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Hell history ~ヘルヘイム~  作者: 天馬光
兄と代償
14/33

代償

 少し重ためですが、読んで下さると幸いです。

 滴る水を顔に浴びて目覚めると、ヘルは辺りを見渡し、周囲が地底にいるように暗いことや、顔が半分浸かっていた水溜まりに映った自分の姿から、ここが魔界で、魔族に帰化できたと確信した。

 とりあえず成功したと、ヘルはほっと胸を撫で下ろし、ひとまずヨルムンガンドを捜そうと、立ち上がろうとした。


 が、どういうわけか、足がピクリとも動かない。それどころか腰から下の感覚すらも無い。

 嫌な予感が頭によぎったヘルは、恐る恐る足の方に目を向けると、そこにあるはずの自分の美しい下半身が、見るに耐えないほど黒く変色し、壊死していた。


 あまりにショッキングなことに、ヘルは激しく動揺したが、そこに、さらに追い討ちをかけるように、龍のような姿をした大蛇の化け物が、彼女の前に現れた。

 怪物はヘルを見つけると、すぐさま神経毒の息を彼女に浴びせた。冷静さを失ったヘルでも流石に察していた。この化け物は自分を食べようとしている、と。

 だが、それがわかったところでどうすることもできない。

 足が壊死している上に、毒のせいで体が麻痺している。魔族になったばかりで闇の力の使い方もよくわかっていない。こんな状況で見逃してくれる方が奇跡である。

 ヘルは万事休すと観念し、せめてヨルムンガンドに一目だけでも会いたかったと、思いながら、自分を食らおうとする怪物を直視した。


 そうして相対する化け物の目を見ている内に、彼女はこの化け物が何なのか直感的に気付いた。


「え……? もしかして、兄……さん?」

 そう、この大蛇の化け物こそヨルムンガンドの成れの果てだった。

 もっとも、再会直後の行動を見たらわかる通り、すでに彼に自我や記憶といった類は無く、ただ本能のままに生きる魔物と化している。

 信じがたい残酷な現実に直面したヘルは、大粒の涙を流した。

 全てを捨ててここまで来たのに、支えるべき兄はかつての面影や優しさを失い、血に飢えた化け物になってしまっている。

 失意と絶望のどん底に落ちたヘルは、頑張る気力を失ったことで疲労と毒がどっと出て、再び気絶してしまう。


 そんな絶望に沈んだ最愛の妹に、ヨルムンガンドは涎を垂らし、大口を開けて容赦なく襲いかかってきた。

 このまま兄の胃袋の中で1つになるのも、それはそれで彼女の終幕としてはふさわしいのかもしれない…………

 第2章はこれにて終了です。

 終わる雰囲気があるかもしれませんが、まだまだ続きます。

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