モラル
街に戻ってきた俺は、早速クエストボードを見て採取してきたものと見比べる。幾つか該当するものもあったが流石に買取金額が安い、とは言えお金も必要になってくるし、今は持っていても仕方ないので売却しておく。
因みにクエストの受注については条件さえこなしていれば、その場で受注が可能だ。採取依頼の場合は所持品からアイテムを選び、クエストに添付するだけで達成した事になるので報酬の受け渡しは基本的に画面上で終わる。依頼者と受注者が直接会う必要性もないので安心して行うことが出来る。
「薬草30個で210ポル、相場は5個入りで35ポルだからその辺で拾ったものにしちゃいいんじゃねぇの?」
金額に満足して雑貨屋に行こうと噴水広場を離れようと思っていたのだが、端っこにいた金髪の女と如何にもな格好をしたならず者達が騒がしいので耳を傾けてみることにした。
「だから、何度来られても返答は同じですよ。先程も申し上げました通り、パーティでの行動はお断りさせて頂きます。この際なのでハッキリと言わせて、頂きますが私とあなた方の関係はあくまでも客と商人です、履き違えないでください」
「待ってくれよ〜アマネちゃん、そんな冷たいこと言わないで俺らとパーティ組んでよ〜」
「だから嫌だと言っているではありませんか!」
話の内容からするに、どちらかが生産職なのだろう。商人と言っていた彼女の容姿は物凄く整っているのに帯剣もしているし軽装もしている。だけれどもそれは、ならず者達も同様だ。分別つかないところでもあるし、手を出さない方がいいのか?
しかし、いよいよ女性プレイヤーの手を掴んでしまっているし、モラル的にそれはアウトだろう。強引な勧誘は時に人を不快にさせるし、ここは何より初心者プレイヤーの目に付く噴水広場だ。運営が叩かれようが知った事じゃないが、楽しんでゲームをしている連中に迷惑をかける事になりかねない。そう思った俺は会話に割って入ることにした。偽善者と言われようが知ったことでは無い。
「あの〜、申し訳ないんですけど強引な勧誘を噴水広場でするのは、ちょっと辞めていただきたいんですけど」
「あ!?おめぇには関係ねぇだろ!引っ込んでろ!」
強引な切り口で発言を遮られてしまったが、このくらいで凹む程、俺はやわでは無い。それに正当性で言うなら、オンラインゲームで空気を壊すような真似をしたコイツらが悪い。
「そういう訳にもいかないんですよ、俺は別にそこのお嬢さんと直接面識がある訳じゃないし、事情も知りませんけどね。強引な手口で勧誘するってのは不味いですって。もしかしたら誰かがこのゲームを生放送で流していて、この状況がうっかり映り込んでしまっている可能性だってある訳なんですから」
そう何を隠そうこのゲーム、生放送機能付なのである。だからこそ不正と言うか、モラルの無いような行動が写った場合、最悪情報が運営までリークされてアカウント停止にされてしまう危険性があるのだ。
「ちっ!行くぞテメェら!」
「ちょ、待ってくだせぇ!」
焦った表情を浮かべながら、ならず者達はどこかへと去っていった。
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『称号:秩序を示す者』を手に入れた。
『秩序を示す者』:模範的な行動を行い続けた時や間違いを行ったプレイヤーを排除した場合手に入れることが出来る。プレイヤーが敵だと認識した物を倒した時、獲得経験値が0.5倍になる。
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ならず者を追い払った瞬間、称号を手に入れてしまっていたのだが…大層な名前だけどそんなご立派なことはしていないぞ?まぁ貰えるものは貰っておくけれど。
「それじゃ、俺はコレで」
その場を立ち去ろうと思っていたのだが急に腕を掴まれた。
「あの〜?」
「あっ、すいません。その…流石に助けていただいてお礼を言わないのは失礼だと思って引き留めさせて頂いたんですけれど、いけなかったでしょうか?」
何故照れる等という鈍感系主人公の様な不粋な事は言わない。だって俺オタクだし。
「いや、全然構いませんよ。でも別に助けたと言えるような直接的な干渉はしていないでしょう?今回は無事で済みましたけど、もし次に現れたらどうするんですか?」
「少しだけお話を聞いていただいてもよろしいでしょうか?出来れば場所を変えて、着いてきてください」
このまま別れるのも気持ち悪かったのでそのまま彼女に着いていくことにした。すると、小さいけれどオシャレな店が見えてきた。
「ここが私のお店です、Cafeと雑貨屋を混ぜたようなお店ですが良かったら入ってください」
cafe『Amane』、看板にはそう書いてあった。見た目はシンプルに黒く看板の文字だけ浮き出るように白くしている。店の中は半分が雑貨、もう半分がカフェと言った感じだ。店の空気は珈琲豆の独特な香りが漂っていて個人的に凄く好きだ。NPCも居て、管理が行き届いているのが伝わる。
「凄いですね、まだゲーム発売して月日もそんなに経っていないのに」
「マオ、コーヒー2つとクッキーを。えぇまぁ私は一応βテスターでしたから、こうして経営が出来ているというわけです」
マオと呼ばれるNPCに向かって注文をしながら、さり気なくお手拭きを渡してくる彼女に胸キュンしたがこの程度で落ちるほど俺の恋心は貧弱では無いのだよ。
「それで俺にお話したいことと言うのは何ですか?」
「とその前に自己紹介を、私はアマネです。それで実は…」
話半ばに店内に入店してくる音が聞こえてきた。
「ちわーっす、あっ!いたいた、アマネ!」
「コトネ、早かったじゃない」
コトネと呼ばれる巫女服を着て日本刀を腰に帯剣した、白髪のツインテール娘はアマネを見るや否や隣へ陣どる。
「それでそちらの彼は?知り合いって訳でもなさそうだし、この前言ってた強引な勧誘?」
値踏みをする様な鋭い目付きで見られて少しぎょっとしたが、すかさずアマネがフォローを入れてくれる。
「いやいや、彼はその強引な勧誘から助けてくれたのよ。そのお礼も兼ねてお店に来てもらったの、コレ証拠の動画ファイルね」
ピロン♪とちゃちな音が鳴ったかと思えば、先程の映像が流れ始める。
「ごめんなさい、近頃アマネの周りで面倒臭い連中が増えてきてね。こうして警戒していないとすぐ絡まれるから、この娘」
「ちょっと、コトネ!」
場が少し和み、本格的な話を始めた。
「私の職業は統制者、集団の指揮を向上させてバフを掛けたりする職業よ。魅力的な職業も色々あったけれどβテスター時代パーティの役割分担を担うこの職業を私は気に入っていて、だからこそ本サービスでもこの職業にしたの。でも結果的に近づいてくる面倒なプレイヤーが増えちゃったけどね」
それだけでも十分狙われる理由は分かるけど、他にもあるんだろうな。パーティの管理が出来る上に本人が先ず美人だ、寄ってくる男は多いだろう。それに小さいとは言え店持ち、金銭的な面でも頼りになりそうな人間を勧誘しない人間がいない方が難しい。とは言え本人からすれば迷惑な話だ。
「今はまだギルド機能が実装されていませんが、次のアプデでは実装するらしいですし、今よりもっと強引な勧誘をしてくる様になるんじゃないですか?」
次のアップデートでは、ギルド制度の実装とイベントの告知等盛りだくさんの内容なのである。
「そうなの、だからこそこれから相談…というかお願いがあるんだけど…。実装されたらギルドを立ち上げたいんだけど、君にも入ってもらえないかな?」
恥ずかしそうに顔を覗き込んでくるアマネさん。その奥に座るコトネさんに目配せで、この状況を打開する様にお願いしてみた所『任せて!b』と言いたげな顔でアマネさんの肩にポンと手を置いた。
「良いと思う、完全に初心者装備だけど彼ならすぐ強くなりそうな予感がする」
「えぇ!?ちょ、コトネさん!!??」
褒めてと言いたそうな顔なのに、どこかバカにしているような表情をしているコトネさん。無い胸を張っているから余計に子どもっぽさが目立つというのに本人が気づく様子はない。
「取り敢えず、まだ俺自己紹介もしてないんで結論を出すのは後に致しましょう。俺はレッド、Lvは2で聖職者です。因みに今日始めたばかりのルーキーですのでよろしくお願いします、言っときますけど、βテスターではありませんよ?選考で落ちたので」
机に右手を置いて立ち上がり2人の顔が見えるように話を始める。何はともあれ俺の事を少しでも知ってもらえれば、諦めてくれるだろう…たぶん。
「そうなんだ聖職者か、珍しいね。最近じゃその職業選んでる人少ないから貴重といえば貴重だけど…っと私も自己紹介するね〜、私はコトネ、職業は女子限定の姫騎士だよ。男だったら限定職業は王族騎士だったかな?因みにアマネとはリア友で同じく私もβテスターだったよ」
やけに仲が良いと思ったけれどリア友だとは思わなかった。
「お2人は聖職者と聞いて地雷だとは思わないのですか?初心者の聖職者程、馬鹿にされるものなのでしょう?失礼ながら自分はまだ駆け出しの身、お二人のお役に立てるかどうかも分からないですし…」
「そう言われているのは知っているけど…。レッド、アンタに関しては心配いらないでしょ。根拠は薄いけど、その情報を知っていて選んだって事は、そのキャラで継続して続ける気があるってことでしょ?それに私の知る限りじゃ、今の所聖職者で目立つプレイヤーは『シスターマリア』くらいだし、彼女目的だとしても不思議では無いしね」
「シスターマリア?それはまた安直な…、っていやいや!そんなプレイヤーがいたこと自体知らなかったよ」
人気が無いとはいえ、聖職者を選ぶプレイヤーもいた様でどこか嬉しく思う。しかしキャラ名からして美人さんなのだろうな、会ってみる気はないけど。
「話を戻してもいいかしら?具体的にギルドに加入するメリットとデメリットをここで説明させてもらうわね。今の所公開されている情報では…」
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メリット
・各ギルドに一つずつ拠点であるギルドハウスを讓渡されるので、所属するプレイヤーは出入りする事が可能になる。
・ギルドハウスにて売買を行うことも出来る。また、ギルド登録を行っている場合、自動的にリスポーン地点はギルドハウスに設定される。
・イベント終了時、自動的に各ギルドにポイントが配布されるので参加したプレイヤーには、ギルド長からポイントが配布される。(ソロプレイヤーは運営から直接配布はされる)
デメリット
・ギルドに所属した場合、ギルドメンバーがいる場所を把握することが出来る。しかし、お互いに把握出来てしまう為、不都合が起きる場合もある。
・ギルドポイントは、各ギルド長が任意で割り振ることが出来る為不正が起きる場合がある。
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「とまぁ、こんな感じだけど基本的にはメリットの方が多いわ。ポイントの分配率に関してはメニューから確認できるようになるらしいから、不正されているようなら、脱退して他のギルドに所属することが出来るみたいだし、差程デメリットにはならないわね…結局の所、所属するギルド次第って事かしら」
「なるほど…」
事細かに説明を聞いて、理解も出来たところで考える。俺がソロプレイヤーである理由は、団体での戦闘等で発生する個人間でのトラブルを避ける為だ。クエスト報酬、経験値の分配率、ドロップアイテムの所有権etc...。これらの事が何不自由無く、縛りのないプレイが出来るのであれば最初からソロで動こうなどと考えてはいない。
だからこそ、どうしてももう1つ聞いておく必要がある。
「最後に一つだけ聞かせてください、アマネさんはどう言ったギルドを作っていこうと考えていますか?」
カップに口をつけ、1口珈琲を飲む仕草をした後、アマネさんは少し考える様にして話し始めた。
「自由…かしら。縛りやノルマのあるギルドも出てくるだろうし、当然私達が立ち上げようとしているギルドの他にも私と同じような考えを持ったギルドが出てくると思うわ。けれど私は誰でも受け入れるギルドにするつもりは無いの」
「大人数のギルドになればなるほど、収集は付かなくなるものだし何より個人間での気軽なやりとりが出来なくなるわけじゃないけど、発言しにくいような空気になってしまうことってあると思う。だからこそ人数は少数で活動していきたいなって考えているんだけど…どうかな?」
聞きたかった答えをまるで模範解答の如く、当てられてしまい思わず苦笑。出会った時から冷静で何処と無く、人を惹きつける様な魅力を持った女性だなとは思っていたが、よもやそこまで心情を読み取られてしまうとは尽く素晴らしい人だなと感心しつつ答えを出す為に口を開く。
「ここまで説明してくれましたし、是非私も参加させて頂ければなと思います」
「うん、我々『円卓の誓い』はレッド、君を歓迎するよ」
ヤバそうなギルドに入ってしまったと顔をひくひくさせながら、若干後悔しつつあるレッドであった。




