表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫呪術代行事務所  作者: 無咲 油圧


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

295/427

第八十話 捻じれた横断歩道 ― 前半 ―

夜の街は、ゆっくりと霧に沈んでいくようだった。


街灯の光がぼやけ、車のヘッドライトは光の帯となって湿った空気を切り裂く。

黒猫呪術代行事務所の帰り、零とクロは並んで歩いていた。


「零、今日の夜……なんか空気、変じゃない?」

クロが手すりにそっと触れながら言う。


零は歩みを止めず、淡々と答えた。


「“気配の流れ”が乱れている。ただの霧ではない。」


その時──


ピン……と、張りつめた見えない何かが零の足先を走った。


クロが振り返る。


「今の……なに?」


零は視線を前へ向ける。


霧の中、ぼんやりと信号機の赤が光っていた。

その手前には、誰もいないはずの横断歩道。


だが──


白線が、左右にねじ曲がっていた。


まるで、誰かが上から両端をつかんでひねったように。

道が捻れ、歪み、向こう側の景色がぐらりと揺れる。


クロは目を丸くした。


「えっ……横断歩道って……こんなふうに歪むっけ?」


零は静かに横断歩道へ向かう。


「普通は歪まない。だが──これは“呪力に触れた空間”だ。」


近づくほど、その歪みは顕著になる。


白線はへし折れ、縫い目のように絡み合い、

信号は青でも赤でもない「濁った灰色」を灯していた。


クロは震えた声を出す。


「零……これ、怪異だよね?」


零は一度だけ頷いた。


「“歩いてはいけない横断歩道”……あるいは──“渡る者を別の場所に連れていく道”。」


クロは身を寄せる。


「うそ……こんな場所、街中に……?」


少し考えるように、零は苦い顔をした。


「この街では珍しくない。“悪意”や“後悔”の溜まりやすい三叉路や交差点は、呪いの入り口になりやすい。」


クロは眉を寄せた。


「じゃあ……ここで何か起きたってこと?」


零が答えようとしたその時。


横断歩道の中央に──

緑色の傘を持った少女が、ぼんやりと立っていた。


年齢は小学生くらい。

だが、姿が揺らぎ、輪郭が霧に溶けている。


クロは驚いて声を上げる。


「ま、真ん中に……誰かいる!!」


零はすぐにクロを抱えて後ろへ下がった。


「クロ、絶対に“白線の内側”には入るな。彼女はこの世界の人間ではない。」


少女は動かない。

ただ下を向き、握った傘の先が地面をコツ……コツ……と叩いていた。


そのリズムが、やけに不気味だ。


クロは震えながら問う。


「……あの子、何してるの……?」


零は低く答える。


「“待っている”。――自分を迎えに来る誰かを。」


クロは息を呑む。


「じゃあ……ここで……」


零は静かに言い切った。


「誰かが轢き殺されたか、誰かを待ったまま死亡したか……いずれにせよ、“未練”がこの道を捻じらせている。」


クロは少女の姿から目を離せない。


「零……助けないと……」


「助けられるかは“原因”次第だ。」


零は横断歩道の手前で立ち止まり、霧の向こうへ視線を細めた。


その瞬間。


横断歩道の奥──

車道の向こうで、“もう一人の影”がこちらをじっと見ていた。


大人の影。

背が高い。

だが顔は見えない。


クロが小声で言った。


「ねえ零……向こうにも誰か……」


零はその影を射抜くように睨んだ。


「……あれが“原因”だ。」


影がゆっくりと、首をかしげた。


──来るな。


声にならない声が、雨のように零とクロへ降り注いだ。


横断歩道の白線が、ぎしぎしと音を立てて捻じれる。


クロが叫ぶ。


「零……これ、やばい!!」


零は筆を構えた。


「行くぞ、クロ。捻じれた道の“真ん中”には、必ず答えがある。」


クロは、零の隣に並ぶ。


「……うん。いっしょに行く。」


捻じれた横断歩道が、不気味な呼吸を始めた。


二人は、ゆっくりとその“禁忌の道”へ足を踏み入れた──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ