第2節 無番の男
「 ハティだ 」
「 ……ハティ?」
「 ハティ 」
「 それだけか 」
「 それだけだ 」
「 ……無番 」
「 無番の民だ 」
「 聞いたことがない 」
「 お前たちはそう呼ばないからな 」
「 ……そうか 」
———無番……やはりそうか
しかし左眼のアレはなんだ?
ボロを着ているにしては 随分上等そうだ
目の前の男と視線がぶつかった気がした
「 女か 」
「 ……違う 」
「 そうか 」
無表情の男はサクスを抜いた
ぼろ布の隙間から覗く腕は 細かった
だが 弱くはない おそらく
「 っ……くそっ!……は? 」
こちらへ向かうと思っていた刃は 静かに男の細腕を赤く染めた
「 ……な…にを 」
私を無視し 男は距離を詰める
「 …寄るな 」
男は躊躇わない
「 じっとしていろ 」
「!」
拒絶するよりも早く 男の指先が私の頸に押し当てられた
ゾッとするほどの熱
( いや 熱いのは血ではない—— )
「 お前…な に…を…っぁ がっ ぁ゙あ゙ッ゙……!!」
脳髄を直接 泥付きの杭で抉られるような激痛
私は泥の中に顔を突っ込み 声にならない悲鳴をあげた
「 …耐えろ 」
男の淡々とした声が 痛みの混濁の中で微かに聞こえた
「 その生体エラー どうにかしろ 」
( …生体 エラー? )
じくじくと焼けるような痛みが 数拍ののち 徐々に引いていく
荒い呼吸を繰り返しながら 私は恐る恐る頸に手をやると あれほど狂ったように のたうち回っていた赤が 穏やかな青へ戻っているようだった
兄上と同じ【 0501-7760-1202 】
「 ……とりあえず 泣き止んだな 」
——ハティは静かに 腕の傷口をぼろ布で拭った




