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第二章 ポポロ・ゴールド通貨戦争編

バックヤードの悪魔たちと、絶対無敵のスパチャアイドル

ピーーーッ、という電子音と共に、重厚な防音扉のロックが掛かる。

ここは異世界コンビニ『ヨシマーソン』の最奥、バックヤードに新設された特別室。

本来は高額商品の在庫を置くための場所だが、今は完全に「悪巧み」の密室と化していた。

「……で? 準備は整ったんだろうな、金庫番」

俺はパイプ椅子に深く腰掛け、口元の『赤マル』に火を点けた。

紫煙が薄暗い部屋に立ち上る。

「へへへ。完璧でっせ、店長はん。あんたの言う通り、ゴルド商会の裏ルートを使って、三国に散らばる『実物資産(金貨・銀貨)』の流通量を抑え込みましたわ」

ニャングルが、愛用の算盤をチャッチャッと弾きながら、下卑た笑いを浮かべる。

「ルナミスの『L-Pay』も、レオンハートの『レオ』も、所詮は国が価値を保証してるだけの『信用貨幣』や。せやけど、これからはちゃう」

ニャングルが机の上に、カチン、と一枚の輝くコインを置いた。

俺がチートスキルで生成した、プラスチックと魔導金属の合金メダル。

表面には『ヨシマーソン』のロゴマーク。

裏面には『PG』の文字が刻印されている。

「ポポロ・ゴールド(PG)、か。……本当にえげつない手ですね、ヨシマサ様」

部屋の隅で、完璧な所作でダージリンティーを淹れていたリバロンが、モノクルの奥の瞳を細めた。

「通貨発行権。それは国家の心臓そのもの。それを、辺境のただの『商店』が握ろうというのですから。三国の首脳が知れば、血の気を失って卒倒するでしょうな」

「勘違いするな、リバロン。俺はただの地域振興券おあそびメダルを作っただけだ」

俺は携帯灰皿に灰を落とし、ニヤリと口角を上げた。

「三国間で関税の抜け穴を突くには、『これは通貨ではなく、うちの店でしか使えないポイントサービスです』って言い張るのが一番だ。内務卿のオルウェルも、法的な介入はできねぇ」

「せやな! あくまで『うちの店で遊ぶためのメダル』や!」

ニャングルが腹を抱えて笑う。

「でも、そのメダルがないと、あの美味い『からあげ』も『おでん』も買えへんようになる。三国のお偉いさんや兵士どもは、ヨダレ垂らしながら、手持ちの金貨をこの『おもちゃのメダル』に両替するしかなくなるっちゅう寸法や!」

「為替レートは俺たちが握る。PGの価値が上がれば上がるほど、三国の実体経済はうちの金庫に吸い込まれていく」

俺は机の上のPGメダルを指で弾いた。

チンッ、と軽い音が響く。

「血を一滴も流さずに、三国を経済的に干上がらせる。……最高の算盤ビジネスだと思わないか?」

俺、ニャングル、リバロン。

バックヤードに集った三人の極悪人は、示し合わせたように顔を見合わせ――。

「「「ククククク……」」」

絵に描いたような悪代官の笑みを漏らした。

その時だった。

『ガチャッ!』

「店長ー! からあげ揚がったよー!! あと休憩中の飴玉ちょーだい!」

防音扉が勢いよく開き、ウサギ耳をピンと立てたキャルルが飛び込んできた。

人参柄のハンカチで汗を拭う姿は、まばゆいばかりの「光」そのものである。

――シュバッ!

俺は一瞬で赤マルを揉み消し、爽やかな営業スマイルを顔に貼り付けた。

ニャングルは算盤を背中に隠し、「いやぁ、今日もええ天気でんなぁ!」と空とぼける。

リバロンに至っては、すでにキャルルの前にティーカップを差し出していた。

「お疲れ様です、キャルル様。ちょうど極上のダージリンが入りましたよ」

「えっ、ほんと!? ありがとうリバロン! さっすがー!」

キャルルは無邪気に紅茶を受け取り、俺に向かって手を差し出した。

「はい、店長! 約束のコーヒーキャンディ!」

「ほらよ。あんまり食いすぎて虫歯になるなよ、村長」

キャンディをポンと渡すと、キャルルは嬉しそうに皮を剥いて口に放り込んだ。

「ん~、美味しい! あ、そうだ店長! 今、表でリーザちゃんがすごいことになってるよ!」

「すごいこと?」

俺は眉をひそめ、キャルルと共にバックヤードを出て、店舗の売り場へと向かった。

***

「さぁさぁ皆様! アテンション・プリーズですわ!!」

自動ドアの向こう、ヨシマーソンの店舗入り口に設けられた特設ステージ(みかん箱)。

そこに立っていたのは、ストライプのエプロンをヒラヒラとさせ、青い髪をなびかせる絶世の人魚姫、リーザだった。

彼女の手には、手作りの紙製メガホンが握られている。

「ただいま、ヨシマーソンでは『ポポロ・ゴールド(PG)導入キャンペーン』を絶賛開催中ですわ! なんと! 今なら金貨一枚をPGに両替チャージするごとに――」

リーザはビシッと、俺がチートスキルで出力した『フルカラーの写真印刷』の束を掲げた。

「わたくし、絶対無敵のスパチャアイドル・リーザの『限定魔法写真(ブロマイド・水着風エプロン姿)』を、ランダムで一枚プレゼントいたしますわーーッ!!」

うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!

その瞬間。

店の前に集まっていた村の若者たちや、他国からやってきたむさ苦しい冒険者たちが、地鳴りのような歓声を上げた。

「マ、マジかよ! あの超絶美少女の魔法写真カラープリントが貰えるのか!?」

「しかも『シークレット』はサイン入りだとぉ!?」

「おい、俺の銀貨全部PGに両替してくれ!!」

「俺は金貨三枚だ!! コンプリートするまで帰らねぇぞ!!」

群衆が狂ったように両替所(ニャングルが設置した特設レジ)に押し寄せる。

チャリン、チャリン、ジャララララッ!

法定通貨であるはずの金貨や銀貨が、ゴミのように回収され、代わりに大量の『PGおあそびメダル』が吐き出されていく。

「五円! 五円! 御縁! 御縁! ハイ! 皆様、どんどん御縁チャージを結んでくださいませ~☆」

リーザがアイドルスマイルを振りまきながら、『絶対無敵スパチャアイドル伝説!!』のサビを歌い踊る。

その姿を見た男たちは、完全に理性を失い、手持ちの現金をすべてPGに突っ込んでいた。

「うわぁ……リーザちゃん、なんかすごい熱気だね」

キャルルが目を丸くして感心している。

「あいつ、水着風エプロンって……ただエプロンの下に短パン履いただけじゃねぇか」

俺は呆れながらも、狂乱の様相を呈する両替の列を見つめた。

(……だが、効果は絶大だ。アイドルのグッズ(虚構)と、うちの弁当(実利)。この二つが組み合わさった時、大衆の財布の紐は完全に消滅する)

「フフッ。見事な煽動マーケティングですな」

いつの間にか俺の背後に立っていたリバロンが、モノクルを光らせた。

「これなら、数日のうちにこの地域の法定通貨は枯渇し、すべてがPGに置き換わるでしょう」

「あぁ。算盤の弾き甲斐があるぜ」

俺はポケットの中でコーヒーキャンディをガリッと噛み砕き、アイドル活動に勤しむリーザの姿を見ながら、極悪人の笑みを深くしたのだった。

異世界経済侵略の第一歩は、一人の地下アイドルの『スパチャ営業』から、爆発的に幕を開けた。

いかがでしょうか? 表と裏のギャップ、そしてリーザのたくましさが上手く出せたかと思います。第12話以降もこの調子で進めてよろしいでしょうか?

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