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21.美しい彼女と私




「リリアーヌちゃん、少しいいかしら」


 今日はたくさん呼び止められる日だと思う。


昼休みになったので、ノエル様に呼び出された裏庭へ行こうとしていたところ…まさかの人物に声をかけられた。

私よりも高い身長、ほっそりした長い手足、明るく鮮やかなオレンジ色の髪…目の前の彼女は今私が一番会いたくなかった人物。


「アンナ様…」


「学園でこうして話しかけるのは初めてよね、ごめんね。どうしても言っておきたいことがあって…」


困ったように眉を下げるアンナ様。その表情も儚く見えて綺麗だった。

アンナ様が私に言いたい事…何か気になるが、きっとレオン様のことだろうと察しがつく。

人のいない空き教室へ向かうまでの間、私はアンナ様にバレないようにグッと拳を握り身を固くした。


 空き教室に入り、アンナ様と向かい合う。

アンナ様は私なんかより背が高いから、見下ろされているように感じる。



「リリアーヌちゃん、今日私達の教室に来てたわよね?入ってこなかったけれど」


「え…」


「廊下にいたのを見たから知ってるわ。もちろんレオンも見てたわよ」


まさか、アンナ様とレオン様に見られていたとは…。

呆然とする私に、アンナ様は目つきを鋭くした。


「レオンという婚約者がいるのに、他の男性に頭を撫でさせるなんて…淑女としてもう少し行動にはお気をつけなさい」


ああ、募金先輩が恋人の惚気を話していた時。確かに頭を触られたが…そこから見られていたのか。


「貴女の行動一つでレオンの評判が下がることは、私が許さないわ」


優雅な動きで腕を組んだアンナ様に、ハッキリと言われた。

…でも、悪いけど。こちらだって一言、物申したい。


「…婚約者のいるレオン様と肩が触れ合うほど近い距離で勉強をするアンナ様は、淑女として如何なのでしょうか」


私はジッとアンナ様を真っ直ぐに見つめた。

アンナ様は更に私への視線を鋭くしたが、すぐにフッと口角を上げた。


「見放された土地の経営が落ち着くまでの婚約なんですってね、フレデリクから聞いているわ。内密にするようにとも…」


「……」


「全てを終わらせて、レオンは私の元へ帰ってくるのでしょう?ならば今は近しい友人として彼のそばに私が居ても何もおかしくないわ。いずれまた婚約者になるのだもの。それに親のせいで別れさせられて可哀想だ、と周囲はわかってくれているの。だから触れ合わなければ近くに居たって誰も私達を咎めないわ。ただ…レオンが私の所へ戻ってくるまでの間、レオンを傷つけたりレオンの評判を下げるような事はしないでほしいの」


「わかってちょうだいね」と、最後にアンナ様は言って部屋を出て行った。

私は、しばらくその場から動けなかった。


…どの口が。どの口が言ってるの。


レオン様が困った時に助けもせずに見放したのはどこの誰。そうしてレオン様を傷つけたのはどこの誰。


全部あなたのご実家ですよね、アンナ様。


レオン様がピンチの時に手を差し出さなかった、貴女だけには言われたくない。

でも…レオン様がアンナ様の元へ戻るのは確実な未来なわけで。


憤りを感じて、拳が震える。悔しくて、ジワッと涙の膜が張る。

…こんなことで泣いてやるもんか、と自分を奮い立たせるしかなかった。


誰がなんと言おうと、今のレオン様の婚約者は私なんだ。大丈夫、今は私にやれることをやればいい。

…呪文のように何度も呟いた。


そしてまたこうして呼び出されて説教されるのは御免だから、募金先輩には接触禁止令を出そうと決めた。



 少し経ってから、約束の裏庭へ。

周囲を見渡しても、ノエル様は居ない。むしろ誰も居ない。キョロキョロと辺りを見渡していると、背後に人の気配がした。


…と、同時に。私は声にならない声を出した。


「……ッ?!」


ーーバシャッ、と。背後から大量の水を掛けられた。


振り返ると、以前喧嘩をふっかけて来た上級生の令嬢五人組が、空になったバケツを持って笑っていた。


「あらやだ、ごめんなさい。つい手が滑ってバケツの水を溢してしまったわ…!」


「ふふふ、水も滴る良い女ですこと!」


クスクス笑う令嬢達を冷めた目でジッと見据えた。


「…この前の仕返しですか?」


「フンッ、あのまま黙って引き下がるわけないでしょう!これでようやくスッキリしたわ!」


「それから、ノエル様は今日は学園をお休みしているわ!全部貴女をここに呼び出す為の嘘ですの!まんまとやって来て、本当に馬鹿な子ね!」


ホホホと、下品な顔をしてあざ笑う令嬢達。


やっぱり、ノエル様がいちいち人を使って呼び出すわけがなかった。これは騙された私が悪い。










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