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EP 9

商社マンの論理(ざまぁ展開)

「……あ?」

ルナミス帝国の小隊長は、怪訝な顔で俺を見下ろした。

「おいおい、辺境のコンビニ店長が、なんで俺たちの『L-Payルナミス・ペイ』を知ってやがる?」

「商売人なら、顧客の決済システムを把握しておくのは当然の義務だ」

俺はカウンターに両手をつき、言葉を紡ぐ。

「ルナミス帝国の軍規は極めて厳格だ。特に内務卿オルウェルの管理下にあるL-Payは、すべての決済記録が中央の『T-ネットワーク』に常時同期されている。違うか?」

兵士たちの顔から、少しだけ血の気が引いた。

『オルウェル』。帝国の法と恐怖の番人の名を出されたからだ。

「帝国軍による正規の『徴発』には、電子的な承認コードが必要なはずだ。それがない状態での物資の略奪は、ただの『横領』あるいは『強盗』として処理される」

「う、うるせぇ! こんな村での出来事、上にバレるわけ――」

「バレるわけない? ……ふっ、甘いな。甘すぎて虫歯になりそうだ」

俺が指を鳴らすと、店の奥から「まいど!」と聞き慣れた関西弁が響いた。

「ポポロ村・財務担当のニャングルでっせ。お兄さんら、ええ笑顔やなぁ」

煙管を咥えた猫耳の獣人が、スマートフォン型の『魔導通信石』を片手に現れた。

その画面には、バッチリと兵士たちが店内で暴れようとしている姿が録画されている。

「にゃ、ニャングルだと!? なんでゴルド商会の幹部がこんな所に……ッ!」

「店長はんと、ちぃと業務提携してましてな。で、この録画データなんやけど……」

ニャングルはニヤァと、底意地の悪い笑みを浮かべた。

「すでにルナミス内務省の『不正通報窓口』に、リアルタイムで送信済みやで。今頃、オルウェルはんの所のAIアルゴリズムが、あんさんらの生体IDと部隊番号を特定しとる頃やろなぁ」

「なっ……!?」

「ちなみに、ポポロ村は不可侵の緩衝地帯だ」

俺は追撃の手を緩めない。商談は、相手の逃げ道を全て塞いでからが本番だ。

「ここで他国の兵士が略奪を行えば、明確な『国際条約違反』になる。最悪の場合、三国間の全面戦争だ。お前らみたいな末端のチンピラに、その責任コストが払えるのか?」

ピピッ、ピピピッ!

俺が言い終わると同時、兵士たちの胸ポケットに入っていた通信石が一斉に不吉な警告音を鳴らした。

小隊長が震える手で画面を見ると、そこには無慈悲な赤い文字が点滅していた。

『警告:重大な軍規違反の疑い。対象者のL-Pay口座、および所属部隊の活動予算を【凍結】しました――内務統括局』

「あ、あああ……!? 凍結!? 俺たちの給料が! キャバクラのツケが!!」

「あーあ。これで帝国に戻ったら、即刻『再教育施設』送りやなぁ。ご愁傷様やで」

ニャングルがわざとらしく肩をすくめる。

恐怖と絶望で顔を青ざめさせた兵士たち。だが、窮鼠猫を噛むという言葉がある通り、小隊長は血走った目で魔導小銃を構えた。

「こ、こうなったら……! この村の連中を全員消して、証拠隠滅するしかねぇ!! 撃てぇっ!!」

「キャルル! ルナ!」

俺の指示と同時、カウンターの裏に隠れていたキャルルが猛スピードで飛び出し、男の小銃を蹴り上げた。

天井に風穴が開き、兵士たちがたじろいだその一瞬の隙。

俺はレジ下から、あらかじめ用意しておいた『防犯用カラーボール(魔力入り)』を取り出し、男たちの顔面に向けて思い切り投げつけた。

パーーーーーンッ!!

「ぐああっ!? な、なんだこのオレンジ色の塗料は!?」

「それは魔導防犯塗料だ。一ヶ月は絶対に落ちない。逃亡兵として追われるには最高の目印だな」

そして、俺はレジ横で煮えたぎる『ヨシマサ・おでん』の鍋の前に立ち、特大のオタマを握りしめた。

「さらに、うちには優秀な防衛設備ホットスナックがあってな」

チャプンッ。

熱々の出汁をたっぷり吸い込んだ、ポポロ村特産の『月見大根』と、沸騰した『おでんの汁』をすくい上げる。

「いらっしゃいませ。温めますかァ!!」

バチャァァァァァッ!!!

「ぎゃああああああああああっ!!? あつい! 熱いぃぃぃ!!」

「目が! 大根の出汁が目に染みるぅぅ!!」

「ひぃぃっ! ば、化け物だ! 逃げろぉぉっ!!」

完璧な経済的封鎖と、物理的な熱湯(出汁)攻撃。

顔をオレンジ色に染め、頭におでんの大根を乗せたルナミス帝国の兵士たちは、涙と鼻水を撒き散らしながら、一目散に店から逃げ出していった。

「……ふぅ。これで一件落着だな」

俺はオタマを鍋に戻し、コーヒーキャンディの残りをガリッと噛み砕いた。

横では、ニャングルが算盤を弾きながら大爆笑している。

「あー、傑作や! ルナミスの兵隊が、大根ぶつけられて逃げていきよったで! 店長はん、あんたホンマにえげつない男やなぁ!」

「過剰防衛にならない程度の、適切なリスク管理をしただけだ」

俺がネクタイを締め直していると、バックヤードから顔を出したキャルルが、目をキラキラさせて俺に飛びついてきた。

「義正くん、すごい! すごい!! 武器も使ってないのに、あっという間に追い払っちゃった!」

「当たり前だ。俺は店長だからな」

ウサギ耳をパタパタさせて喜ぶ村長の頭を、ポンポンと軽く撫でてやる。

「さて、リーザ、ルナ。床の掃除をしてくれ。通常営業に戻るぞ」

「はいっ、店長!!」

「ただいまモップを生成しますわ!」

こうして、異世界コンビニ『ヨシマーソン』に降りかかった最初の危機は、元商社マンの完璧な「算盤」によって、圧倒的なまでの勝利(黒字)で幕を閉じたのである。

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