここ数年のフィギュア人気にも一役買っているに違いない。そう考えると、日本スケート界にとって、大切なチェストだな、などと思ってみる。

「俺キスクラの後ろから見てるから」

「うん。ちゃんと見ててね」

 多分、緊張しているだろう。なにせ、グランプリファイナルへの出場権がかかっている。

 グランプリファイナルは、世界で三番目に重要な大会、という位置づけではあるが、選手にとっては実際そこまで大切で無い場合もある。

 だが。

 今年は、これがとても重要になってくる。

 連盟はこう発表した。

 グランプリファイナルで日本人最高位且つメダルを取った場合、その選手の世界選手権出場が内定する。

 もし内定すれば、全日本では安心して調整だけに集中できるため、逆に、この大会は緊張するだろう。

 ギャグの一つでも言ってコイツの緊張を和らげてやりたい。

 と思って、口を開こうとしたとき。その前に吾紅夜が口を開いた。

「そう言えばさ」

「何だ?」

「奉仕って言葉に対して、真琴くんはどんなイメージを持つ?」

「奉仕? ボランティアとかのことか?」

「そうそう」

「まぁ、良い事なんだなって思うけど」

「そう。でもね、これをもし〝丁寧〟に言ったらどうなる?」

「ん? 奉仕でございます?」

「違う! 奉仕って名詞自体を丁寧な言葉に」

「名詞自体って……、ご奉仕?」

「そう! もう一回言ってみて」

「ご奉仕」

「してさしあげます」

「…………」

「〝ご〟が付いているだけで、エロティックな単語になるでしょ!」

 やっぱりコイツ変態だ!

「なぁ。それ言ってて、楽しいか?」

「殿方の前で猫耳少女が膝を突いて『ご主人様の……大』」

「頼むから黙ってくれ!」

 ギャグなんて必要なかったな! コイツは全然緊張していない!

 無駄話をしていると、会場から拍手の音が聞こえてきた。

 どうやら、六番滑走の選手が演技を終えたらしい。

「じゃぁ、私そろそろ行くね」

「おう」

 一瞬、頑張れ、と声をかけようか迷ったが、やめておいた。

 こいつにそんな言葉は必要ないだろうから。

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