第6章⑤
「ここって、このショッピングモール?」
会話をしながら、翠山さんと笹内も飛行機の模型に近付いてくる。
「ここのショッピングモールに来たこと自体は覚えてなかったんですけど、この飛行機を見た途端にハッとなったんです。なんだか見覚えがあるぞ、って」
「じゃあこの飛行機が特に記憶に残ってて、思い出すきっかけになったのかな」
「多分そうなんだと思います。かなり昔のことだから、自分でもまだはっきりしないんですけど」
「ふーん……ここってどんなお店なの?」
「子供が色々な仕事を体験できる施設なんです。僕も昔お母さんに連れてきてもらったことがあって……小学校の一年生か二年生くらいの時だったかな。仕事を体験すると施設内で使えるお金がもらえて、それでちゃんと買い物もできるんですよ」
喋っているうちにだんだん当時の記憶が甦ってきて、僕は自然と饒舌になっていく。
「そうだ、確かパイロットの体験とかやったっけ」
「佐倉くん、パイロットになるのが夢だったの?」
「いや、別にそういうわけじゃないんです。ただ当時は単に面白そうだったからやってみただけで。他にも消防士とかお菓子工場とかも体験しましたし……あ、あと変わったのだとマジシャンとかもありましたよ」
楽しげに思い出を語る僕を見て、翠山さんが羨ましそうな声を漏らした。
「いいなあ……私も小さい時に一度来てみたかったな」
「翠山さんは子供の頃、将来の夢とか何かあったんですか?」
「ううん、私も具体的にはなかったよ。でも小さい頃にお父さんとお母さんにどこかへ遊びに連れて行ってもらった時は、色々な仕事をしてる人がみんなニコニコしてて楽しそうに見えたから。それにぼんやりと憧れてただけ」
「確かに子供の頃って、どんな仕事も全部楽しそうに見えましたよね」
「うん。でも実際に働くのは大変なことなんだって、成長するにつれて分かるようになるんだよね」
「……そうですね」
文集を読んだ時に考えたのと同じ耳の痛い言葉に、僕は少し間を開けて同意した。
「働くこと以外にも世の中には大変なこととか辛いことがたくさんあるけど……小さい頃は親が守ってくれてたから気が付かずに済んだのかな」
翠山さんの口調は意味深で、どこか自分に言い聞かせているようでもあった。
笹内も黙って話を聞いていたが、表情に戸惑う様子がないところを見ると、僕よりは翠山さんの真意を汲み取れているらしい。
僕も何か読み取れないだろうかと、二人の表情に注目した。
「笹内くんは、何か将来の夢とかあった?」
だから翠山さんにそう尋ねられた時の、意表を突かれたような笹内の顔も僕にはよく見えた。
「……小さかった頃の話ですか?」
「小さかった頃の話でもいいし、今の話でもいいの。笹内くんが将来どういう人になりたいのか、知りたいんだ」
翠山さんの真っ直ぐな質問に、笹内はためらいつつも口を開く。
「……中学生の頃は、弁護士になりたいって考えてました」
「何年生の時か聞いてもいい?」
「……三年生です」
「……そっか。ありがとう、教えてくれて」
翠山さんが学年について尋ねた理由は、僕には分からなかった。
それに、笹内の発言が文集の内容と噛み合わないことも引っかかった。
中学三年生の時に弁護士になりたいと考えていたのなら、どうして高校一年生の文集には将来の目標が見つからないと書いてあったんだろう。
訊いて確かめたかったが、当の二人はもうこの話は終わりという空気になっている。
翠山さんは答えを聞いて満足した様子だったし、笹内の方も言うべきことは言ったという表情をしていた。
仕方なく僕も黙っていると、やがて翠山さんはこちらを振り返ってにこりと笑った。
「たくさん歩いたら、またお腹が空いてきちゃった。そろそろ晩ごはんにしない?」
流れからして目の前のシーフードレストランに入るのかと思ったが、店頭のメニューを見てその線は消えた。
メニューに書かれている値段は、どれも駅前のステーキレストランと遜色ないものだった。
この間の翠山さんのように特別な日でもなければ、僕達高校生には手の届かない価格帯だ。
結局晩ごはんは一階のフードコートで食べようという話になり、僕達は四人用のテーブル席に荷物を置いてから、それぞれ好きなお店に食事を買いに行った。
僕は天丼屋の列に並びながら、先ほどの笹内と翠山さんの会話について振り返っていた。
僕にはいまいち話が掴めなかったけど、とりあえず二人の仲が深まったと解釈していいんだろうか?
呼び出しベルを受け取って席へ戻ると、笹内と翠山さんはまだ戻っていなかった。
それを見た僕の頭に、ちょっとしたアイデアが浮かぶ。
まずさっき買った服が入った紙袋を椅子の一つに置き、僕はその向かいの席に陣取った。
こうすれば必然的に笹内と翠山さんは向かい同士の席になるし、二人の会話ももっと増えるかもしれない。
と一人で勝手に期待していたのだが、結果は上手くいかなかった。
笹内はいつも通り食事中もあまり喋らなかったし、翠山さんの方もずっとスマホで何かを調べていた。
僕は少々がっかりしつつ箸を進めたが、やがてそんなことを気にしている場合ではなくなる事態となった。
「突然で悪いんだけど、二人に相談したいことがあるの」
食事を終えてしばらく経った頃、翠山さんが改まった態度でそう切り出した。
「……なんでしょう?」
「実はここ最近、学校からの帰り道で視線を感じることがあったんだ。しかも、一度じゃなくて何度も」
※第6章は8話編成となっております
初作品なので拙い出来ですが、お読みいただき本当にありがとうございます。
物語は既に完結まで書き溜めていますので、このまま最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
1話あたり約3000字前後で、毎日2話ずつ更新していく予定です。
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