第6章①
「佐倉、お前昨日翠山と出かけたんだって?」
翌日の月曜日、いつものように江口と駒寺と学食へ行くと、席に座った途端に江口がそう切り出してきた。
噂好きの本領発揮と言わんばかりの表情をしている。
「あれ? 俺は笹内と翠山さんが一緒に遊んでたって聞いたぞ」
駒寺にも別のルートで噂は伝わっていたらしく、情報の相違に首を傾げていた。
「そうなんだよ、つまり昨日は三人で一緒に遊んでたってことだろ? どういうことなのか佐倉本人に確かめてみようと思ってさ」
江口と駒寺には僕が翠山さんに一目惚れしたと説明してある以上、こうした質問をされるのは予想していたので、回答はあらかじめ用意してあった。
「まずは翠山さんと友達になろうかと思って。ただいきなり女の子と二人で出かけるのは僕にはちょっとハードルが高いから、笹内に頼んで一緒に来てもらったんだ」
「じゃあまだ告白はしてないのか」
「してないよ。あくまで友達」
「まあ恋人になりたいなら最初は友達から始めるのが基本だよな」
うんうん、と江口がうなずく。
一度も彼女のできたことのないやつが一体何の基本を語るというのか。
「江口が噂を知ってるのは別に驚かないけどさ、駒寺も知ってるってことはそんなに僕達の噂が広まってるの?」
「まあどちらかといえば、噂になってるのは佐倉じゃなくて笹内と翠山さんだけどな」
「なんだ。でも考えてみればそりゃそうだよね」
自分の存在が無視されていることにがっかりするのと同時に、納得感もあった。
確かに性格からしても外見からしても、翠山さんと一緒に歩いていて噂になりそうなのは僕じゃなくて笹内の方だ。
「美男美女の組み合わせだから注目されやすいのかもな」
「そこだよ、俺が訊きたいのは!」
駒寺が僕と同じ意見を述べると、江口はずびしっ、と僕を指さした。
「そう考えたら、遊びに行くもう一人に笹内を選んだのはマズかったんじゃねーか?」
「え? なんで?」
「なんでって、佐倉にとっては手強いライバルになっちゃうだろ」
焦るような態度の江口とは対照的に、駒寺は冷静な態度で自説を述べた。
「いや、むしろ正解なんじゃないか? 笹内は彼女を作る気とか全くないだろう」
「でもさあ、みんな『笹内と翠山が付き合ってるんじゃないか』って噂してるし、もうそれが既成事実みたいに言ってるやつもいるぜ」
「それもかえって好都合かもしれないぞ。笹内と翠山さんが付き合ってるって噂が広まれば、恋人の座を狙って翠山さんに声をかけようとする男子は自然といなくなるだろうしな」
「おお……なるほど……」
駒寺の分析を聞き終えた江口は、感心した表情になって僕を見る。
「佐倉……お前意外と考えて行動してたんだな……」
「いや、僕は別にそこまで考えてなかったんだけど……」
翠山さんといい江口といい、どうしてみんな変なところで僕を過大評価するんだろう。
僕はそんな計画的な人間じゃないし、今回の噂も全くの偶然だ。
とはいえ、笹内と翠山さんが付き合っているという噂が広まるのは僕にとって少しワクワクする展開だった。
もしかしたら、噂が現実になったりするかもしれない。
実際のところ、笹内は翠山さんに対してどういう感情を抱いているんだろう。
というわけでさらに翌日の帰り道、僕はその点について笹内に確認してみた。
「笹内と翠山さんが日曜日に一緒に遊んでたの、学校で噂になってるみたいだよ」
「ああ、なんとなく耳には入ってきた」
「なんか笹内と翠山さんが付き合ってるって噂してる人もいるらしいけど」
「らしいな」
「気にしてないの?」
「単に噂されるくらいなら許容範囲内だ。変なやつに絡まれたりしない限りな」
「じゃあ次はもっと遠くの場所で遊んだら? そうすればきっと同級生にも会わないよ」
「かもな。ただどちらにしても、行き先を決めるのは俺じゃなくて翠山さんだ」
付き合っているという噂については無関心のようだったけど、やはり笹内は翠山さんのことをかなり気遣っている。
「ねえ笹内」
「なんだ」
「本当に付き合っちゃえば?」
「まだ諦めてなかったのか……」
笹内は呆れた顔で僕を見る。
「翠山さんが俺を呼び出したり一緒に出かけたりしたのは、恋人じゃなくて友達が欲しいからだよ。お前も聞いてただろ」
「うん。それはそうみたいだね」
一昨日の帰り道での翠山さんとの会話で、それは僕も確信していた。
もし翠山さんが笹内と付き合いたがっているのであれば、最初の一回だけならともかく、次回からも僕に一緒に来てほしいとは頼まないだろう。
どうやら翠山さんが笹内に望んでいるのは、本当にただ友達になることだけらしい。
なので逆の方向から責めてみる。
「翠山さんの方にそういうつもりがなくてもさ、笹内の方はどうなの?」
「どうって何が」
「翠山さんと遊ぶの、結構楽しかったんじゃないの? そもそも笹内が女の子と一緒に出かけること自体、翠山さんが現れるまでは想像できなかったし」
「そこから付き合うなんて結論に繋げるのは、いくらなんでも話が飛躍しすぎだろ」
「まあ確かに付き合うとしたらかなり先の話だろうけど、恋人を作るなら最初は友達から始めるのが基本らしいよ」
昨日聞いたばかりの受け売りの知識まで駆使して説得を続けていると、笹内もようやく話題に乗ってきた。
「……仮に俺が誰かと付き合うとしても、翠山さんじゃないよ」
「えっ、じゃあ笹内にも好きな女の子のタイプとかあるの? っていうか、なんで翠山さんだとダメなの?」
笹内が女の子の好みについて語るのなんて初めてだったので僕はテンションが上がったが、笹内はあくまで淡々とした口調で答えた。
「翠山さんは、正直見ていて心配になる」
「どういうところが?」
「友達と呼べる相手もいなさそうだし、何か困ったことがあっても誰かに事情を打ち明けたり相談したりできないんじゃないかと思う」
「そうかもしれないけど、だからこそ笹内と友達になろうとしてるんじゃないの?」
「俺との関係なんて長くは続かないよ」
「頑張って長続きさせなよ」
「俺の意思がどうこうって話じゃない。高校を卒業すれば、進路も別々になるしな」
「……そっか」
シビアな現実を突きつけられて、僕は口をつぐむ。
確かに、高校を出た後も関係が続く友達なんて何人いるんだろう。
今仲良くしている友達も、卒業したら次第に連絡を取らなくなって、疎遠になっていくのだろうか。
初作品なので拙い出来ですが、お読みいただき本当にありがとうございます。
物語は既に完結まで書き溜めていますので、このまま最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
1話あたり約3000字前後で、毎日2話ずつ更新していく予定です。
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