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fuck タミコ

 『もしもし?』

 耳元に当てた携帯から声が聞こえてくる。

 「あ、もしもし、聞こえてるよ。俺々、賢治。」

 携帯の向こう側にいるのは賢治の母親だ。賢治が大学に進学することが決まって、家を出るまで女一人でで賢治を育ててきた。家から大学は通えなくはない距離なのに、「経験よ、一人暮らししなさい。」と言ってありがたく一人暮らしをさせてもらっている。なむなむ。

 こうして母親と話すのは大体月に一度くらいで、話す主な内容は最近の調子のことと、記憶のことだ。たいと言ったってずっと毎日大して変わりないハッピーライフを送っているのだから、話すことに大きな変化はない。その度母親は、「そう、無理しないで。記憶は無理に思い出そうとしなくたって今生きれてるもの。」と元気づけてくれる。

 本当に何も変わりない。ずっと変わりない──。いや、最近はちょっとだけ違うな。

 『夢?』

 「そう、なんか変な夢を見るんだ。狭い真っ白い部屋にいたり、地球儀があったりとか。」

 『不思議な夢ね、疲れてるのかしら。あ、そうそう。話が違うけど、おばあちゃんが顔出せって。』

 「え、まじで。」

 賢治にはタミコという祖母と、ほぼ寝たきりのコジロウ祖父がいる。賢治はこのタミコのことが苦手だった。何をしてもずっと強い口調でぐちぐち言ってくるし、否定してくるし、正直会いなくない。

 『ま、なんか嫌なこと言われても適当に流しときなさい。まともに受け止めないの。』

 そう言われたって、タミコに強く言われるのは、ジョニーに強く言われるのとは話が違う。あーもう憂鬱だ。なんて思いながら「分かった。」と言って電話を切った。



 「久しぶり、ばあちゃん。」

 昔ながらの瓦屋根に石垣のある日本家屋の玄関をガラガラと開けて、リビングにいる祖母に声をかけた。

 「なんだい、何の用だい。」

 「母さんに、顔出せってばあちゃんが言ってるって聞いたから来たんだ。」

 「あぁそんなこと言ったんだっけかね。あ?なんだい、ピアスなんかして、色気付いてやだね。」

 あぁ、やっぱり苦手だこのババア。苦手っていうか、嫌い。

 「なんだい、大学に行って楽しく遊んでるのかい。」

 「あーまぁ、そんな感じ。毎日楽しいわ。」

 「ハン、いいご身分だね、嫌なことなんかない訳か。羨ましいもんだよ。」

 何だこいつ。こっちだってジョニーに毎日怒られて大変だっつの。変な夢のせいで頭も痛くなるしよ。てかなんで呼んだんだよ。毎日暇だけどこんな事のために時間使うならまだ二日酔いで寝てる方がましだっての。いや、それはちょっと言い過ぎかも。二日酔いは本当にしんどいから。

 「あんたと話してたら疲れちまったよ。ハン、飯でも食わないとやってられないね。」

 そう言ってタミコは老眼鏡を目にかけて、新聞紙の上に置かれたチラシを手に取った。

 「近くにできたハンバーグ屋にでも行くかね。歳とったって美味いもんは食いたいもんだね。あぁ、あんたは帰んな。あんたと飯食ったって美味しくなんかないからね。」

 いちいち腹立つし、この歳でハンバーグ食いたいババアとか聞いた事ねぇよ。あー、なんかもう全部腹立つ。

 「何つっ立ってるんだい、帰れ。あぁ、そこに置いてある小銭持ってってくれよ。こないだ洋服を買った時の端金の釣り銭さ。どうせ貧乏学生のあんたには喉から手が出るほどほしいだろ?」

 そう言ってタミコは今日初めての笑みを浮かべていた。思わずタミコを殴りそうになった握り拳をなんとか押さえて、「じゃあ。」と言って家を後にした。腹は立ちながらも、その握り拳にはちゃっかり小銭を握りしめて。

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