プロローグ
「幸せな人生だったんだな」
駅のホームに立ちながら、僕はポツリと呟いた。
色々な人から教えてもらった情報を整理して笹内景の人生について考えてみた時、自然と出てきたのはそんな感想だった。
笹内自身の口から聞いた情報はあまり多くない。
それはつまり、笹内は自分の事情を僕には話したくなかったということだろう。
あいつがいなくなってしまったこと自体より、そちらの方が僕にとっては胸が痛んだ。
ふと遠くから聞き慣れない鳥の鳴き声がして、うつむいていた僕は顔を上げる。
駅から見渡せる住宅街の向こうには深い青色をした海が広がっており、湿った空気のせいでやけに近くに感じられる初夏の空には、大きな入道雲が立ち昇っている。
その海と空の青が交わるちょうど境界線の辺りを、白い海鳥が数羽、風に乗って漂っていた。
一方で視線を少し横へ移せば、そこには緑の山々が並んでいる。
夏らしく豊かに葉を繁らせた木々にその素肌を覆われながら、駅へと続く線路の上に緩やかな稜線を描いていた。
海と山に囲まれたこの街は全てが穏やかで、まるで時間の流れまでがゆったりとしているように感じる。
笹内が小さい頃から見慣れているであろうこの景色も、僕が見るのは今日が初めてだった。
そうした些細な違いさえ、今は僕とあいつの繋がりの薄さを克明に突き付けてくる。
たとえ相手が手の届かないような遠い所へ行ってしまっても、気持ちが繋がっていれば残された方もまた前を向ける。
大事なのは物理的な距離ではなく心理的な距離だ。
そんな当たり前のことすら、僕は最近まで知らずに生きてきた。
だけどあいつは知っていた。ずっと独りで、それに耐えてきた。
そのことを思うと、これまでの笹内との関係を振り返らずにはいられなかった。
僕はあいつとどう接してやればよかったのか。
どうすればあいつから信頼されて、事情を打ち明けてもいいと思ってもらえるような友達になれたのか。
いや、仮に笹内が全てを打ち明けてくれていたとしても、僕はきっと受け止めることができずに逃げていただろう。
だから僕には、あいつに文句を言う資格はない。
諦めに近い気持ちを含んだ溜め息をついて、僕は自分の格好を見下ろす。
空と同じ水色をした半袖のシャツに、雲と同じ真っ白な色の長ズボン。
そして両手に抱えているのは、白と黄色の菊の花束。
そう。僕は今日、ここへお墓参りに来ていた。
この駅のホームに立っていた時、笹内は一体どんな気持ちだったんだろう。
初作品なので拙い出来ですが、お読みいただき本当にありがとうございます。
物語は既に完結まで書き溜めていますので、このまま最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
1話あたり約3000字前後で、毎日2話ずつ更新していく予定です。
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