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7/11

夏の前の苦しさ

「夏休みは皆さん楽しみでしょうが、羽目を外し過ぎないようにしましょう。それからーー」


 今日は学園の1学期の閉会式だ。生徒会長である3年の豊里とよさと秀頼が、全校生徒の前でマイクを持っている。すいはボーッとしながら、生徒会長を眺めた。


 豊里秀頼とはまた、歴史上人物の名前をそっくりで苦労しそうだな。


「秀頼先輩、今日もかっこいい〜」

「良いなあ、お千ちゃん、あんなカッコいい人が彼氏なんだもん」


 皆がコソコソと話している。へえ、千はあの秀頼と付き合っているのか。それも歴史とまったく一緒ではないかーー。


 ーー『水、聞こえているか』

 ーー『水……秀頼さまに頼まれているのですね……!』


 水はハッとした。

 なんだろう、今の声は。心臓がドクドクと音を立てる。


 気が付けば、全校集会は終わったていた。生徒たちは教室へ帰って行く。水は流れに任せて出口へ足を進めた。


 そして、少し先に桜音おとの姿が見えた。ハーフアップに髪を結っているし、横顔の雰囲気が柔らかい感じだから、桜音のはずだーー葉名はなはいつも仏頂面だから話しかけにくいーー。


「桜音さん!」


 水は少し駆け足で桜音を後ろから呼んだ。桜音は驚いたようにこちらを振り返る。


「あ……凄い、よく私だって分かったね」

「分かりますよ」


 桜音は、嬉しそうに微笑んでくれる。


「桜音さん、夏休みは部活あるんですか?」

「ううん、私たちは基本休みなんだ」


 じゃあ、剣道部の練習で学校に来ても、桜音に会うことはできないかーー。


 水はそれが少し寂しく思った。その理由がなぜだかは分からない。ただ、桜音がいると、剣道も勉強も頑張ろうと思えた。


「あ、やっぱり!君、水じゃないか!」


 男性の声に名前を呼ばれる。こちらに駆け寄ってくるのは、先ほど全校集会で見た生徒会長だった。


 ーーこの人、会ったこと、ある?


 生徒会長・豊里秀頼は満面の笑みを浮かべている。自分は、この人に見覚えなどーー。


 ーー『必ず生きて、皆を守って欲しい。これは豊臣からの最後の命令だ』


 また、先ほどの声が水の頭に響いた。


 これは、誰の記憶なんだ、自分の妄想なのか。

 この声、知っているような……。


「良かった。桜音さんと会えたんだね」

「……え?」


 秀頼はそう言葉を続ける。


 どういうことだろう。水は横目で桜音を見てみた。桜音は動揺して、目を泳がせている。


 桜音は、何か知っているのか。


「ちょっと、秀頼さん」

「ああ、千」


 千が水たちに気付き、秀頼の横に並ぶ。千は自然に秀頼の腕に自分の手を添えていた。カップルというより、なんだか長年を共にした夫婦みたいだ。


「引っ掻き回しては駄目です。さあ、行きましょう。水、またね」

「あ……うん」


 秀頼は、千に腕を引かれてその場を後にした。少し焦ったように、水に「ごめんね」と言いながら。


 水は、千と秀頼の背中を眺めたあと、桜音の顔をもう一度見た。桜音は斜め下を向いてしまっていて、こちらを見てくれる気配はない。


「……あの、桜音さん」

「ごめんね、私も……もう行くね」

「あっ、ちょっと」


 桜音は駆け足で行ってしまった。水の手だけが、行き場がなく宙で彷徨っていた。


 ーー私たち、会ったことがあるんですか。

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