閑話後編 小さな食卓
「 おいギル! スープの肉 お前の方がでかくないか!?」
「 ……気のせいだ ルシッラ殿は平等に分けてくださっている 」
「 嘘だね! 明らかにそっちの鉢の方に肉がどっさり入ってる!
ズルいぞ 居候のくせに!」
「 ルキウス お行儀が悪いわよ ギルベルトさんは毎日 力仕事をしてくださっているんだから 」
夕食時 小さな食卓には昨日と変わらぬ賑やかな声が響いていた
湯気を立てる鍋を中心に 焼き立ての硬いパンとスープ
この温かな部屋の中にいるだけで ゆっくりと心が満たされていくのが分かった
ルキウスは口を尖らせながらも ルシッラ殿に足してもらった肉を美味そうに頬張っている
その横で 俺は木鉢を両手で包み込み スープを一口啜った
「 ……美味しいです ルシッラ殿 」
そう言葉を向けると 彼女はふわりと柔らかく目を細め 胸が苦しくなるほど美しい微笑みを返してくださった
( 俺は……なんて温かい場所にいるのだろう )
俺には 離れて暮らす大切な家族がいる
妹を守るために 俺は冷酷な城壁の中で生き抜かなければならない
だが いま俺の目の前にいるふたりもまた 守りたい存在になっていた
ルキウスの不器用な優しさと誇り
そして 傷ついた俺をいつも包み込むように手当てし 優しいスープを用意してくれるルシッラ殿の温もり
彼女の手の温もりや 向けられる眼差しを思い出すたび 胸の奥が熱くなり 同時に 俺のような人間が このような幸せを望んでいいのだろうか という逡巡を重ねる
それでも 傍にいたい
「 ギルベルトさん? どうかしましたか?」
首を傾げる彼女に俺は首を振り 心からの感情を込めて言う
「 いえ……何でもありません ただ とてもあたたかいと思っただけです 」
「 うぅわっ!なんだよそれ キザだなぁ 」
ルキウスが呆れたように笑い 部屋の中に穏やかな笑い声が広がる
いつまで続くかわからない
だが この暖炉の火とスープの湯気 そしてこのふたりと分け合った 眩しいほどの時間の記憶だけは どんな理不尽があっても 俺から奪わせない ———
俺は明日への力を 静かに噛み締めていた




