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黒猫呪術代行事務所  作者: 無咲 油圧


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298/427

外伝15 トイレの花子さん ― 前半 ―

午後四時過ぎ。

冬の気配が濃くなった薄曇りの空の下、黒猫呪術代行事務所の扉が小さく鳴った。


「……あの……すみません……!」


勢いこそあるが、戸惑いと怯えをまとった声。


零が目を向けると、制服姿の少女が駆け込むように立っていた。


肩までの黒髪が揺れ、顔は青ざめている。


クロは黒猫姿でストーブの前にいたが、少女を見た瞬間、耳がぴんと立った。


零は淡々と問う。


「用件を言え。」


少女は深呼吸を繰り返し、震えながら名乗った。


「……く、来栖くるすゆあ……です……!

た、助けてください……!“学校のトイレに……人がいるんです……!”」


クロは零のそばに歩いてきて、小さく首をかしげる。


「学校のトイレ……?」


ゆあは、涙のにじむ目で零を見た。


「花子さん……って、知ってますか……?」


零の筆がわずかに止まった。


クロがぴくっと反応する。


「……まさか、その“花子さん”が……?」


ゆあは強く頷いた。


「はい……。都市伝説とかじゃなくて……本物なんです……!声がして……ドアを叩いて……“いるよ”って、返事が返ってきて……!!」


クロはぞわりと毛を逆立てた。


「学校の怪談系って……普通の怪異より質悪いよ……“人が作った恐怖”に、勝手に魂が寄ってきて……本物になっちゃうから……」


ゆあの肩が震える。


「それだけじゃ……なくて……“出てこようとしてる”んです……!今日の放課後……女子トイレで……個室の扉が、外側から勝手に“開いた”んです……!」


クロが零を見上げる。


「あれって……基本、こっちに来ない怪異でしょ……?なんで……出てこようとしてるの……?」


零は静かに立ち上がり、ゆっくりと少女を見つめた。


「ゆあ。花子に“呼ばれた”のはお前一人か。」


ゆあは唇を噛みしめる。


「……わ、分かりません。でも……私……一度だけ……“名前を呼ばれた”んです……」


零の目が細くなる。


「名前を……?」


「はい……“ゆあちゃん、遊ぼ?”って……誰もいないトイレで……声だけが……私の後ろから……」


クロの尾がぴんと立つ。


「それ、完全に目つけられてるじゃん……!」


雨の夜に現れる怪異でもない。

呪われた土地でもない。


だが──


都市伝説が、形を持ち、人を“指名して呼ぶ”。


零は淡々と結論を述べた。


「本物だな。“形を得た悪霊”だ。」


ゆあの目から涙がこぼれた。


「……お願いです……学校に来てください……あのままじゃ……誰かが花子さんに……連れていかれます……!」


クロは零の足元からひょいと跳ね、少女の頬にそっと頭を寄せるようにすり寄った。


「大丈夫。零が行けば……ちゃんと終わるから。ね、零?」


零は筆を手に取り、コートを羽織る。


そして短く告げた。


「案内しろ。」


ゆあは涙を拭き、こくりと頷いた。


玄関で一度だけ振り返った零に、クロが寄り添いながら言う。


「零……今回の相手、強いよ。“人の想像が作った怪異”って……本物の怨霊より厄介だよ……」


零は小さく答える。


「分かっている。だが──放っておけば学校全体が呪われる。」


クロは一瞬だけ少女に姿を変え、零の後ろを歩く足取りに寄り添った。


「うん……じゃあ行こ。花子さんの本性、暴いてあげよう。」


外の夕空は薄く赤く染まり、少女の案内で、二人は“学校”へと向かっていく。


そこではすでに──

個室の扉がひとりでに揺れ、静かに“開く音”が響いていた。

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