魔界へ
少し重ためですが、読んで下さると幸いです。
オーディンの提案を受け、新たな一歩を踏み出したヘルは、その日の内にフェンリルの居場所を突き止め、彼の住処を訪れた。
妹の来訪にフェンリルは喜び、改めて同志にならないかと勧誘したが、ヘルは丁重に断り、彼から魔界に行く方法を聞き出した。
「ありがとう、兄様」
「礼には及ばねえよ。妹の酔狂に付き合ってやんのも兄の仕事だ。ま、気が変わったらまた来い。いつでも歓迎すっから」
「大丈夫。それは無いから」
妹からきっぱりと断られ、フェンリルはふてくされた顔をする。
「けっ、はっきり言いやがって。相変わらずかわいくねぇ妹だな。だが、ウジウジしてるよりかはマシか」
「兄様……」
「あの弱虫の支えになりに行くんだろ? なら、さっさと行っちまえ。行って、死ぬまで傷の舐め合いでもしてろ」
フェンリルらしい口汚い言葉を送られたが、ヘルはあまり気にせず頷いた。
そんな妹に対する最後の思いやりなのか、単に言い忘れていただけなのか、フェンリルは出発しようとするヘルを呼び止め、ある忠告した。
それは、魔界には神すらも死に至らしめるほどの高濃度の闇や瘴気が充満しており、いくら闇の力があるとはいえ、元女神が魔界に行くのは前例が無いだけに、何が起こるかわからないというものであった。
それを聞いたヘルは肝に銘じ、危険を承知で魔界の入口へと向かう。その背中をフェンリルは見送るが、その目は決して温かいものではなく、冷たく険しいものであった。
数時間後、現代では地獄谷と呼ばれている魔界の入口に着いたヘルは、まず深呼吸して気持ちを落ち着かせ、自身の光の力を限界ギリギリまで抑えた。フェンリルいわく、こうすることで致死率が下がり、魔界に行けるようになるらしい。
力を抑えきったところで、ヘルは意を決して、魔界の入口に頭から飛び込み、突入した。
猛スピードで急降下するヘルを、漆黒の闇が瞬く間に包み込み、彼女の体を侵食していく。その感覚はまるで、穴という穴に触手が入って行くような不快な感覚であり、しばらくすると、不快さはあらゆる痛覚を混ぜ合わせたような激痛となって彼女を襲った。
その苦痛にひたすら耐え続けたヘルだったが、翼が黒く染まり、天使特有の金色の瞳が赤くなり始めたぐらいで、つま先から徐々に感覚がなくなっていき、眠るように意識を失った。
やがて覆っていた闇が霧散すると、一切減速することなく、彼女は勢いそのままに地面に叩きつけられた。
人間ならまず助からないであろう高さと速度で落ちたが、体に外傷はほとんどなく、命に別状も無い。ヘルは奇跡的に魔界の第1層・煉獄にたどり着いたのだ。
ちなみに地獄谷は、現在の大阪にあるという設定です。




