半月の夢
〈ホーネス〉を出た。霞が出た後からどのくらい経ったのかも分からない。霞が作ったレモンサワーを半分以上残して、何も飲まないままただカウンターに座って、テーブルに首をもたれかからせて、ずっと天井を見ていた。SNSやショート動画に支配された若者に似つかわしくない、ただただ真っ白な天井を某雑と見つめ続けて、首が悲鳴を上げた頃にドアに鍵をかけて店を出た。
店を出て雪の上を何歩か進んだ頃、目の前に知った顔の女の子が目に入った。愛菜だ。愛菜が、賢治と同世代と思われる男と笑いながら〈夕福町〉を歩いていた。
その二人が歩いていく方向とは反対方向の帰路へと雪を踏んだ。
ギュッ、ギュッ。
ただ学部が同じ人、サークルが同じだけの人。いつもならそう思えるようなことかもしれなくても、今のいっぱいいっぱいな賢治の頭の中では処理しきれないことだった。
ギュッ、ギュッ。
もう数えきれないくらい雪を踏んだ後、ふと顔を上げると真っ暗な夜空に半月が浮かんでいた。
三日月にも満月にもなれきれない半月が煌々と青黒い宇宙の中に光輝く。世間じゃ誰も見向きもしない半月。満月がどうだの、三日月がどうだのという暗闇が支配した世の中で、小宵の半月は誇らし気に光輝いている。誰かどうではない、自分はこうだ、と光る半月はどんな形の月よりも美しかった。その美しい光は、賢治にどうやってもこの月には勝てないのだ、と敗北をつきつけた。
絶対的な魅力を持つその光を、浴びせないでくれ。これ以上、もう何も奪わないでくれ。




