EP 3
異世界コンビニ『ヨシマーソン』開店と、パンの耳をかじる人魚
キャルルに案内されて辿り着いたポポロ村は、のどかな農業ギルドの村といった風情だった。
畑には見慣れない巨大な大根や、引っこ抜くと叫び声を上げる人参(人参マンドラらしい)が植わっている。
「ここが私の村! ゆっくりしていってね、義正くん」
ニコニコと笑うキャルル。
だが、俺の『算盤』はすでに弾き始められていた。
彼女への恩を返すにも、まずはこの世界での「資本(拠点)」が要る。
「……よし、試してみるか」
俺は深呼吸し、クソ女神から押し付けられたユニークスキルを念じた。
『――【コンビニ】、発動』
ドゴォォォォンッ!!
何もない村の空き地に、光と共に巨大な直方体の建物が出現した。
白と青のストライプ看板。煌々と輝くLED照明。
全面ガラス張りの、見慣れすぎた現代日本の「あの店舗」である。
ウィーン。
♪ファミファミファ〜、ファミファミッファ〜。
俺が近づくと、自動ドアが開き、あの間の抜けた入店音が異世界の村に鳴り響いた。
「よ、義正くん!? なにこのピカピカの箱のお城!!」
「城じゃねぇ、店舗だ」
中に入ると、冷暖房が完璧に効いている。
棚にはおにぎり、パン、スナック菓子、日用品がびっしり。レジ横にはホットスナックのケースまである。
電気も水道も、魔法的な何かで完全に独立稼働しているらしい。規格外のチート性能だ。
「とりあえず、在庫と消費期限の確認からだな……ん?」
バックヤードから弁当の陳列棚をチェックしていた俺は、ひとつの『幕の内弁当』を手に取った。
チート能力とはいえ、商品の時間は進むらしい。わずかに消費期限が切れていた。
「これは廃棄か。もったいねぇが――」
ギュルルルルルゥゥゥゥ……!!
突如、自動ドアの向こうから、雷鳴のような腹の虫の音が響いた。
「……あ?」
見れば、ガラスの向こうに一人の美少女がへばりついている。
透き通るような青い髪に、宝石のような瞳。
絶世の美少女だが、その手にはなぜか『パンの耳』と『茹で卵』が大事そうに握られていた。
「あ、あわわ……見られましたわね」
少女は誤魔化すようにパンの耳をかじり、謎のステップを踏みながら毅然と言い放った。
「わ、わたくしは絶対無敵のスパチャアイドル、リーザ! アイドルたるもの、ファンからの愛(お布施)は受け取っても、みだりに施しなど受けませんわ!」
ぐぎゅるるるるるる。
彼女の腹が、限界を超えた悲鳴を上げる。
透き通るような青い髪の少女(後で知ったが、人魚族の姫らしい)は、俺の手にある『廃棄弁当』から視線を1ミリも外せていない。
「……お前、キャルルの知り合いか?」
「リーザちゃん! どうしたの、そんなにお腹空かせて!」
キャルルが駆け寄ると、リーザと呼ばれた少女は涙目でプルプルと首を振る。
「だ、大丈夫ですわ! 今日は公園で新鮮な雑草サラダを摘んできましたし! アイドルは霞を食べて生きるんですのよ……っ!」
(……強烈なアホが来たな)
俺はため息をつき、電子レンジで温めた幕の内弁当を、リーザの顔の前に突き出した。
「アイドルの矜持は立派だが、これは売り物じゃねぇ。『廃棄』だ。ただのゴミだよ。ゴミの処理を手伝ってくれるなら、俺は助かるんだがな?」
「……っ!! ゴ、ゴミなら……地球環境のために、わたくしが処分してさしあげますわ!!」
リーザは光の速さで弁当を引ったくると、箸を割り、ハンバーグと白米を猛然と口に掻き込んだ。
「う……っ」
「おい、喉詰まらせるなよ」
「うまああああああああい!! なんですのこれ!? お肉から肉汁が溢れ出ますわ! お米が白くて光ってますわああ!!」
涙と鼻水を流しながら、絶世の美少女がコンビニ弁当を平らげていく。
その姿を見ながら、俺の脳内で『採用計画』が完了した。
24時間営業の店舗を回すには、安い労働力が不可欠だ。
プライドばかり高くて腹を空かせている女?
……最高の「優良物件」じゃないか。
「おい、リーザとか言ったな」
「はひっ?(モグモグ)」
「お前、ここで働け。レジ打ちと品出しだ」
「えっ……アイドルが、労働?」
「時給は出ねぇが、『廃棄の弁当とスイーツ』は全部お前の裁量で処分していいぞ」
その瞬間、リーザの目の色がカッと見開かれた。
「や、やりますわ!! やらせてくださいませ店長!! わたくしの命、ヨシマーソンに捧げますわ!!」
リーザは弁当の空箱を持ったまま、床に頭を擦りつけるほどの見事な土下座を披露した。
かくして。
異世界コンビニ『ヨシマーソン』は、海中国家の姫君にしてポンコツ地下アイドルを「時給ゼロ(まかない付き)」で雇い入れ、波乱の産声を上げたのである。




