表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/36

EP 5

ポンコツエルフと偽金事件

コンビニ経営における最大の罠。

それは「ホットスナックの誘惑」である。

「うぅ~ん……いい匂い。これは世界樹の蜜にも勝る芳醇な香りですわ……」

ウィーンという入店音と共に現れたのは、金糸のような長い髪と、尖った耳を持つ絶世の美女だった。

エルフ族。それも、ただのエルフではない。

彼女はレジ横のホットスナックケースにへばりつき、陳列された『ヨシマサ・からあげ』を恍惚とした表情で見つめている。

「いらっしゃいませ! からあげですね! ひとつ銅貨二枚になりますわ!」

「全部、いただきます」

「ぜ、全部!? ありがとうございますわ!!」

レジ担当のリーザが歓喜の声を上げる。

エルフの美女は、リーザから受け取った特大サイズのからあげパックを、その優雅な見た目に反する凄まじいスピードで平らげ始めた。

「はむっ……んん~! サクサクの衣から、肉汁がジュワッと! エルフの森では決して味わえないジャンクな背徳感……たまりませんわ!」

あっという間に二十個近いからあげが、彼女の胃袋へと消えていった。

「お買い上げありがとうございますわ! お会計、銀貨四枚になります!」

リーザが元気よく手を差し出すと、エルフの美女は「ふふっ」と優雅に微笑み、足元に転がっていた『ただの石ころ』を拾い上げた。

「ごきげんよう。お代はこちらでよろしくて?」

彼女が石ころを両手で包み込み、淡い緑色の魔力を込める。

すると、なんの変哲もなかった石ころが、まばゆい光を放ち、ずっしりとした『純金の塊』へと変化したではないか。

「えっ……? き、金!?」

「ええ。世界樹の加護による錬金術ですわ。これで釣りはとって――」

エルフが誇らしげに純金をリーザに渡そうとした、その瞬間だった。

パーーーーーンッ!!!

「痛ぁっ!?」

乾いた破裂音が店内に響き渡った。

見れば、品出しをしていたキャルルが、どこからともなく取り出したハリセンで、エルフの美女の頭を見事にフルスイングで叩き突っ込んでいた。

「ルナちゃん! ダメでしょ、義正くんのお店で『三日だけ金になるニセモノ』を使っちゃ!」

「あうぅ……キャルルさん、酷いですわ。私、どうしてもあの揚げたお肉が食べたかったんですもの……」

頭を押さえて涙ぐむエルフの美女――ルナ。

キャルルから事情を聞いて、俺はバックヤードから顔を出した。

「……なるほど。お前が世界樹の森の次期女王候補、ルナ・シンフォニアか」

「はい……。あの、本当にごめんなさい。決して悪気は……」

エルフの姫君は、シュンと肩を落として上目遣いで俺を見つめてくる。

天然で、優しくて、可愛い。

だが、そんなものは商社マンの俺には1ミリも通用しない。

俺はポケットからコーヒーキャンディを取り出し、ガリッと噛み砕いた。

「ルナ。悪気が無かろうが、偽造通貨の行使は国家・ギルドを問わず重罪だ」

「ひぃっ……!」

「被害届を出されたくなければ……落とし前、つけてもらうぞ」

俺は静かに、しかし絶対的な圧力を込めて宣告した。

「へ? お、落とし前……? ま、まさか私、売られてしまうんですの……? 世界樹様、ごめんなさい、私、人間の奴隷に……っ」

顔面蒼白になり、ポロポロと涙をこぼし始めるルナ。

俺はため息をつきながら、バックヤードから『ストライプ柄のエプロン』を引っ張り出し、彼女の頭にポンと被せた。

「金が無いなら、体(労働)で払え」

「……え?」

「今日からお前もここで働け。レジ打ちと、清掃、それと商品の袋詰めだ。時給は……そうだな、お前がさっき食った『からあげ』のまかないで手を打ってやる」

ルナはきょとんとした後、エプロンを握りしめ、パァァッと顔を輝かせた。

「ほ、本当ですか!? 私、キャルルさんたちと同じ服を着て、一緒にお店屋さんごっこ……じゃなくて、お仕事ができるんですの!?」

「ごっこじゃねぇ、実務だ。おいリーザ、こいつにレジの打ち方を教えとけ」

「ふふん! 仕方ありませんわね、わたくしが直々に指導してあげますわ! ついてきなさい、新入り!」

先輩風を猛烈に吹かすリーザに連れられ、ルナは「はいっ、先輩!」と嬉しそうにレジカウンターへと入っていった。

(……世界樹の次期女王を、からあげの現物支給でレジ係に、ね)

俺は赤マルを咥え(火は点けない)、ニヤリと口角を上げた。

キャルル(獣人族の姫・最強の武闘派)、

リーザ(海中国家の姫・客寄せパンダ)、

ルナ(エルフの次期女王・歩く戦略兵器)。

三大国のトップVIPたちが、揃いも揃って俺のコンビニでエプロン姿でレジを打っている。

時給は廃棄弁当とスイーツとからあげ。

(俺の算盤は、完璧な黒字を弾き出しやがったぜ)

異世界コンビニ『ヨシマーソン』の基盤は、これにて完全に整ったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ