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剥製のジェミニ  作者: ゐなか ろじ
第3章 数理の檻
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閑話後編 小さな食卓

「 おいギル! スープの肉 お前の方がでかくないか!?」

「 ……気のせいだ ルシッラ殿は平等に分けてくださっている 」

「 嘘だね! 明らかにそっちの鉢の方に肉がどっさり入ってる!

ズルいぞ 居候のくせに!」

「 ルキウス お行儀が悪いわよ ギルベルトさんは毎日 力仕事をしてくださっているんだから 」


夕食時 小さな食卓には昨日と変わらぬ賑やかな声が響いていた

湯気を立てる鍋を中心に 焼き立ての硬いパンとスープ

この温かな部屋の中にいるだけで ゆっくりと心が満たされていくのが分かった

ルキウスは口を尖らせながらも ルシッラ殿に足してもらった肉を美味そうに頬張っている

その横で 俺は木鉢を両手で包み込み スープを一口啜った

「 ……美味しいです ルシッラ殿 」

そう言葉を向けると 彼女はふわりと柔らかく目を細め 胸が苦しくなるほど美しい微笑みを返してくださった

( 俺は……なんて温かい場所にいるのだろう )

俺には 離れて暮らす大切な家族がいる

妹を守るために 俺は冷酷な城壁の中で生き抜かなければならない

だが いま俺の目の前にいるふたりもまた 守りたい存在になっていた


ルキウスの不器用な優しさと誇り

そして 傷ついた俺をいつも包み込むように手当てし 優しいスープを用意してくれるルシッラ殿の温もり

彼女の手の温もりや 向けられる眼差しを思い出すたび 胸の奥が熱くなり 同時に 俺のような人間が このような幸せを望んでいいのだろうか という逡巡を重ねる


それでも 傍にいたい


「 ギルベルトさん? どうかしましたか?」

首を傾げる彼女に俺は首を振り 心からの感情を込めて言う

「 いえ……何でもありません ただ とてもあたたかいと思っただけです 」

「 うぅわっ!なんだよそれ キザだなぁ 」

ルキウスが呆れたように笑い 部屋の中に穏やかな笑い声が広がる

いつまで続くかわからない

だが この暖炉の火とスープの湯気 そしてこのふたりと分け合った 眩しいほどの時間の記憶だけは どんな理不尽があっても 俺から奪わせない ———


俺は明日への力を 静かに噛み締めていた

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