第5章③
週末はあっという間にやってきた。
迎えた日曜日のお昼過ぎ、僕は普段学校へ行く時に使うのと同じ方面の電車に乗って待ち合わせ場所へ向かっていた。
この先の終点は、いくつもの路線が乗り入れるターミナル駅になっている。
駅の周辺には大抵の娯楽施設が揃っているため、他の友達ともよく遊びに行くエリアだ。
先日LINEで翠山さんの希望が送られてきて、今日遊ぶ場所はここに決まっていた。
終点に着いた僕はまっすぐ東口へと向かう。
繁華街に近く、分かりやすい目印になる謎の銅像もある東口はこの駅では定番の待ち合わせスポットだ。
約束の時刻まではまだ数分あったが、笹内も翠山さんも既に到着していた。
「あ、佐倉くん」
こちらに気付いた翠山さんが小さく手を挙げた。
「すみません、待ちましたか?」
「ううん、そんなに。笹内くんの方が私より早く来てたよ」
翠山さんは先日と同じようにやや中性的な服装をしている。
その隣に立っている笹内は、紺色のシャツにのズボンという落ち着いた色の組み合わせだった。
イメージ通りと言えばイメージ通りのファッションかもしれない。
「……なんだ」
「いや、別に」
笹内の私服姿を見るのは初めてだったので、ついまじまじと見つめてしまった。
「それで、今日は具体的にどこで遊ぶんですか?」
僕は翠山さんの方に向き直って尋ねる。
「ちょうど今笹内くんとその話をしてたんだけど、私も笹内くんもこういう街で遊んだ経験があまりないから良い候補が浮かばなくて。そもそも私が今日この駅を選んだのも、普段みんながどんなふうに遊んでるのか知りたかったのが理由なの」
「なるほど」
確かに二人とも、こうした街中で遊んでいる姿がいまいちイメージしづらい。
「佐倉くんはどこかおすすめとかある?」
「僕が決めちゃっていいんですか?」
「うん。そういうことなら佐倉くんの方が私達より詳しいんじゃないか、って笹内くんが」
元々部外者だったはずの僕が行き先を決めるのはおかしな気もしたが、本日の主役と言うべき翠山さんの希望なら断る理由もない。
どこがいいかな。
普段みんなと遊ぶ場所と言えばゲームセンターやカラオケだけど、そういう賑やかな場所はこの二人には合わなそうだし。
あれこれ悩んだ末、僕達が最初に遊ぶ場所はボウリング場に決まった。
ボウリング場のあるアミューズメント施設に着くと、僕達はとりあえず2ゲーム分の料金とシューズ代を払って席に座る。
じゃんけんの結果、投げるのは僕、笹内、翠山さんの順になった。
一フレーム目、僕が倒せたピンは七本だった。
まあこんなもんか。
笹内と入れ替わりに席に戻った僕に、翠山さんが話しかけてきた。
「佐倉くん、ボウリングで使う指ってこの三本なの?」
翠山さんは右手の指をキツネの形にしてこちらに向ける。
僕がうなずくと、翠山さんは自嘲的な笑みを浮かべた。
「私、ずっと鉛筆を持つ指と同じだと思ってた」
「ああ、確かに紛らわしいですよね。僕も去年友達から教えてもらうまでは勘違いしてました」
「佐倉くんはよく友達とボウリングに来るの?」
「結構来ますよ。でも全然上手くならなくて。何かコツでもあれば……」
そこまで言いかけた時、カコーンと爽快感のある音が聞こえてきた。
僕達のレーンからだ。
見ると、こちらへ戻ってくる笹内の向こうで十本のピンが全て倒れていた。
スコアボードにはストライクのマークが表示されている。
「僕に聞くよりも笹内に聞いた方が参考になりそうですよ」
「ふふ、そうかもね。じゃあ次、私行ってくるよ」
すれ違いざまに翠山さんが「おめでとう」と言うと、笹内は「どうも」と返した。
席に帰ってきた笹内に僕は質問する。
「笹内ってボウリングの経験あるの?」
「ほとんどない。クラスの打ち上げで参加させられた時くらいだ」
「その割に上手くない? 何かコツとかあるの?」
「別に。ボールを的に向かって投げるだけなんだから、そんなに難しくはないだろ」
「それは運動神経のいい人だけだよ」
ゴトン、という鈍い音がして視線をレーンの方に向けると、ちょうど翠山さんの投げたボールがガターを転がっていくところだった。
「ほらね」
「…………」
同じように二投目もガターで、翠山さんの一フレーム目の得点は0だった。
「何かコツとかないかな? 笹内くん」
戻ってきた翠山さんは笹内に僕と同じ質問をした。
「……まず腕を真っ直ぐ振るのを意識すれば、ガターは避けられると思います」
「分かった。腕を真っ直ぐ、だね」
「あと出来れば、重めの球を使った方がいいです。その方が軌道も安定しますし」
「なるほど。じゃあもう少し重いのと取り替えてくるよ」
翠山さんが席を立ってボール置き場の方へ歩いていくと、僕は横目で笹内を見た。
「ふふ」
「なんだよ」
「いや、翠山さんには随分素直にアドバイスしてあげるんだなと思って」
「……これくらいのアドバイスなら簡単なんだけどな」
これ以降、翠山さんは笹内がボールを投げる時にはじっと観察するようになった。
先ほどのアドバイスの効果もあったのか、翠山さんはぐんぐん腕を上げていき、一ゲーム目では僕より低かったスコアが二ゲーム目では早くも僕に並んでいた。
「翠山さん才能あるんじゃないですか?」
「うん。私スポーツはあまり得意じゃないけど、これは結構向いてるかも」
僕が褒めると、翠山さんも手応えありげに答えた。
二ゲーム投げ終わった後に翠山さんの希望でもう二ゲーム追加し、気が付けば僕達は二時間以上ボウリングに没頭していた。
これだけ楽しんでもらえたなら、我ながら良いチョイスだったのかもしれない。
ボウリング場を出る頃、翠山さんは薄っすらと汗をかいていた。
「ごめん、こんなに長く運動したの久しぶりだから、ちょっと疲れちゃった。いったんどこかで休憩してもいいかな?」
正直疲れるほどの運動量ではないと思ったけど、僕も喉が乾いていたので僕達は同じビルの別の階にあるファミレスに入ることにした。
初作品なので拙い出来ですが、お読みいただき本当にありがとうございます。
物語は既に完結まで書き溜めていますので、このまま最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
1話あたり約3000字前後で、毎日2話ずつ更新していく予定です。
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