第2章③
「でもさ、そんなに危ない話なら、やっぱり先生に相談した方がいいんじゃないの?」
空気を変える目的も兼ねて、僕は授業中気になっていた点について尋ねてみた。
「今回はそれでいいかもしれないが、それで向こうが諦めるとは限らないだろ。先生に知らされたことを逆恨みしてくる可能性もある」
「……それはありえるね」
「そうなれば、今後いつどこで仕掛けてくるか分からない。場所と時間が指定されている分、むしろ今回の方が対策は立てやすい」
「……確かにそうか。じゃあ、僕も公園まで付いて行けばいいの?」
「ああ」
完全に納得したわけではないものの、笹内の懸念も一つ一つ説明を聞いていけばもっともだという気がしてきた。
何より手紙をもらったのは笹内であって僕ではないのだから、こういう場合は当事者の気持ちを尊重するべきだろう。
それに本当に笹内の予想が当たっている可能性だってある。
となると、残る問題は──
「でも僕、かなり頼りないよ?」
相談する相手が、果たして僕でいいのかということだった。
頭の回転は決して早くないし、体力や運動神経に自信があるわけでもない。
喧嘩なんて小学生の頃にしたのが最後だ。
「それについては俺がなんとかするからお前は心配しなくていい」
笹内はそうフォローしてくれたが、僕が頼りにならないという点については否定してくれなかった。
まあ事実なので仕方がない。
「他の人には協力してもらわなくていいの?」
「他に頼めるやつがいないんだ」
変なところで素直なやつだ。
そんなに潔く白状されると、もう僕も断れなかった。
「分かった。僕も一緒に行くよ」
「……助かる」
他にお礼の言い方知らないんだろうか。
僕は笹内の不器用さに苦笑しつつ、詳しい計画について聞こうとする。
「それで、僕は具体的に何をすれば……」
ちょうどその時、六時間目のチャイムが僕の質問を遮った。
キーンコーンカーンコーン……
チャイムが鳴っている間、僕達はお互いに無言だった。
ただしそこに意思の疎通がなかったのかといえば、そういうわけではない。
僕は本日二度目となる自分の間の悪さを自嘲気味に笑っていたし、笹内の方も呆れるような哀れむような、なんとも言えない眼差しを僕に向けていた。
でもこれは僕のせいじゃないんだから、そんな目で見られたって困る。
やがてチャイムが鳴り終わると、僕は小さく肩をすくめた。
「それじゃ、続きはまた放課後かな」
「そうだな」
こうして空き教室を出ようと扉に近付いた時、笹内が僕を呼び止めた。
「一つだけ今のうちに確認しておきたいんだが、お前イヤホンは持ってるか?」
「え? うん、持ってるよ」
「通話できるタイプか?」
「通話できるタイプだよ」
「そうか。なら大丈夫だ」
「何が大丈夫なの?」
「公園でイヤホンを使う予定なんだ。詳しくは放課後に話す」
笹内はそれだけ言うと廊下へ出て行った。
ただでさえ中途半端なところで会話が終わったんだから、その上さらに気になるような情報を追加してこないでほしい。
僕は心の中でそう抗議したが、当然笹内には聞こえるはずもなかった。
そんなわけで、六時間目も僕の授業態度は一向に改善されなかった。
むしろ話の輪郭がはっきりしてきた分、五里霧中状態だった五時間目よりもなおさら意識が放課後の件に向いてしまう。
結局またもや授業の内容が全く頭に入ってこないまま時間が過ぎ、あっという間に放課後がやってきた。
帰りのホームルームはほんの二、三分で終わった。
既に笹内は帰りの支度を済ませ、椅子に座って僕の支度を待っている。
僕も急ごうと教科書を鞄に詰め込んでいると、駒寺が声をかけてきた。
「あれ、佐倉もう帰るのか?」
「うん、今日はちょっと用事があるんだ」
「珍しいな、佐倉が用事なんて。どうしたんだ?」
「えーと……ごめん、それはちょっと秘密」
「お、何か気になる言い方だな。彼女でもできたか?」
ニヤリとして勘ぐる駒寺に対し、僕は笑いながら首を横に振る。
「違うよ、残念ながらね。っていうか、そういうのはむしろ江口が言いそうな台詞じゃない?」
「はは、確かにそうだ」
駒寺も笑って僕の冗談に同意した。
江口はどんな話題でも、すぐ色恋沙汰の方へ持って行きたがる。
「江口と言えば、あいつがスマホ没収されたの聞いたか?」
「えっ、いつ?」
「五時間目の授業中に使ってて先生に見つかったらしい」
「そりゃ授業中に使ってたらバレるよ」
と僕が駒寺との談笑を始めそうになった時、後ろから笹内が席を立つ音がした。
「あ、じゃあ僕そろそろ行くよ」
「分かった。また明日な」
駒寺と挨拶を済ませた僕は廊下へ出て、笹内に追い付く。
僕達のC組以外にもホームルームが終わったクラスがいくつかあるようで、既に廊下にはそれなりの数の生徒がいた。
「校内だと人に聞かれる可能性があるし、学校を出てから話すぞ」
笹内の提案に従って、僕達は真っ直ぐ校門へ向かう。
江口の所属するA組はまだホームルームの途中らしく、教室の前を通った時に担任の先生の声が聞こえてきた。
もしかしたら江口のスマホの件で長引いているのかもしれない。
校門を出ると、僕と笹内は駅とは逆方向の左側に足を向けた。
以前説明した通りうちの学校の生徒はほぼ全員が電車通学なので、こちら側へやって来る生徒はほとんどいない。
周りを見てもうちの制服を着ているのは僕と笹内だけで、それ以外の通行人もさほど多くなかった。
そのことを確認してから、笹内は例の話題を切り出した。
「これまでに話した内容は覚えてるか?」
「うん、僕も公園に一緒に行けばいいんだよね? それで……」
僕はそこで反射的に台詞を区切る。
もうチャイムの音が聞こえるはずはないのに、すっかり身構える癖がついてしまった。
「それで、僕は具体的に何をすればいいの?」
二時間もお預けになっていた質問を、僕はようやくすることができた。
初作品なので拙い出来ですが、お読みいただき本当にありがとうございます。
物語は既に完結まで書き溜めていますので、このまま最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
1話あたり約3000字前後で、毎日2話ずつ更新していく予定です。
作品を読んだ感想、レビュー、ブクマ、評価などをいただけると大変励みになります。




