EP 5
ポンコツエルフと偽金事件
コンビニ経営における最大の罠。
それは「ホットスナックの誘惑」である。
「うぅ~ん……いい匂い。これは世界樹の蜜にも勝る芳醇な香りですわ……」
ウィーンという入店音と共に現れたのは、金糸のような長い髪と、尖った耳を持つ絶世の美女だった。
エルフ族。それも、ただのエルフではない。
彼女はレジ横のホットスナックケースにへばりつき、陳列された『ヨシマサ・からあげ』を恍惚とした表情で見つめている。
「いらっしゃいませ! からあげですね! ひとつ銅貨二枚になりますわ!」
「全部、いただきます」
「ぜ、全部!? ありがとうございますわ!!」
レジ担当のリーザが歓喜の声を上げる。
エルフの美女は、リーザから受け取った特大サイズのからあげパックを、その優雅な見た目に反する凄まじいスピードで平らげ始めた。
「はむっ……んん~! サクサクの衣から、肉汁がジュワッと! エルフの森では決して味わえないジャンクな背徳感……たまりませんわ!」
あっという間に二十個近いからあげが、彼女の胃袋へと消えていった。
「お買い上げありがとうございますわ! お会計、銀貨四枚になります!」
リーザが元気よく手を差し出すと、エルフの美女は「ふふっ」と優雅に微笑み、足元に転がっていた『ただの石ころ』を拾い上げた。
「ごきげんよう。お代はこちらでよろしくて?」
彼女が石ころを両手で包み込み、淡い緑色の魔力を込める。
すると、なんの変哲もなかった石ころが、まばゆい光を放ち、ずっしりとした『純金の塊』へと変化したではないか。
「えっ……? き、金!?」
「ええ。世界樹の加護による錬金術ですわ。これで釣りはとって――」
エルフが誇らしげに純金をリーザに渡そうとした、その瞬間だった。
パーーーーーンッ!!!
「痛ぁっ!?」
乾いた破裂音が店内に響き渡った。
見れば、品出しをしていたキャルルが、どこからともなく取り出したハリセンで、エルフの美女の頭を見事にフルスイングで叩き突っ込んでいた。
「ルナちゃん! ダメでしょ、義正くんのお店で『三日だけ金になる石』を使っちゃ!」
「あうぅ……キャルルさん、酷いですわ。私、どうしてもあの揚げたお肉が食べたかったんですもの……」
頭を押さえて涙ぐむエルフの美女――ルナ。
キャルルから事情を聞いて、俺はバックヤードから顔を出した。
「……なるほど。お前が世界樹の森の次期女王候補、ルナ・シンフォニアか」
「はい……。あの、本当にごめんなさい。決して悪気は……」
エルフの姫君は、シュンと肩を落として上目遣いで俺を見つめてくる。
天然で、優しくて、可愛い。
だが、そんなものは商社マンの俺には1ミリも通用しない。
俺はポケットからコーヒーキャンディを取り出し、ガリッと噛み砕いた。
「ルナ。悪気が無かろうが、偽造通貨の行使は国家・ギルドを問わず重罪だ」
「ひぃっ……!」
「被害届を出されたくなければ……落とし前、つけてもらうぞ」
俺は静かに、しかし絶対的な圧力を込めて宣告した。
「へ? お、落とし前……? ま、まさか私、売られてしまうんですの……? 世界樹様、ごめんなさい、私、人間の奴隷に……っ」
顔面蒼白になり、ポロポロと涙をこぼし始めるルナ。
俺はため息をつきながら、バックヤードから『ストライプ柄のエプロン』を引っ張り出し、彼女の頭にポンと被せた。
「金が無いなら、体(労働)で払え」
「……え?」
「今日からお前もここで働け。レジ打ちと、清掃、それと商品の袋詰めだ。時給は……そうだな、お前がさっき食った『からあげ』のまかないで手を打ってやる」
ルナはきょとんとした後、エプロンを握りしめ、パァァッと顔を輝かせた。
「ほ、本当ですか!? 私、キャルルさんたちと同じ服を着て、一緒にお店屋さんごっこ……じゃなくて、お仕事ができるんですの!?」
「ごっこじゃねぇ、実務だ。おいリーザ、こいつにレジの打ち方を教えとけ」
「ふふん! 仕方ありませんわね、わたくしが直々に指導してあげますわ! ついてきなさい、新入り!」
先輩風を猛烈に吹かすリーザに連れられ、ルナは「はいっ、先輩!」と嬉しそうにレジカウンターへと入っていった。
(……世界樹の次期女王を、からあげの現物支給でレジ係に、ね)
俺は赤マルを咥え(火は点けない)、ニヤリと口角を上げた。
キャルル(獣人族の姫・最強の武闘派)、
リーザ(海中国家の姫・客寄せパンダ)、
ルナ(エルフの次期女王・歩く戦略兵器)。
三大国のトップVIPたちが、揃いも揃って俺のコンビニでエプロン姿でレジを打っている。
時給は廃棄弁当とスイーツとからあげ。
(俺の算盤は、完璧な黒字を弾き出しやがったぜ)
異世界コンビニ『ヨシマーソン』の基盤は、これにて完全に整ったのである。




