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「あのね。来週、NHK杯なんだよ」
吾紅夜が腕を後ろで組みながら、こちらを上目遣い(身長差的に必然)に見つめてきた。
「そーだな」
今年の会場は電車で行ける場所にある(去年は九州のほうだったので、それに比べればかなり近い)。
「応援とか来てくれるんだよね?」
吾紅夜も智花も出るんだし。どうせ練習もちょっとしか出来ないんだから行っても構わないだろう。
「そうだな。試合の感覚、ちょっとでも思い出したいし。そうだ、優勝したら一つ、何でも言うこと聞いてやるよ」
俺、なんていい人! 俺は知っている。吾紅夜はご褒美で伸びる子だ(たぶん)。
「本当?」
「ああ」
そう言うと吾紅夜は満面の笑みを浮べた。
「そっか。そっか。分かった。頑張るよ」
「おう頑張れ」
そこまで言って、俺はあることに気が付いた。
今年のNHK杯。試合には吾紅夜だけでなく、智花も出場するんだ。
と言うことは、必ず勝敗と言うものが存在する。
試合の後、俺を中心に二人が集まったら、かなり気まずい。
フィギュアスケートでは、同立一位というのはほとんど無い。
というのも、順位はSPとFSの合計得点、総合得点で競われる。
そして総合得点が同じ場合、FSの得点が高いほうが順位が上、というルールがあるからだ。
つまり、順位が同じになるには、SPもFSもまったく同じ得点でなければならないのだ。
ジャッジに不正があったため、金メダルが二人、という場合が過去にあったが、それは正しい採点の元での同立一位では無い。
麻雀で天和<テンホー>で上がるのとどっこいな気がする。特に統計は無いのでフィーリングだが(ちなみに天和は三十三万分の一)。
けれど俺としては、この大会、そういう奇跡が起きてくれたらなと願った。
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グランプリシリーズNHK杯初日。
出場選手は十二人。日本は、他国に比べスケート人気が高いので、会場は満席。
これが中国杯とかロシア杯とかだと、がら空きで、かなり寂しい。無論、客が多いとプレッシャーを感じてしまうこともあるが。
現在、第二グループが六分間練習を始めている。
今回、智花は第一グループの一番滑走で、既に演技を終えている。
第一グループが終わった時点で暫定一位。
ミスは無かった。
ただ、冒頭の三回転三回転のコンビネーションを、三回転二回転に変更した。
無論、それでもきちんと高難度のジャンプではあるので、他の選手に負けるようなことは無い。
けれど、もし、三回転三回転に挑んで成功していたら、それこそ自己ベストを大幅に超えることになっていただろう。
まぁ、どちらにせよ、二位以下には大差を付けている。
吾紅夜は第二グループの二番滑走。
後一分で六分間練習が終わる。
その表情は硬い。
入念に、コンビネーションジャンプを確認しているところからして、三回転三回転を狙ってくるだろう。
さて、問題はそれが成功するかどうか──。




