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剥製のジェミニ  作者: ゐなか ろじ
第2章 剥製の片割れ
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第5節 寄せ集めのテッセラ

朝の光が 薄布のような霧を透過し 小屋の床に淡い光の綾を織りなしていた

パンを切るサクスの音とスープの煮立つ匂い

子供たちの賑やかな目覚めとともに 小屋の時間は再び動き出す

その片隅で ギルベルトはまだ浅い呼吸のまま 昨夜と同じ場所に身を縮めていた


「 お姉ちゃんはどこから来たの?」


木匙を握ったスヴァが スープの湯気の向こうから 思い直したように尋ねた

あまりにも素朴で境界線のない問いかけ

ギルベルトの手がぴたりと止まる

「 どこ……から…… 」

掠れた声が混濁する


ギルベルトの瞳が迷子のように彷徨うのを 高床式の炉床(レイズド・ハース)の薪をくべながら静かに見ていた

普通の人間の子供なら「東の村」や「山の向こう」と答えるのだろう

だがこの少女にとって自分の起源を辿る作業は 絡まり合った糸の束を前に立ち尽くすようなものなのだろう


「 ……ここから 少し南へ下った 広い西の土地だ 」

長い沈黙の末 ギルベルトが絞り出したのはそれだけだった

だが ルヴィが皿を置きながら小さく鼻を鳴らす

「 西のどこなのさ わからないの?刻印つけてるのに 」

子どもたちの無遠慮な興味が ギルベルトの背中を静かに追いつめていく

逃げ場のないその空間で 彼女はぽつりぽつりと 自分の知っている 事実 だけを足元に落とし始めた


「 刻…印……私は 兄上と共に生まれ 同じ数字の刻印を与えられた 」

「 お兄ちゃんと一緒に生まれたの? 」「 ふーん 双子ってやつ?」

「 あぁ……名前も 同じだった 私は 兄の影として育てられた サクスを握り 戦うことだけを教えられた 」

淡々とした語り口だった

自分の生い立ちを嘆く風でもなく ただそうであった と報告するかのような無機質さ

( 2個体に1つの刻印……?)


刻印は人間を識別するためのものだ

だが 彼女には兄と同じ刻印が与えられている

刻印だけでは 目の前の少女と兄を区別できない

その名も身体に刻まれた数字も存在を定義する記号になり得ない


「 兄上とずっと同じだった…それが少しずつそうではなくなった 」

「 同じ?お姉ちゃんはお兄ちゃんじゃないでしょ?」「 当たり前じゃん?」

「 っ!あぁ…そう だな…私は15になり 身体が……私の知らないものになり始めた 」

ギルベルトの指先が頼りなく布を巻かれた首に触れる

「 喉を潰しても無意味だった それを知ったのは あの日…ハティ お前に初めて会った日だ 」

伏せられていた睫毛の奥で 遠くを見つめるギルベルトと視線が交わった

「 父上は私を見て……穢れ と…… 生命の息吹(オンド)と12桁の刻印(ノタメルキ)を本来の姿に戻すために灼き祓わねばならない と 」

「 ……それで 逃げてきたのか 」

ルヴィの声から先ほどまでの刺々しさが消えていた

子供なりに それがどれほど絶望的なものであったかを察したのだろう

スヴァは黙って自分の干し肉を小さくちぎり ギルベルトの皿の縁にそっと置いた

ギルベルトはそれ以上語らなかった

彼女が知っているのは " 自分が経験したこと " だけなのであろう

自分が何故 兄と同じ刻印であるのかも 何故 15歳で " 穢れた " のかも その理由は何も知らないのだ


深く息を吐き 思考の深層へ潜る

己の眼で確認した 刻印による生命の息吹(オンド)の流出

そして今 ギルベルトの口から語られた " 兄と同じ刻印 " " 15歳での身体の変化 "

頭の中で少しずつ モザイク画(テッセラ)が姿を現そうとする

( だが まだ……全ては見えていない )


彼女に施された刻印と 15年という歳月を経て生じた生体エラー

だが それは単なる秩序からの逸脱(エラー)ではない

巨大な秩序(オルド)の中で 初めから折り込まれていた

捨て石への仕様なのか あるいは ———


ギルベルトに向かってその答えを提示することはできない

しかし 今 目の前にいるのは 穢れや歪みという名の抽象概念ではなく 子供から分け与えられた干し肉を 戸惑いながら見つめている 一人の手負いの少女だ

「 ……スープが冷める 食え 」

昨夜と同じ短さで告げ 自分の丸椅子へと戻った


自身もまだ 全ての解が見えているわけではない

ただ 目の前の歪みの背景にある 昏(くら)い泥濘だけを 静かにその胸に刻み込んでいた

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