第1章①
新しいクラスに慣れるのがいつ頃なのかは人によって違うし、また毎年同じというわけでもないけれど、高校二年生に進級した年の僕の場合それは大体五月初旬のことだった。
多分特別早くも遅くもなく平均的。
人数の多い部活や委員会に入っている人ほど新しいクラスに友達がいる可能性が高いから慣れるのも早いのだろうけど、面倒くさがり屋の僕はあいにくとどちらにも入っていなかった。
いっそクラス替えなんてしないで毎年同じクラスなら楽でいいのに、と思う時もある。
でも実際にそれを決めている先生方の意見は違っていらっしゃるようで、僕達がせっかく一年かけて築き上げた人間関係を毎年律儀に引き離そうとする。
おかげで今年も僕達は四月からしばらくの間、友達作りに勤しまなければならなかった。
一応断っておくと、僕だって別にクラス替えそのものが嫌なわけではない。
むしろ新しく友達ができることについては楽しみにすらしている。
ただそれはそれとして「去年のクラスの方が楽しかったな……」みたいな結果になる不安が拭い切れないのだ。
という話をすると同意してくれる友達も結構いるので、僕のような平均的なタイプの生徒には割とありがちな悩みなのかもしれない。
もちろん、そんな悩みとは無関係のタイプもいる。
部活や委員会に入っている人達の中でも特に人間関係を築くのが上手いムードメーカーは、一週間もしないうちに自然とクラスの中心に収まっていく。
逆に、六月になってもクラスに馴染めないというタイプもいる。
でもそういう人達も周りより時間がかかるだけで、数は多くなくてもちゃんと気の合う友達とグループを形成していくのが毎年の流れだ。
規模やペースに差こそあれ、基本的にはみんな友達を作ることでクラスの中に自分の居場所を見つけていく。
しかし例外として、友達を一人も作れていないのに既にクラス内での居場所が決まっているという人も稀にいた。
つまり最初から友達を作るつもりがなくて、人と関わらずに一人でいることこそ自分のあり方だと考えているタイプ。
笹内景はそうした中の一人だった。
自己紹介が遅れたけど、僕の名前は佐倉勇気。我ながらなかなか呼びやすくていい名前だと思ってる。
我ながらと言っても当然僕が自分で考えたわけじゃなくて、名前を決めたのはお母さんと多分お父さんだから僕が自慢するのはおかしいんだけど。
どういう理由で勇気という名前に決まったのかは知らない。
小学生の頃に「自分の名前にはどんな意味が込められているのか調べてみよう」という宿題を出されたことがあってその時に一度お母さんに聞いたはずなのだけど、もう十年くらい前のことなのでよく覚えていない。
まあ要するに何が言いたいのかというと、僕と笹内は出席番号がとても近いってことだ。
二年続けて同じクラスなので、僕の後ろの席には入学以来ずっと笹内が座っている。
去年のクラスで席替えが一度もなかったのも、僕にとっては幸運だった。
最初の席の周りに気の合うクラスメイトが多かったからだ。
両隣の女子とも世間話くらいはするようになったし、前の席の駒寺というバレー部員とは特に仲良くなり、二年生でも同じクラスだと分かった時はお互いに喜んだ。
そして後ろの席の笹内も、無口で無愛想ではあったけど決して嫌なやつではなかった。
ただし逆に言えば、嫌なやつではなかったけど無口で無愛想なやつではあった。
毎朝僕より早くに登校しては、下校するまで授業中以外はずっと一人で本を読んでいる。
その姿がまた妙に絵になっているせいで余計に話しかけづらい。
なんというか、こいつは誰とも話さずに一人でいる状態で完成している、という感じがしてくるのだ。
日直や委員会の人が用事で声をかける時も笹内は必要最低限の返事をするだけで、会話らしい会話をしているところは見たことがない。
多分、あいつにとって友達と呼べるような相手は僕だけだ。
一方、僕には笹内以外にも友達はたくさんいた。
駒寺というバレー部員と友達になったのはさっきも話したけど、この駒寺はなかなかのしっかり者で、一学期のうちにはバレー部の一年生のまとめ役になっていた。
そのため同じクラスのバレー部員達は休み時間になると駒寺の席に集まることが多く、後ろの席の僕もいつしか自然と会話に混ざるようになった。
こうして、僕は帰宅部にもかかわらずバレー部の友達が増えていった。
一緒に帰ったり遊んだりするのが一番多いのもやっぱりバレー部の友達だったけど、部活のある日には当然みんなそちらへ行ってしまう。
そんな日の僕は他の部活の友達を探したり、それでも誰も見つからない場合には仕方なく一人で帰っていた。
僕と笹内が初めて会話をしたのは、まさにそんな日の放課後だった。
初作品なので拙い出来ですが、お読みいただき本当にありがとうございます。
物語は既に完結まで書き溜めていますので、このまま最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
1話あたり約3000字前後で、毎日2話ずつ更新していく予定です。
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