第6章②
なんとなく会話を続けづらい雰囲気になってしまい、僕は重々しい空気を打ち消すために話を元に戻した。
「さっきの話をまとめると、笹内は友達がたくさんいて困った時には誰かに事情を打ち明けて相談できる女の子が好み、ってこと?」
「百歩譲って彼女を作るとしたらそういう性格の相手にするってだけだ」
「ふーん、なんだか笹内とは真逆のタイプだね。あ、でも笹内もこの前翠山さんから手紙をもらった時は僕に相談してたっけ」
「……あれくらいならまだいいんだけどな。俺が心配してるのは、もっと深刻な場合の話だ」
「そういう場合、笹内は誰かに相談できるの?」
「…………できないな」
「自分ができないことを女の子にだけ要求するっていうのは、ちょっとわがままなんじゃない?」
「そうだな。だから俺に彼女はできないよ」
「む、そうきたか」
上手く皮肉を言ったつもりが、反対にこちらの言葉を逆手に取られて見事なカウンターを食らってしまった。
こうしてこの日は引き下がったものの、僕は諦めたわけではなかった。
今の時点では笹内が翠山さんを意識していないとしても、これまでに告白してきた女子の中では一番希望がありそうなのは間違いない。
もう何回か一緒に遊べば、ひょっとしたら笹内の気も変わってくるんじゃないだろうか。
日曜日の帰りの電車で翠山さんが言ってくれた「佐倉くんのおかげで笹内くんと早く友達になれそう」という言葉も、僕の背中を後押ししていた。
そういうわけで次の日曜日も前回同様、僕は笹内と翠山さんを接近させようとお節介を焼くことになった。
ただ今回は、その前日の出来事から話し始めた方が当日の僕の心境をより理解してもらえると思う。
「僕、明日も友達と出かけるから」
笹内と翠山さんとの外出を翌日に控えた土曜日、学校から帰ってきた僕はお母さんにその旨を伝えた。
「へえ、珍しいじゃない。二週連続でなんて」
リビングでテレビを見ていたお母さんは意外そうに眉を上げた。
僕は平日の放課後に友達と遊ぶことは多い一方で、休日に遊びに出かけることは少ない。
中学生の頃からずっとそんな感じなので、お母さんのこの反応も特に失礼ではなかった。
「最近何か変わったことでもあったの?」
「まあ、新しい友達ができたよ」
「友達ができるくらい、別に変わったことじゃないでしょ」
「そうなんだけど、友達になった経緯が変わってるというか」
「明日もその友達と一緒に遊ぶわけ?」
「うん。明日はショッピングモールに服を買いに行こうって言ってた」
今日の放課後、僕が駒寺や江口達と遊んでいる時に翠山さんからLINEが送られてきた。
「あんたも何か服買うつもり?」
「あー……どうしようかな。ただ友達の買い物に付き合うくらいのつもりだったんだけど」
「ちょうどいい機会だし、その友達に色々教えてもらいなさいよ。服を買いに行きたいって提案するくらいだから、ファッションに興味がある子なんでしょ?」
「でもその友達って女の子だよ」
僕の言葉を聞いたお母さんは、さっきよりずっと驚いた顔をした。
「女の子と一緒に服を買いに行くの? あんたが?」
さすがにその反応はちょっと失礼では?
と僕が抗議しようとした時、お母さんはおもむろに立ち上がってリビングを出て行った。
どうしたのかとドアの方を見つめていると、お母さんはすぐに戻ってきた。
手には財布を持っている。
「服を買うんだったら、お金出してあげるわよ」
そう言って、お母さんは財布から一万円札を一枚取り出した。
「えっ、いいの? そんなにたくさん」
降って湧いた大金に僕は驚く。
ちなみに僕の一ヶ月のお小遣いは五千円である。
「言っておくけど、他の目的に使うのは許さないわよ。わざわざこうしてお金渡すのは、あんたが普段のお小遣いじゃ買えないような服を買えるようにするためなんだから」
「分かりました」
「よろしい」
僕にそう誓約させてから、お母さんはお金を手渡した。
「毎日制服だけ着てればいいのは高校生までなんだから、あんたも一着くらいちゃんとした服持っておきなさい」
「僕の持ってる服ってそんなに駄目かな?」
僕の服はほとんど千円から二千円くらいで買った物だったが、自分では十分満足していた。
「友達と遊ぶなら今持ってる服でいいけど、デートに行く時はそれじゃ困るわよ」
「明日は別にデートに行くわけじゃないよ。その子の他に男子の友達も一緒だし」
お母さんが何やら誤解しているようだったので、僕は慌てて明日の面子について説明する。
「分かってるわよ、あんたが女の子と二人きりで外出してるところなんてまだ想像できないし。ただ今はそうだとしても、あんただっていつかは彼女が出来るかもしれないでしょ」
「そりゃまあ、いつかはね」
「そもそもあんたが女の子と一緒に服を買いに行くなんてこと自体、今までは想像できなかったしね。あんたにとってはいい変化だと思うわよ」
「はあ、どうも……」
先日の下校中の笹内との会話を逆の立場で再現されているみたいで、なんだか変な感じがした。
「それにね、デートの時しかおしゃれをしちゃいけないなんて決まりはないのよ。その日の気分次第で『これが最高の自分だ』って思える服を自由に着ればいいの」
「でもおしゃれしたいって気持ち自体が僕にはあまりないし、だから今までそういう服を買ってこなかったんだと思うよ」
「あんただって、気になる女の子ができたら自然とおしゃれしたくなるわよ」
「そういうもんかな」
「要するに、大切な相手に会いに行く時にちゃんとした服装をして行くのは『自分は今日ここへ来るためにちゃんと準備と覚悟をしてきました』っていう意思表示になるの。それが分からないのは、あんたがまだ色々と経験してない子供だからよ」
「ふーん……」
会話が終わった後も僕はお母さんの言葉について考えながら、紙の中の渋沢さんとしばらくにらめっこしていたが、結局ピンとこないままだった。
お母さんが言う通り、実際に経験してみなければ分からないものなのかもしれない。
何はともあれ、翠山さんの希望で決まった明日の買い物は、僕にとってもそれなりに気合いを入れて臨まねばならないイベントになったのだった。
※第6章は8話編成となっております
初作品なので拙い出来ですが、お読みいただき本当にありがとうございます。
物語は既に完結まで書き溜めていますので、このまま最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
1話あたり約3000字前後で、毎日2話ずつ更新していく予定です。
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