表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫呪術代行事務所  作者: 無咲 油圧


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

311/427

第八十四話 赤い紙飛行機 ― 中半 ―

空き地に到着したのは、完全に日が沈み、街灯がぼんやりと光を落とす夜だった。


雑草が伸び、誰も近づかないような荒れた場所。

しかし──その中央だけ、妙に“空気が軽い”。


クロが響の袖をそっとつまむ。


「ここ……何か“抜けてる”。普通の空き地なのに、匂いが変だよ……。」


零は周囲を見渡しながら言った。


「気配が薄いのではない。“子どもの気配だけが、やけに濃い”。」


響は身を縮める。


「ひ……一人でここにいたら、正直気が狂いそうでした……」


零は紙飛行機を指の上に乗せ、そっと空気に触れさせた。


その瞬間──


ぶわっ……!


紙飛行機の折り目から、“白い煙のような気”が溢れ出した。


クロが驚いて後ずさる。


「零……!なにこれ……!」


「この紙に焼き付いた“視界”だ。」


煙は風に流れるように空き地の奥に吸い込まれ……


やがて、地面の一点に集まった。


そこには──

赤い折り紙の切れ端 が、ひっそりと落ちていた。


響が息を呑む。


「こ……これ……! 俺が拾った場所の近く……!」


零は切れ端を拾い上げ、表面を見た。


そこには、幼い字で書かれていた。


『おかあさんに あいたい』


クロの目に涙が浮かぶ。


「……この子、寂しかったんだ……」


零は切れ端と紙飛行機を重ねてみる。


折り目は一致した。


「やはり本来は“二機”だったようだ。一つは“助けて”もう一つは“会いたい”。」


響が青ざめた顔で言う。


「二つ……飛ばされた……?」


零は空き地の奥へ、さらに進んでいく。


──すると、そこにあったのは。


崩れかけた古い鉄塔。

すでに電線もない、廃棄された設備。


しかしその足元の地面だけ、妙に踏み固められている。


クロが震える声でつぶやく。


「……ここ、“誰か”が毎日来てた跡……」


響はハッと顔を上げた。


「そうだ……!近所の人が言ってました……“この空き地で、夕方になると赤い紙飛行機を飛ばしてる子がいる”って……でも、俺は一度も見たことなくて……!」


零の声が低くなる。


「紙飛行機を飛ばしていたのは──この子だ。」


零は空き地の中心に立ち、筆を振る。


風が止まり、静寂が広がる。


そして──


地面から、淡い光が浮かび上がった。


子どもの影。


小さく震える肩。


そして……紙飛行機を握りしめた小さな手。


クロがそっと口に手を当てる。


「……いた……」


影の子どもは、目が無い。

輪郭がぼやけ、形を保つために必死で、その姿は今にも崩れてしまいそうだった。


クロが近寄ろうとした瞬間──

バチッ!!


透明な障壁がクロを弾いた。


「きゃっ……!」


零が素早くクロを抱き寄せる。


「不用意に触れるな。“死の未来を記録する呪い”に触れば、魂が引きずられる。」


クロは唇を噛む。


「じゃあ……どうしたら……?」


零は筆を構える。


「まずは、この子が“なぜ死を選ぶ直前に紙飛行機を飛ばしたのか”を視る。理由を知らなければ、運命は書き換えられない。」


響は震えながらも一歩前に出た。


「俺……この子を助けたい。知りもしない子だけど……でも、あの“たすけて”って書いた字……俺が見つけた意味があったなら……助けたい……!」


少年の声はかすれていたが、真っ直ぐだった。


零は小さく息を吐き、


「分かった。」


と言うと、影の子どもにそっと手を伸ばした。


指先が触れた瞬間──


空気が、反転した。


世界が白く反転し、景色が流れ始める。


クロは零の腕にしがみつき、零は響の肩を掴んだ。


「うわっ……!」


「これが、“子どもの最後の記憶”だ。」


三人の視界が完全に飲み込まれた。


──そして場面は移る。


夕暮れの公園。

ブランコの音。

遠くの住宅街の影。


その中心に──

赤いランドセルを背負った、小学二年生くらいの女の子がいた。


涙をこらえながら紙飛行機を折っている。


小さな声でつぶやく。


『おかあさん……もういないの……?どうして、わたしを置いて……』


クロは胸が締め付けられる。


「この子……“お母さんに会いたかった”だけ……?」


零は表情を変えずに見つめる。


──すると、後ろから男が現れた。


灰色のコートを着た大人の男。

顔はぼやけ、目が黒い穴のよう。


女の子が気づかずにいると、男は低い声で囁いた。


『飛ばせば……会えるよ。赤い紙飛行機は、“会いたい人のところへ飛んでいく”んだ。』


零の目が鋭く光る。


「……“使われた”な。」


女の子は嬉しそうに、紙飛行機を飛ばした。


その直後──

男の影が、少女の背にぴたりと重なった。


そして低く囁く。


『だいじょうぶ。おかあさんは、すぐそこで待ってる。橋の上だよ。』


クロは息を呑む。


「まさか……!」


響も震える。


「俺が見た……俺が落ちる橋……!」


零は短く言った。


「この男は──“死へ誘う怪異かいい”だ。」


景色がゆっくりと黒く染まり、

少女の影が消えた。


そして三人は現実へ引き戻された。


空き地に戻ると、紙飛行機の影が震えていた。


クロは涙を堪えきれない。


「零……この子……“呼ばれた”だけなんだよ……

死にたかったわけじゃ……!」


零は筆を持ち直し、静かに言う。


「分かっている。だからこそ──助ける。」


影の子どもは震えながら、再び紙飛行機を差し出した。


その幼い声は、必死に零へ届く。


『……たすけて……』


零はゆっくりと手を伸ばした。


「必ず助ける。“死の誘い”ごと断ってやる。」


そして、赤い紙飛行機の本当の呪いを暴くために、零は影の中心へと踏み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ