EP 8
【事件発生】ルナミス帝国軍の兵站部隊、襲来
ポポロ村は、ルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国の『緩衝地帯』である。
建前上、三国は不可侵条約を結んでおり、大規模な軍事衝突は起きない。
……だが、現場の「下っ端」まで完全に統制されているわけではなかった。
ウィーン。
♪ファミファミファ〜、ファミファミッファ〜。
「おいおい、こんな辺境の村に、なんだこの明るい箱はよ?」
「ハッ、村の連中がこそこそと美味いもん隠し持ってるって噂、マジだったみたいだな!」
ヨシマーソンの間抜けな入店音と共に現れたのは、土埃に塗れた軍装の男たちだった。
胸にはルナミス帝国の紋章が入った『魔導防弾チョッキ』。背中には『魔導小銃』を背負っている。
ルナミス帝国の末端、付近を巡回する兵站(補給)部隊の兵士たちだった。
「い、いらっしゃいませ……ッ!?」
レジ打ちをしていたリーザが、彼らの粗暴な空気に肩をビクッと跳ねさせた。
「おっ? なかなか上玉の女がいんじゃねぇか。おい、魚人族のお姉ちゃん。俺たちはルナミス帝国の兵士様だ。この大陸の平和を守ってやってるんだぜ?」
ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべた小隊長らしき男が、泥のついたブーツで店内に上がり込み、レジ横のホットスナックケースをバンッと叩いた。
「この美味そうな肉と芋、全部『徴発』してやる。袋に詰めな! あと、そこの酒(芋酒)も全部だ!」
「ち、徴発ですって……!? ま、まさか……タダで持って行くおつもりですの!?」
「当たり前だろ! 帝国の兵士様に飯を恵むのは、辺境の村人の義務だろうが!」
男が横柄に笑い、自らの魔導小銃の銃床をポンポンと叩いて威嚇する。
「そ、そんな……! この唐揚げは、わたくしが今夜、廃棄として神聖なる儀式で胃袋に納める予定の……ッ!!」
「あ? 廃棄だぁ? だったらちょうどいいだろ、寄越せ!」
男が無理やりホットスナックケースを開けようとした、その瞬間。
「……ねぇ」
ぞわり、と。
店内の空気が、一瞬で氷点下まで凍りついた。
「あんたらさ。義正くんのお店で、何してるの?」
声の主は、品出し用の段ボール箱を置いたキャルルだった。
ぽわぽわとしたいつもの笑顔はない。
頭のウサギ耳は感情を殺したようにペタリと伏せられ、琥珀色の瞳は「獲物の急所」だけを冷徹に見据えていた。
「あぁ? なんだ、獣人族のガキか。ウサギ風情が、帝国の銃に逆らう気か?」
「……平和が一番なのに」
キャルルの足元で、パチッ、パチッ……と紫色の火花が散り始めた。
特注の靴に仕込まれた雷竜石が、彼女の凄まじい『闘気』に反応して励起しているのだ。
(まずは顎を砕いて……強制的に回復させて、次は肋骨……)
本物の殺気(フルOSモード)が、ヨシマーソンの店内に充満しようとした、その時。
「待て、キャルル」
キャルルの肩を、後ろから伸びてきた手がガシッと掴んだ。
「……義正くん」
「お前はバックヤードで品出しの続きだ。ルナ、お前もだ。リーザはレジの奥に下がってろ」
俺はキャルルを背中に庇い、兵士たちの前へと進み出た。
口の中のコーヒーキャンディを、奥歯でガリッと噛み砕く。
「なんだテメェは? この店の責任者か?」
「いかにも。俺が店長の力武義正だ」
俺は、商社マン時代の『絶対に相手を逃がさない時』にだけ見せる、冷たくて完璧な営業スマイルを浮かべた。
「義正くん……でも、こいつら!」
「キャルル。俺はさっき、お前を採用する時に言ったはずだぞ。『特別扱いはしない』とな」
俺は振り返らずに、ウサギ耳の村長をピシャリと制した。
「店長を差し置いて、アルバイトが客と喧嘩するんじゃねぇ。……こういう厄介な『クレーム対応』は、店長の仕事だ」
「……っ」
キャルルの闘気がスッと収まり、彼女は大人しく一歩下がった。
「ハッ! 随分と話の分かる店長じゃねぇか。だったらサッサと、この食料を――」
「お買い上げですね。ありがとうございます」
俺は男の言葉を遮り、手元のレジスター(チートで具現化した最新型POSレジ)を操作した。
「ヨシマサ・からあげ二十個、ヨシマサ・ポテト十個、芋酒のボトル三本。……お会計、金貨一枚と銀貨二枚になります。お支払いは、現金ですか? それとも――」
俺は男の胸元、軍服のポケットのあたりを鋭く見据えた。
「ルナミス帝国の電子通貨(L-Pay)になさいますか?」
「……あ?」
男の顔から、余裕の笑みが消えた。
「テメェ、頭イカれてんのか? さっき『徴発』だって言っただろ! 払う金なんか――」
「払う金なら、あるだろう? あんたらの端末(スマートフォン型の魔導通信石)の中に、たっぷりと」
俺の『算盤』は、すでにこのチンピラ兵士どもの弱点を完全に弾き出していた。
暴力には暴力、ではない。
経済の横暴には、完璧な『経済と法』の暴力で報復するのだ。




