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EP 4

村長、ヤキモチでレジ打ちを志願する

翌朝。

異世界コンビニ『ヨシマーソン』の店内には、早くも異様な熱気が満ちていた。

「いらっしゃいませー! 温かいお茶はあちらの棚ですわー! お弁当温めますか!? レジ袋はお持ちですか!?」

青い髪をなびかせ、ヨシマーソンのストライプ柄エプロンを身に纏ったリーザが、レジカウンターの中でマッハのスピードで動いていた。

ポイ活、試食品漁り、早朝のラジオ体操スタンプ集め。

底辺サバイバル生活で培われた彼女の『無料タダで生き抜くためのハングリー精神』は、コンビニ業務と恐ろしいほどに噛み合っていた。

バーコードを読み取る「ピッ」という電子音が、かつてないBPMで店内に響き渡る。

「……すげぇな。初日でワンオペ回せるレベルじゃねぇか」

俺はバックヤードでコーヒーを啜りながら、その異常な適応力に舌を巻いていた。

ウィーン。

♪ファミファミファ〜、ファミファミッファ〜。

「あ、義正くん! おはようー!」

入店音と共にやってきたのは、ポポロ村の村長にして俺の命の恩人、キャルルだった。

今日も人参柄のハンカチを片手に、ぽわぽわとした笑顔を浮かべている。

だが、彼女の視線がレジカウンターのリーザを捉えた瞬間。

キャルルの頭の上にあるウサギ耳が、ピンッ! と垂直に逆立った。

「……え? リーザちゃん、なんでそんな可愛いエプロン着てるの?」

「あらキャルル。おほほほ! わたくしは今、店長(義正様)の右腕として、この城を任されておりますの! アイドル活動と並行して、神聖なる『労働』に身を捧げておりますわ!」

ドヤ顔で胸を張るリーザ。

昨晩、廃棄のエクレアを泣きながら三つ平らげていた姿からは想像もつかないドヤ顔である。

キャルルは、じーっとリーザを見つめ、それからバックヤードから出てきた俺をジト目で睨んだ。

「義正くん。これ、どういうこと?」

ぷくぅ、と頬を膨らませるキャルル。

あからさまなヤキモチだった。

恩を売った(本人はそう思っていないだろうが)はずの自分が知らない間に、居候のリーザが俺と『店長と店員』という特別な関係を築いているのが面白くないらしい。

「どうもこうもねぇよ。こいつが廃棄弁当目当てで転がり込んできたから、労働力として使ってるだけだ」

「ずるい! リーザちゃんばっかり!」

キャルルはレジカウンターに詰め寄り、リーザのエプロンを引っ張った。

「私だってやりたい! その『ピッ』ってやつ、やりたい!」

「だ、ダメですわ! これはわたくしと店長を繋ぐ聖なる絆の証! キャルルは村長の仕事があるでしょう!?」

「最近平和だから村長の仕事なんてハンコ押すくらいしかないもん! 義正くん! 私も雇って!」

キャルルが俺の袖を掴み、上目遣いで訴えかけてくる。

(……面倒くせぇな)

俺はポケットから赤マルを取り出し、火を点けようとして――店の中だったことを思い出し、代わりにコーヒーキャンディを口に放り込んだ。

ガリッ。

奥歯でキャンディを噛み砕く。

商社マンの『算盤ロジック』が、瞬時に損益分岐点を計算し始める。

(待てよ? この村の『村長』を、うちの店の従業員として取り込む?)

現代日本で例えるなら、出店先の地元有力者や、天下りの大物官僚を自社の役員アドバイザーとして迎え入れるようなものだ。

今後、他国や近隣の領主がこの『ヨシマーソン』にちょっかいを出してきた時、「村長が直轄で働いている店」という事実は、最強の政治的防波堤シールドになる。

それに何より。

(俺の血を吐いてまで治してくれた恩人に、村のハンコ押しなんかで退屈させておくわけにはいかねぇよな)

算盤は、完璧に黒字プラスを叩き出していた。

「……分かった。キャルル、お前も採用だ」

「ほんと!? やったー!」

ウサギ耳をパタパタと揺らして喜ぶキャルル。

「ただし、俺は経営にはシビアだ。特別扱いはしねぇぞ。時給はどうする?」

「うーん……じゃあ、私もリーザちゃんと同じでいいよ! 廃棄のスイーツ! あと、休憩中の飴玉食べ放題!」

「……お前ら、それでいいのかよ」

俺は呆れながらも、予備のストライプエプロンをキャルルに投げ渡した。

「よし。今日からお前がアルバイト2号だ。頼んだぞ、村長」

「えへへ、任せて! いらっしゃいませー!」

キャルルはエプロンをきゅっと結び、満面の笑みでレジに立った。

隣では、リーザが「わたくしの方が先輩ですわよ!」と対抗心を燃やしている。

こうして、異世界コンビニ『ヨシマーソン』は、ポポロ村の村長(超絶武闘派)を最低賃金スイーツで雇用するという、チート級のセキュリティ体制を手に入れたのだった。

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