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20.募金先輩と私




 教室に入る前の廊下から、兄とレオン様を見つけた。


久しぶりに見たレオン様は、遠くから見てもわかるくらい元気そうだった。


ここからでは横顔しか見えないが、以前に侯爵家で見たような疲れ切った姿はどこにもなく、むしろ顔の血色も良くなっていて、かっこよさに磨きがかかっていた。

さらに漆黒の髪が陽の光を受けて、キラキラと輝いている。


そんなレオン様が見れて嬉しい反面、心臓をギュッと掴まれたような、なんとも苦しい気持ちになる。



ーーレオン様の隣には、アンナ様がいた。


二人は机をくっつけて、勉強を教え合っていた。

もちろんその机の向かい側にフレデリクお兄様もいて、三人で勉強をしている光景なのだが…。


レオン様とアンナ様は今にも肩が触れ合うくらい、近い距離で。


真剣に勉強を教え合っているって、わかっているのに…

たまにクスクスと笑い合っている二人を見ると、胸が締め付けられた。


教室の中まで入りたくても、足が動かなかった。

声をかけたくても、声が出なかった。


いつもの私なら、きっとその輪の中に入ろうとしていただろうに。

体調を崩しているせいかな、今は無理だった。


先ほどレベッカから優しい微笑みで送り出してもらったのに、どんどん気持ちが沈んでいく。



「あ、募金ちゃんだ」


一人で廊下にポツンと佇んでいると、声をかけられた。

振り向くと、毎日募金に来て私達と世間話をしてくれる貴族子息さんだった。


いつも三人組で来てくれる貴族子息さんのうちの一人。焦茶色の少し長い髪を後ろで一纏めにした、少しお洒落な彼。

彼は三人の中でも一番のおしゃべりさんで、よく私の事を「募金ちゃん」と呼ぶ。


「こんなところでどうしたの?あ、フレデリクとレオンに会いに来た?呼んでこようか?」


「あ、いい!いいです!大丈夫です!」


私は咄嗟に拒否していた。

多分、今レオン様に会ってもうまく笑える自信がない。


貴族子息さんはそんな私をキョトンと見つめ、私が背にしている教室に目をやった。それから「あー…」と呟いて、どうやら察してくれた。


「なんか用事だったんだよね?俺が二人に伝えとこうか?」


優しい。名前も知らない貴族子息さん、優しすぎる。

今はその優しさに甘えさせてもらおうと思った。


「二人にこのランチボックスを届けに来たんですけど…レオン様には先にいつもの場所で食べててくださいと伝えたくて…」


「オッケー、俺が代わりに渡しとくし伝えとくよ」


そう言ってニカッと爽やかに笑う貴族子息さん。

安心できるその人に、私は「すみません、よろしくお願いします」とランチボックスを手渡した。


確かこの人、幼馴染のメイドさんと恋仲だって言ってたな。募金しに来てくれた時によく惚気を聞かされる。


「最近、幼馴染さんとは順調ですか?」


気を紛らわせたくて話を振ってみた。

案の定、貴族子息さんは蕩けるような顔をした。


「そうなんだよ〜順調すぎて困るというか〜この前も俺の晩ご飯にハート型のにんじんを入れてくれててさ〜いちいち可愛いことをしてくれるんだよな〜、可愛すぎてたまらんのよ!」


そう言って、貴族子息さんは気持ちの高ぶりを私にぶつけるかのように、わしゃわしゃと私の頭を撫でた。

そんな貴族子息さんの方こそ可愛くておもしろくて、私は気づいたら笑っていた。


「募金ちゃんはやっぱ笑顔が似合うね!あんなの気にすることない、気にしたら負け。恋の先輩の俺からのアドバイス!」


「ふふ、募金先輩のアドバイス、しかと心に刻みました」


「え、待って、募金先輩って俺の事?やだなぁ、もっとかっこいい名前にしてよ」


「ふふふ、私の事も募金ちゃんって呼ぶじゃないですか。なので私も募金先輩と呼ばせてもらいます」


「ちぇ〜、しょうがないな」とわざと拗ねた顔をする募金先輩がこれまたおもしろくて、私はクスクス笑った。

「じゃ、また募金しに行くね〜」と言った募金先輩。お兄様とレオン様の教室に入っていこうとしたので、私も満面の笑みでお礼とお辞儀をした。


そして私はそそくさと自分の教室に走って戻った。


募金先輩のおかげで、沈んでいた心が少し軽くなった気がした。本当にありがたかった。



ーーでも。


募金先輩と喋っていたところを誰かに見られているなんて、その時の私は全く気づかなかったし、考えてもいなかった。






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