表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

EP 3

異世界コンビニ『ヨシマーソン』開店と、パンの耳をかじる人魚

キャルルに案内されて辿り着いたポポロ村は、のどかな農業ギルドの村といった風情だった。

畑には見慣れない巨大な大根や、引っこ抜くと叫び声を上げる人参(人参マンドラらしい)が植わっている。

「ここが私の村! ゆっくりしていってね、義正くん」

ニコニコと笑うキャルル。

だが、俺の『算盤』はすでに弾き始められていた。

彼女への恩を返すにも、まずはこの世界での「資本(拠点)」が要る。

「……よし、試してみるか」

俺は深呼吸し、クソ女神から押し付けられたユニークスキルを念じた。

『――【コンビニ】、発動』

ドゴォォォォンッ!!

何もない村の空き地に、光と共に巨大な直方体の建物が出現した。

白と青のストライプ看板。煌々と輝くLED照明。

全面ガラス張りの、見慣れすぎた現代日本の「あの店舗」である。

ウィーン。

♪ファミファミファ〜、ファミファミッファ〜。

俺が近づくと、自動ドアが開き、あの間の抜けた入店音が異世界の村に鳴り響いた。

「よ、義正くん!? なにこのピカピカの箱のお城!!」

「城じゃねぇ、店舗だ」

中に入ると、冷暖房が完璧に効いている。

棚にはおにぎり、パン、スナック菓子、日用品がびっしり。レジ横にはホットスナックのケースまである。

電気も水道も、魔法的な何かで完全に独立稼働しているらしい。規格外のチート性能だ。

「とりあえず、在庫と消費期限の確認からだな……ん?」

バックヤードから弁当の陳列棚をチェックしていた俺は、ひとつの『幕の内弁当』を手に取った。

チート能力とはいえ、商品の時間は進むらしい。わずかに消費期限が切れていた。

「これは廃棄ロスか。もったいねぇが――」

ギュルルルルルゥゥゥゥ……!!

突如、自動ドアの向こうから、雷鳴のような腹の虫の音が響いた。

「……あ?」

見れば、ガラスの向こうに一人の美少女がへばりついている。

透き通るような青い髪に、宝石のような瞳。

絶世の美少女だが、その手にはなぜか『パンの耳』と『茹で卵』が大事そうに握られていた。

「あ、あわわ……見られましたわね」

少女は誤魔化すようにパンの耳をかじり、謎のステップを踏みながら毅然と言い放った。

「わ、わたくしは絶対無敵のスパチャアイドル、リーザ! アイドルたるもの、ファンからの愛(お布施)は受け取っても、みだりに施しなど受けませんわ!」

ぐぎゅるるるるるる。

彼女の腹が、限界を超えた悲鳴を上げる。

透き通るような青い髪の少女(後で知ったが、人魚族の姫らしい)は、俺の手にある『廃棄弁当』から視線を1ミリも外せていない。

「……お前、キャルルの知り合いか?」

「リーザちゃん! どうしたの、そんなにお腹空かせて!」

キャルルが駆け寄ると、リーザと呼ばれた少女は涙目でプルプルと首を振る。

「だ、大丈夫ですわ! 今日は公園で新鮮な雑草サラダを摘んできましたし! アイドルはかすみを食べて生きるんですのよ……っ!」

(……強烈なアホが来たな)

俺はため息をつき、電子レンジで温めた幕の内弁当を、リーザの顔の前に突き出した。

「アイドルの矜持は立派だが、これは売り物じゃねぇ。『廃棄』だ。ただのゴミだよ。ゴミの処理を手伝ってくれるなら、俺は助かるんだがな?」

「……っ!! ゴ、ゴミなら……地球環境のために、わたくしが処分してさしあげますわ!!」

リーザは光の速さで弁当を引ったくると、箸を割り、ハンバーグと白米を猛然と口に掻き込んだ。

「う……っ」

「おい、喉詰まらせるなよ」

「うまああああああああい!! なんですのこれ!? お肉から肉汁が溢れ出ますわ! お米が白くて光ってますわああ!!」

涙と鼻水を流しながら、絶世の美少女がコンビニ弁当を平らげていく。

その姿を見ながら、俺の脳内で『採用計画』が完了した。

24時間営業の店舗を回すには、安い労働力マンパワーが不可欠だ。

プライドばかり高くて腹を空かせている女?

……最高の「優良物件」じゃないか。

「おい、リーザとか言ったな」

「はひっ?(モグモグ)」

「お前、ここで働け。レジ打ちと品出しだ」

「えっ……アイドルが、労働?」

「時給は出ねぇが、『廃棄の弁当とスイーツ』は全部お前の裁量で処分くってしていいぞ」

その瞬間、リーザの目の色がカッと見開かれた。

「や、やりますわ!! やらせてくださいませ店長!! わたくしの命、ヨシマーソンに捧げますわ!!」

リーザは弁当の空箱を持ったまま、床に頭を擦りつけるほどの見事な土下座を披露した。

かくして。

異世界コンビニ『ヨシマーソン』は、海中国家の姫君にしてポンコツ地下アイドルを「時給ゼロ(まかない付き)」で雇い入れ、波乱の産声を上げたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ