表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫呪術代行事務所  作者: 無咲 油圧


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

289/427

間話4 零とクロのクリスマス

十二月二十四日。

黒猫呪術代行事務所の窓の外では、細かい雪が静かに舞っていた。


暖房の音だけが緩く響く室内で、零は黙々と書類と向き合っている。

しかし、時折視線が部屋の隅へと向かうのを、本人は自覚していなかった。


そこでは、黒猫のクロが丸くなり、尻尾を揺らしながらこちらをちらちら見ていた。


「……零」


か細い声。

耳だけで反応した零は筆を止めずに答える。


「なんだ。」


「今日、何の日か……わかってる?」


「……特別な依頼は入っていない日だな。」


「ちがうよ!!」


クロはぷくっと頬を膨らませたかのように尻尾を膨らませ、ぽんっ、と音を立てるように少女姿へ変わった。


白いワンピースに黒髪。

冬の静けさの中で、その姿はどこか雪の精のように見える。


「今日は……クリスマス、なんだよ……」


零は筆を置いた。


「俺には縁がない。」


「……あるよ。だって、わたしがいる。」


クロはとことこと零の前まで歩くと、机に肘をついて覗き込む。


「ねえ零。今日は忙しくないんだし……ちょっとだけ、特別な時間にしようよ。」


「特別な時間?」


「うん! クリスマスって、いっしょにいる人のことを、いつもより大事に感じる日なんだよ。」


零は眉を寄せた。

“いつもより”とは何だ、などと理屈を考えたが──

クロの表情を見て、思考は自然に止まった。


少女のクロは、どこか照れたような、期待するような目をしていた。


「……はぁ。わかった。少しだけだ。」


「やった!!」


クロはぱっと笑顔になり、次の瞬間──

事務所の照明がふっと落ち、代わりに窓辺で星の飾りが瞬いた。


「零、見て見て! わたし、飾りつけしてみたの!」


「……いつの間に。」


「猫のときにこっそり……」


クロは照れたように笑った。


天井には小さな紙の星。

窓には雪の結晶の切り紙。

テーブルの上には、少し歪んだケーキのようなもの。


「それは……」


「つくった! がんばって!」


ケーキの形はひどく不格好で、クリームは斜め。

チョコの文字は読めない。


しかし零は言った。


「……悪くない。」


「え、ほんと!? えへへ……!」


クロは嬉しさを隠さず跳ね、零はその姿を静かに目で追う。


雪は静かに降り続ける。

二人の間に、穏やかな時間が落ちていった。


ケーキを半分ほど食べると、クロがぽつりと言った。


「ねえ、零。プレゼント……交換しない?」


「俺は何も用意していない。」


「いいよ。零がくれるものなら、なんでも。」


「……なんでも?」


「うん!」


零はしばらく沈黙した。

クロはドキドキしながら見つめている。


そして。


零はゆっくり立ち上がり、少女姿のクロの頭にそっと手を置いた。


柔らかく、慎重に。


「……今日くらいは。安心して眠れ。」


「え……?」


「俺がいる。お前を一晩中、護る。」


クロの頬がみるみる赤く染まる。


「……それ、ずるいよ……零……」


その声は震え、クロはそっと零の胸に額を寄せた。


「……ありがと……」


零は何も言わず、その小さな頭に手を置き続けた。


雪が降り続ける夜。


世界がどこまでも静まり返る中──

二人だけの温度が、確かにそこにあった。


しばらく抱き合ったあと、クロはぽつりと囁いた。


「零……メリークリスマス。」


零も小さく答える。


「……ああ。メリークリスマス、クロ。」


その夜、ふたりの事務所にだけは、確かに“あたたかい雪”が降っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ