代償
少し重ためですが、読んで下さると幸いです。
滴る水を顔に浴びて目覚めると、ヘルは辺りを見渡し、周囲が地底にいるように暗いことや、顔が半分浸かっていた水溜まりに映った自分の姿から、ここが魔界で、魔族に帰化できたと確信した。
とりあえず成功したと、ヘルはほっと胸を撫で下ろし、ひとまずヨルムンガンドを捜そうと、立ち上がろうとした。
が、どういうわけか、足がピクリとも動かない。それどころか腰から下の感覚すらも無い。
嫌な予感が頭によぎったヘルは、恐る恐る足の方に目を向けると、そこにあるはずの自分の美しい下半身が、見るに耐えないほど黒く変色し、壊死していた。
あまりにショッキングなことに、ヘルは激しく動揺したが、そこに、さらに追い討ちをかけるように、龍のような姿をした大蛇の化け物が、彼女の前に現れた。
怪物はヘルを見つけると、すぐさま神経毒の息を彼女に浴びせた。冷静さを失ったヘルでも流石に察していた。この化け物は自分を食べようとしている、と。
だが、それがわかったところでどうすることもできない。
足が壊死している上に、毒のせいで体が麻痺している。魔族になったばかりで闇の力の使い方もよくわかっていない。こんな状況で見逃してくれる方が奇跡である。
ヘルは万事休すと観念し、せめてヨルムンガンドに一目だけでも会いたかったと、思いながら、自分を食らおうとする怪物を直視した。
そうして相対する化け物の目を見ている内に、彼女はこの化け物が何なのか直感的に気付いた。
「え……? もしかして、兄……さん?」
そう、この大蛇の化け物こそヨルムンガンドの成れの果てだった。
もっとも、再会直後の行動を見たらわかる通り、すでに彼に自我や記憶といった類は無く、ただ本能のままに生きる魔物と化している。
信じがたい残酷な現実に直面したヘルは、大粒の涙を流した。
全てを捨ててここまで来たのに、支えるべき兄はかつての面影や優しさを失い、血に飢えた化け物になってしまっている。
失意と絶望のどん底に落ちたヘルは、頑張る気力を失ったことで疲労と毒がどっと出て、再び気絶してしまう。
そんな絶望に沈んだ最愛の妹に、ヨルムンガンドは涎を垂らし、大口を開けて容赦なく襲いかかってきた。
このまま兄の胃袋の中で1つになるのも、それはそれで彼女の終幕としてはふさわしいのかもしれない…………
第2章はこれにて終了です。
終わる雰囲気があるかもしれませんが、まだまだ続きます。




