最終章③
「……初めて公園で会った日、澄風さんは俺と佐倉の関係に興味があって、自分もそれに憧れてるって言ってくれましたよね」
「うん」
澄風さんと僕のスマホを通して、なおも笹内と澄風さんの会話が聞こえてくる。
今回は、途中で通話を切ることは作戦に含まれていない。
「それが勘違いだとは、言いづらかったんです。でも澄風さんが俺と同じ精神科に通ってたって思うと、頼みを断ることもできなくて……結局事実を隠しながら一緒に遊ぶ、矛盾した道を選びました。澄風さんから佐倉の連絡先を聞かれた時に断ったのも、佐倉が俺の事情を知らないことが澄風さんにバレないようにするためだったんです」
笹内の言葉に込められた想いを噛みしめながら、僕は一段ずつ階段を上っていく。
「俺にも、佐倉に全部事情を打ち明けてしまいたい気持ちはありました。そうすれば本当に友達になれるのに、って……でも、不安だったんです。俺の病気や家庭の話をしたら、佐倉は受け止めきれずに俺から距離を取ろうとするんじゃないかって」
階段の上から笹内の声が聞こえ始め、イヤホンからの声と重なる。
「だから昨日も、もし佐倉が澄風さんの病気の話を聞いても平気そうだったら俺の事情もちゃんと話そうって……澄風さんを実験台にするような情けないことを考えてたんです」
階段を上り終えると、青い海を背景にいくつものお墓が並んでいた。
そしてその中の一つ、白と灰色の中間の色をした墓石の前に、笹内と澄風さんが並んで立っていた。
二人ともこちらに背を向けていて、笹内は僕に気付いていない。
「俺は佐倉に……」
「笹内」
僕はイヤホンを外しながら、その背中に声をかけた。
笹内は僕の声に一瞬固まった後こちらを振り返った。
「…………」
笹内の驚き様は、先ほど澄風さんに声をかけられた時以上だった。
一言も言葉を発することなく、信じられないものでも見るような目で僕を見ている。
「…………どうして……ここに……」
「……正直、最初は来るつもりはなかったんだ。僕が笹内から友達だと思われてないのは分かってたし、信頼もされてないと思ってたから。僕が会いに行っても、かえって迷惑なんじゃないかって」
要するに僕は、澄風さんの母親やあのストーカーみたいにはなりたくなかった。
相手のためだと勘違いしながら迷惑をかける人間には。
「でも結局、澄風さんに説得されて会いに行くことにしたんだ。笹内から友達だと思われてないって分かった後も自分が笹内のことを心配してることに気付いたから。その自分の気持ちを大切にしようと思った。もちろん、笹内の気持ちも。だからもし笹内が僕には事情を打ち明けたくないって言ったら、そのまま帰るつもりだった」
笹内から友達だと思われていないという結論が出ていても、今朝笹内があのストーカーに嫌がらせを受けたと聞いた時僕は笹内のことを心配せずにはいられなかった。
向こうが友達だと思ってくれてないならこっちも向こうを心配する必要はないなんて、そんな割り切った考え方は僕にはできなかった。
そしてそれは立場が逆でも同じだ。
「友達の定義って人によって違うから、自分は友達だと思ってたのに相手からはそう思われてなかった、みたいなこともあると思うんだ。僕も昨日澄風さんと話した後は、自分は誰からも友達と思われてないんじゃないかって思い込んでたんだけど、それでも今朝江口や駒寺が僕を心配して様子を見に来てくれた時は、そんなごちゃごちゃしたことを考えるより先に嬉しいって感じたんだ。だから、大事なのは友達の定義がどうこうみたいな話じゃなくて、その相手のことを心配したいと思えるかどうかとか、逆にその相手に心配してもらって嬉しいと思えるかどうかなんじゃないかな。もしそう思える関係なら、仮に今は友達じゃなかったとしても、お互いに友達になりたいと思えてるってことだから」
僕はそこまで一気に言い終えた。
自分でもまだ考えがまとまっていない状態でとにかく思ったことをそのまま口に出していったから、つい長くなってしまった。
だけど、きっとこれが一番誠実な伝え方だ。
「……笹内は、僕に心配されるの迷惑だった?」
「……いや、そんなことない。俺も、佐倉が心配してくれて嬉しい」
まだ若干ぎこちない部分はあったけれど、昨日とは違い、僕達はちゃんとお互いの目を見て言葉を交わすことができた。
こうして会話が一段落した後、僕達は改めて笹内のお母さんのお墓参りをした。
持ってきた花束をお墓に供え、手を合わせる。
しばらく目を閉じて黙祷した後、澄風さんが笹内に尋ねた。
「この辺に、どこか座って話せる場所はあるかな?」
「……確か向こうの方に、ベンチがあったと思います」
笹内が言った方向へ歩いていくと、一本の大きな木の木陰に三人がけのベンチが置かれていた。
笹内を真ん中にして三人でベンチに座ると、最初に澄風さんが口を開いた。
「じゃあ、先に私の過去について話すね。勇気くんにはもう昨日聞いてもらったけど、もう一回聞いてもらえる?」
そう言って、澄風さんは自分の過去を笹内に話して聞かせた。
笹内はそれほど驚いたりする様子もなく、静かに耳を傾けていた。
澄風さんが自分と同じ病院へ通っていたことや、昨日会った澄風さんの母親の様子から、既におおよその事情は察していたのかもしれない。
ただ最後に、一つだけこう質問した。
「……あの病院には俺以外にも中学生や高校生くらいの人達がいたのに、どうして俺にだけ注目したんですか?」
「他の同い年くらいの人達はみんな、親と一緒に来てたから。多分私達みたいに家庭の問題じゃなくて、学校でのいじめとかが原因であそこに来てたんじゃないかな」
「…………そうですね。確かに、俺が病院に通ってたのも家庭の問題が原因です」
先に澄風さんが自分の事情を話したから、それに応えようと思ったのか。
あるいは、話し終えた澄風さんの姿を見て自分も話した方が楽になれると感じたのか。
笹内は今まで誰にも話していなかった自身の過去を、静かに語り始めた。
初作品なので拙い出来ですが、お読みいただき本当にありがとうございます。
物語は既に完結まで書き溜めていますので、このまま最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
1話あたり約3000字前後で、毎日2話ずつ更新していく予定です。
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