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第1章④

 最後にもう一つ。

 これは性格とはあまり関係ないけれど、これから話す出来事とは関係がないとも言い切れないので一応説明しておく。


 笹内は、同性から見てもかなり整った容姿の持ち主だった。


 まず顔。物憂げな瞳や薄い唇といったパーツの一つ一つが端整だし、いつも無表情でいるせいでそれが余計に際立って見えた。


 そのうえ身長も180cmくらいあって、僕より10cm以上高い。

 全身の線は細く、腕相撲をすれば僕でも勝てそうなくらいの儚げな雰囲気を纏っている。


 なのに実際に体育の授業になると思いのほか運動神経は良く、サッカーやバスケなどでは目立つ活躍こそしないものの、パス回しのようなサポートでチームに貢献していた。


 おまけに学業面でも優秀で、以前誰にも言わないという条件で見せてもらった成績表には、三百人以上いる学年の中で一桁の順位が記されていた。


 これだけの条件が揃っていれば、笹内が女子からどういう評価を受けていたかは想像がつくと思う。

 クラスの女子が「笹内くんって結構いいよね」みたいな会話をしているのは、一学期だけで僕も何度か耳にした。

 中には実際に告白した子もいる。


 もっともあいつは女子から呼び出しを受けても僕には言わないし、ましてや女子の側が「私、今日笹内くんに告白します」などとみんなの前で宣言するはずもないので、僕が事情を知るのは告白が終わってたまに噂になった時だけだった。


 しかし例外として誰よりも早く、それこそ笹内本人より早くに事情を察知できるケースもあった。

 笹内との接点を求めて僕に話しかけてくる女子もいたからだ。


「ねえ、佐倉って笹内くんと仲良いよね? どんな子がタイプなのか知らない?」


 笹内と一番仲が良いのは僕だという彼女達の認識は、確かに正しい。

 でもそれは、あくまで基準を笹内の人間関係に合わせた場合の話だ。

 あいつは僕の他には挨拶する相手さえいないから、唯一挨拶を交わす相手である僕が一番仲が良いというだけなのだ。

 笹内と恋愛の話なんてしたためしがないし、それどころか放課後や休日に一緒に遊んだことすらない。


 逆に駒寺を始めとするバレー部の友達には、おそらく僕よりも仲の良い相手が部活の中にいるんだろう。

 でもバレー部の友達とはよく一緒に遊ぶし、恋愛絡みの話をしたこともある。

 その中の一人が女子に告白した時にはみんなで遠くから見守ったし、結果あえなく玉砕した時にはそいつを励ますためにカラオケに連れて行ったりもした。


 とにかくそういうわけで、僕は笹内の好みのタイプなんて全然知らなかったのだ。

 だからせっかく僕を頼ってくれる女子がいても、残念ながらあまり力にはなれなかった。


 そのせいなのかは分からないが、笹内への告白に成功する女子はいつまで経っても現れなかった。

 一体今までに何人の告白を断ったのか、想像すると少し可哀想だった。


 笹内本人に訊いても案の定教えてくれなかったけど、バレー部の友達の一人に江口という噂好きのやつがいて、そいつがある程度情報を知っていた。

 ちなみにさっき言った女子に告白して玉砕したやつというのも江口だ。

 その江口によると、笹内に告白した女子は少なくとも十人以上はいるらしかった。


 前にも言ったように、笹内は嫌なやつではないけど無口で無愛想なやつだ。

 本人が一人でいる方が好きだと言うなら周りがああしろこうしろと干渉するのも迷惑だろうし、僕も基本的に笹内の人間関係には口出ししなかった。

 しかしこれだけ悪い知らせばかりが続くと、さすがに僕も口を挟みたくなる。


「どうして片っ端から告白を断っているのか」「一度くらい試しに付き合ってみたらどうか」と実際に勧めてみたこともある。


 それに対する笹内の答えは「学校で誰かに愛想よくした覚えなんてないのに俺のどこを好きになって告白してくるのか分からない」という、全国の恋にお悩み中の男子が聞いたら卒倒してしまいそうなものだった。

 やっぱりあいつちょっと嫌なやつかもしれない。


 ただその後で「それに相手の性格をよく理解しないまま付き合ってもお互い不幸になるだけだから」と一応相手の女子を気遣うようなことも言っていたので、僕もそれ以上無理に勧めるのはやめておいた。


 結局その後も笹内の恋愛に対するスタンスは変わらず、一年生の二学期が終わる頃にもなると笹内には彼女を作るつもりがないという認識がクラスの内外に広まり、あいつに告白しようとする女子もいなくなった。


 そしてこれから先も現れないだろうと、僕はそう思っていたのである。


 高校二年生の五月までは、これが僕の日常だった。


 部活や委員会の活動に打ち込んでいる人達からすると、少々退屈で物足りなく見えるのかもしれない。

 でも僕はこの生活が好きだったし、それが伝わるように書いたつもりだ。


 スマホの通話履歴を確認すると、僕が笹内から相談を受けたのは五月二十七日の月曜日。

 新しいクラスにも慣れて、今年も去年と同じような一年が続くんだろうなとぼんやり思っていた頃だ。


 全てはその奇妙な相談から始まった。


 笹内にとってはともかく、少なくとも僕の視点ではそうだった。




 初作品なので拙い出来ですが、お読みいただき本当にありがとうございます。

 物語は既に完結まで書き溜めていますので、このまま最後までお付き合いいただければ嬉しいです。

 1話あたり約3000字前後で、毎日2話ずつ更新していく予定です。

 作品を読んだ感想、レビュー、ブクマ、評価などをいただけると大変励みになります。

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