夢⑤
「何回言えば分かるんだよ!」
けたたましい怒鳴り声で目が覚めた。目が覚めたといっても、ここは夢の中であるのだから、眠りについたと言った方が正しいのかもしれない。
教科書が山積みになった学習机も、漫画本が敷き詰められた緑色のカラーボックスも、鳥籠の中にいる二羽の文鳥も今では鮮明に見えている。ピピピ、と懐かしい囀りが部屋に響く。
前の夢までと決定的に違うのは、部屋にドアがあることだ。フローリングが床に敷き詰められている現代風の家にありがちな、触るとさらさらしている木製のドア。ドアに近づき、唯一プラスチックで作られている黄土色のノブに手をかける。
このドアの向こうに自分の記憶の答えがある。そのいたずらな好奇心は、事実を知った先の絶望なんて押しつぶすくらい右手に力を込めさせた。
だがその瞬間、ガッ、とドアノブが引っかかるようにこれ以上動かなくなった。鍵がかかっているような感じでもない。何か突っ張り棒のようなものでドアノブが固定されているようなのだ。ドアをドンドンと叩いたり蹴ったりしたって突っ張り棒はびくともしない。ドアを壊そうとタックルしたってドアは鉄の壁みたいにビクともしない。一心不乱に何度も何度も叩いたりぶつかったりした。それてでも結局は手の拳や肩の痛みが増すだけで、目の前の堅物は何も変わりやしなかった。
びくともしないドアとノブの前に賢治はカカシみたいに立ち尽くしていた。すぐそこに答えはあるのに、こんな現実的な物質に夢の中で邪魔されている。
そのまま立ち尽くしていると、散々暴れ回ってバクバク波打っていた心臓が平穏な波へと変わっていく。変わって行くに連れて、周りの音が聴こえ始めた。
静寂へと変わっていく賢治の体内とは裏腹に、部屋の外は逆行するようにうるさくなっていく。ドアを蹴破るのはやめて、壁に耳をそば立てるとより鮮明に音が聞こえてきた。
女性の声だ。それも年老いた者の。激しい怒鳴り声に、突き放すような冷淡な声が部屋の中にわんわんと響いてこだましている。
「なんだい、早くどっか行きな。」
間違いなかった。小さい頃から聴き続けた、タミコの声だった。




