表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空き部屋の声、1986年の女  作者: ひまえび
第四章――「秋谷の屋敷、動き出す布陣」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/134

第3話――「日曜の谷、5億円の本命」

1986年4月13日の日曜日、尚人は佑馬の残していったワゴン車で、東京西郊の放棄分譲地を自分の目で見て回る。町田小山田、八王子上川口、青梅成木。3件とも死んだ理由は違うが、町田だけは権利がまとまり、いま動けば一気に押さえられる気配があった。日曜のうちに地面の顔と持ち主の腹を見た尚人は、その夜、久しぶりに『さざなみ』へ顔を出し、ゆかりにも別の角度から近づき始める。土地を見る目と女の揺れを見る目が、同じ1日の中で並ぶ。

 (1986年4月13日日曜日午前7時、横須賀・尚人のアパート)


 尚人は夜明けとほとんど同じ時刻に起きた。若い体は便利だった。前日まで頭も足も動かし続けていても、一晩眠れば、だるさはもう芯まで残らない。流しで顔を洗うと、水は春先らしくまだ冷たく、頬に当てた途端、目の奥の薄い眠気まできれいに剥がれた。台所の窓を開けると、朝の風が細く入り、遠くの道路を走る車の気配と、海のほうから来る湿り気を少しだけ運んできた。


 佑馬は昨夜、品川へ戻る時にワゴン車を置いていった。尚人は食パンを2枚だけ焼き、インスタントコーヒーを流し込み、地図帳とメモ帳、それに昨日のうちに写しておいた地番の控えを助手席へ放り込んだ。今日は休む日ではない。役所は閉まっていても、土地そのものは逃げない。むしろ日曜日のほうが、土地の顔と持ち主の気配はよく見える。


 ワゴン車のエンジンをかけると、バイクとは違う太い振動が足の裏へ返った。フロントガラスの向こうで、横須賀の朝の光がまだやわらかい。尚人はハンドルを握り、まず町田小山田へ向けて車を出した。


 道が西へ伸びるにつれて、空気の匂いが少しずつ変わった。海の塩気は薄れ、代わりに乾いた土と、陽に温まり始めた草の匂いが前へ出る。トラックの軽油、信号待ちの排気、開き始めた店先の油。街の匂いが一度混ざり、それを抜けると、丘陵地の匂いになる。尚人はアクセルを急かさなかった。今日の目的は速さではなく、地面の機嫌を見ることだった。


 町田小山田へ着いたのは、午前9時半を少し回ったころだった。谷へ落ちる道は、見た目には大きな欠点がなかった。入口の舗装は古いが、剥がれ方はひどくない。側溝は詰まっている箇所もあるが、全体が崩れているわけではない。道路の幅も、車を通すだけなら十分に見える。電柱も立っている。止まった分譲地にありがちな「最初の骨組みだけは作った」という顔つきだった。


 尚人は車をゆっくり進めた。入口近くには、古びた家が何軒か建っている。洗濯物が干され、犬が1匹、だるそうに吠えた。だが、その先から景色が変わる。舗装は急に荒れ、草が路肩を食い始め、背の低い雑木が区画の境を曖昧にしていた。雨水の流れた跡が赤土に残り、放り出されたコンクリートの側溝蓋が半分だけ土に埋もれている。分譲地として形を作りかけたまま、途中で時が止まった場所だった。


 尚人は車を降りた。靴の下で乾いた小石が鳴る。風は強くないが、谷の底のほうから少し湿った冷たさが上がってきた。入口の角地は、ゆかりの言った通り、いちばん目につく位置にあった。道路に面し、草もほかより短い。誰かが時々は手を入れているのだろう。ここだけは、ただの放棄地に見せたくないという気配があった。


 尚人は目を細めて道路と角の関係を見た。見た目だけなら悪くない。だが、角だけを先に買う話がうますぎる時は、大抵どこかに裏がある。もっとも、今日はそこを疑いに来たのではない。尚人が見たかったのは、この谷の残りがまだ1人の手にあるかどうかだった。


 少し歩くと、朽ちかけた販売看板が傾いていた。色は抜け、会社名は半分消えている。それでも下のほうに、後から打ち直したらしい小さな木札が残っていた。そこに、売地相談の電話番号と個人名がある。尚人はその名前をメモ帳へ写した。


 谷の出口近くに、小さな雑貨屋が1軒だけ開いていた。ガラス戸を開けると、洗剤と新聞紙と古い木箱の匂いがした。レジの向こうには、60を過ぎた女が座っている。尚人は煙草を1箱だけ買い、釣りを受け取りながら何でもない調子で聞いた。


 「この先の分譲地、ずいぶん草が回っていますね」


 女は、ああ、とすぐに答えた。


 「最初にやった会社が潰れたんですよ。道と溝だけ作って、途中で駄目になったの」


 「残りは今、誰が持ってるんです」


 「まとめて買った人がいるのよ。都内の金持ちさん。家を建てる気はなくて、ずっと寝かせてたんでしょうね。税金ばっかり取られて大変だって、前に言ってたけど」


 尚人はそこで、もう1つ聞いた。


 「入口の角も同じ持ち主ですか」


 女は少し考えてから頷いた。


 「そう。あれもまだその人のままだよ。何度か見に来た人はいたみたいだけど、売れたって話は聞かないねえ」


 それで十分だった。尚人の胸の中で、何かがひとつきれいに収まった。権利が単一なら、話は早い。分譲済みの区画を1つずつ買い戻すのとは、手間がまるで違う。


 雑貨屋を出ると、尚人は近くの公衆電話から木札の番号へ掛けた。呼び出し音は3度で切れ、男の声が出た。低く、少し眠たげだが、耳の奥に損得の計算がある声だった。


 「はい」


 尚人は名を名乗らず、まず土地の話だけを切り出した。


 「小山田の谷の分譲地の件で、お話ししたいんです。入口の角だけでなく、残りも含めてです」


 向こうの沈黙が一拍あった。角だけでなく、と言ったところで、相手の姿勢が変わったのが声の気配で分かった。


 「どちらさまです」


 「倉田開発の早乙女です。今、現地を見ています」


 男はそこで完全に目を覚ましたらしい。


 「残りも、ですか」


 「ええ。まだ一括で持っておられるなら、今日は日曜ですし、一度お会いしたい」


 返事は早かった。男は小山田からそう遠くないところにいるらしく、昼前なら会えると言った。尚人は場所を聞き、車へ戻った。


 会ったのは、谷から少し離れた高台の家だった。持ち主は50代の資産家で、腹は出ていたが、服だけはこざっぱりしていた。応接間には磨かれた木の匂いと、少し高い煙草の甘い残り香があった。男は最初こそ角地の話だと思っていたらしいが、尚人が地図を開き、入口だけでなく残りの区画まで指を置いていくと、目つきが変わった。


 「全部を見てるんですか」


 「見ています」


 「いままで来た連中は、角だけでしたよ。看板が立つだの、入口が押さえられるだの」


 尚人は小さく笑った。


 「入口だけ押さえても、谷は起きません」


 その言い方が効いたらしい。男は煙草の火を落とし、ようやく本気の話し方になった。元の分譲主が倒産したあと、一括で買ったこと。だが、自分で造成をやり直す気もなく、税金ばかりが重いこと。何度か話は来たが、みな角だけで、残りの草地まで抱える気はなかったこと。


 尚人は相手の話を黙って聞きながら、頭の中ではもう値段を組んでいた。道路は骨がある。水は要調査だが、谷の地形は悪くない。バス便は弱いが、まるごと動かすなら逆に整理しやすい。何より権利が1人にまとまっている。ここは早く押さえた方が勝ちだ。


 「5億円なら、まとめます」


 尚人は静かに言った。


 男の目がわずかに細くなった。最初は安いと思ったのだろう。だが、尚人の声に冗談がないと分かると、男は逆に姿勢を正した。


 「現金でですか」


 「月曜の朝、司法書士を入れて、その場で所有権移転まで終わらせましょう。代金は銀行振出小切手で全額決済します」


 応接間の空気がそこで一段深くなった。相手はしばらく黙っていたが、やがて大きく息を吐いた。


 「安いと言えば安い。だが、寝かせ続けても金は生みませんからね」


 そして、尚人の目を見て言った。


 「月曜、話を進めましょう」


 それでよかった。日曜日に必要なのは、契約書ではない。逃げない口約束と、相手の本気の顔である。尚人は立ち上がり、名刺を置いた。帰り際、玄関先の植木鉢の土は乾いていたが、風は悪くなかった。谷の土地と同じで、死んではいないと感じた。


 小山田を出た尚人は、そのまま八王子上川口へ回った。こちらは入口からして表情が違った。赤土が流れ、私道の線が曖昧で、途中で建った家と放置地がまだらに混じっている。犬を散歩させていた男に聞くと、持ち主はすでに細かく割れ、話をまとめるのに時間が掛かるという。尚人は車を降りて少し歩き、谷筋の赤土が靴底に付く感触を確かめたあと、すぐに引いた。悪くはない。だが、初手ではない。


 さらに青梅の成木へ足を伸ばしたころには、陽が少し傾いていた。山の匂いが濃く、空気は町田より冷たい。擁壁のひびは現地で見ると予想以上に長く、入口の道も細い。静かで、景色はよい。だが、あれは直すより揉める手間のほうが先に立つ土地だった。尚人は車内で地図を閉じ、そこも後回しに決めた。


 横須賀へ戻ったのは、午後7時を少し回ったころだった。ワゴン車を止め、玄関を開けると、部屋の空気は昼間閉め切っていたぶん少し重い。尚人は靴を脱ぎ、机の上へ地図を広げた。町田、小山田に丸を付け、その横へ5億とだけ書く。八王子と青梅には細い印だけを残した。


 今日一日で分かったことは単純だった。3件の話のうち、本命は町田だ。入口の角を急がせた理由も、あそこならよく分かる。だが、尚人が買うのは角だけではない。谷ごとだ。月曜の朝から動けば、まだ間に合う。遅れれば、誰かが先に手を入れるかもしれない。そうなれば、面倒になる。


 尚人は赤鉛筆を置き、窓を少しだけ開けた。夜の風が入り、遠くの町の匂いを運んできた。土の匂い、草の匂い、乾いた道路の匂い。それらがまだ鼻の奥に残っている。日曜のうちに地面の顔は見た。あとは月曜から、人の顔を詰めていけばよかった。


 ◇ ◇ ◇


 (1986年4月13日日曜日午後7時25分、横須賀・スナック『さざなみ』)


 横須賀へ戻ったあと、尚人はひと息ついてから、久しぶりに『さざなみ』へ顔を出す気になった。腹は減っていたが、家で何か作る気にはならない。店へ行って一杯やり、そのあと隣の居酒屋から中華そばでも取ればよい。そう思って商店街へ出ると、夜の通りはまだ完全には眠っていなかった。焼き鳥の煙が細く流れ、醤油の焦げる匂いが風に乗る。魚屋の前には昼の潮気がまだ薄く残り、路面の端では濡れた溝が看板の色を鈍く映していた。


 『さざなみ』の扉を押すと、いつものように煙草と香水と氷の冷たい匂いが混じった空気が、顔へやわらかく当たった。店の奥ではグラスの触れ合う音が小さく続き、カラオケの伴奏が遠慮がちに流れている。カウンターはほぼ埋まっていた。背広姿の男、作業着のまま来たらしい男、少し酔いの回った顔で笑っている常連。どの視線も、いったん入ってきた尚人へ触れ、それからすぐ奥へ戻る。目当てがあるからである。


 ママの姿はなかった。代わりに、カウンターの中でゆかりがひとりで立ち回っていた。


 ワンレンの黒髪は照明を受けてつやを帯び、肩から腰へ落ちる線は今どきの女らしくきれいに締まっている。濃すぎない口紅、よく動く目元、身体に沿う服の布の張り。腹の中で何を考えているかは別として、見た目だけなら男が集まるのも分かる女だった。今夜も、カウンターの客の何人かは、酒より先にゆかりの動く姿を追っている。


 尚人が入ると、ゆかりはすぐにこちらへ顔を向けた。目が合うと、少しだけ大きく笑う。


 「あら、尚人さん。ひさしぶりね。でもあいにくママはお休みなのよ」


 声は軽く、水気があった。氷を入れたグラスを片手で寄せながら、もう片方の手では棚から尚人のボトルを抜いている。慣れた手つきだった。琥珀色の酒がグラスへ落ち、氷に当たって澄んだ音を立てる。水を足すと、角の匂いがふわりと立ち、冷えたガラスの表面に白く曇りが浮いた。


 「いや、僕はゆかりさんが目当てだから、ママがいなくてもいいよ」


 尚人はそう言って、カウンターへ腰を下ろした。


 「ゆかりさんも、どんどん飲んでよ」


 ゆかりは、あら、と肩をすくめた。だが、口元ははっきりゆるんでいた。


 「そんなこと言って、ママが怒るわよ」


 「いない時くらい、いいだろう」


 「悪い人ね」


 言いながらも、悪い気はしていない顔だった。目尻の線がやわらかくなり、グラスを置く指先の動きまで少し軽くなる。単純と言えば単純である。褒められれば嬉しいし、自分が店の真ん中にいると感じれば、すぐに機嫌がよくなる。


 尚人はそこで店の電話を借りた。受話器は少しぬるく、耳に当てると店のざわめきが遠のく。隣の居酒屋へつなぎ、中華そばを5つ頼んだ。自分のぶんだけではない。ゆかりと、ゆかり目当てで座っている男たちのぶんまで含めてである。


 受話器を置くと、ゆかりが目を丸くした。


 「えっ、5つも頼んだの」


 「小腹が空いてるのは、僕だけじゃないだろう」


 カウンターの男たちが、そこで一斉にこちらを見た。ひとりが「気前いいなあ」と笑い、別のひとりが灰皿の上で煙草を揉み消した。店の空気が少しゆるみ、さっきまでのよそよそしさが消える。


 ゆかりは本当に嬉しそうに笑った。歯が白く見える。


 「尚人さんって気が利くわよね。ママがいなけりゃ、私の男にしたいわ」


 「それ、悪くないな」


 尚人がそう返すと、カウンターの端で誰かが小さく吹き出した。氷の音、笑い声、煙草の煙。店の空気が少し丸くなる。


 やがて、隣から中華そばが届いた。丼の蓋を取ると、湯気が一斉に立ち、鶏がらと醤油の匂いが店の中へ広がった。煙草と香水の匂いに、熱いスープの脂の匂いが混じる。細い麺が湯の中で揺れ、刻み葱が白い光を受けて浮いた。誰かが「うまそうだ」と言い、箸の割れる音が続いた。ゆかりも、カウンターの内側で少しだけつまむように麺をすすり、熱かったのか小さく息を吐いた。


 「おいしい」


 「だろう」


 尚人は、そこでポケットから名刺入れを出した。1枚抜き、指で軽く弾いてゆかりの前へ置く。


 「今は、三崎港に引っ越したんだ」


 ゆかりは箸を置き、名刺へ目を落とした。白い紙の上にある活字を、声に出さずに追っている。


 「社会福祉法人三崎保育園理事長……」


 そこで顔を上げた。


 「へえ。すごいじゃない」


 「まあね」


 尚人は水割りをひと口飲んだ。冷たさが舌の上を滑り、角の甘い辛さが後から喉へ落ちる。


 「今度の休みに、俺とドライブに行こうや」


 ゆかりは、すぐには笑わなかった。そこが少し意外だった。からかい半分で流されるかと思っていたのに、ほんの短いあいだ、本当に考える顔をしたのである。箸を持った指が止まり、視線が一度だけ名刺へ戻る。


 「そうねえ……」


 その迷い方に、尚人は逆に乗った。


 「海のほうはいいぞ。風もあるし、飯もうまい。ゆかりさん、横須賀の夜ばかり見てたら損だ」


 ゆかりは唇の端を少し上げた。


 「でも、そういうの、勝手に決めるとまずいのよ」


 「何がまずい」


 「一度、旦那に相談してみるわ。少し待ってね」


 尚人は、そこで笑った。


 「おいおい。他の男と浮気するのに、旦那に聞くやつがあるかい」


 ゆかりは、きゃっと小さく笑い、肩をすくめた。だが、その顔はもう断る顔ではない。頬のあたりに少し赤みが差している。酒のせいだけではないだろう。


 「俺は前から、ゆかりさんが気に入っていたんだ」


 尚人はそう言って、グラスを置いた。氷がからんと鳴る。


 ゆかりは視線を少し横へ逃がし、カウンターの内側で指先だけを動かした。煙草の箱を揃え、灰皿の位置を直し、また尚人を見る。女が揺れる時の、細かな間だった。


 やがて、観念したように息をついた。


 「分かったわよ」


 「本当か」


 「今週の木曜日ならいいわ」


 その声は、さっきまでより少し低かった。


 「朝10時に、お店の前で待っているわ」


 尚人はそこで初めて、はっきり笑った。


 「決まりだな」


 「遅れないでよ」


 「そっちこそ」


 ゆかりは、もう一度だけ尚人の名刺を見た。尚人の横須賀の電話番号が手書きで描いてあることを確認してから、自分の小さなポーチへしまい込み、何でもないような顔でまたグラスを拭き始めた。だが、その頬にはまだ薄い色が残っていた。


 店の中では、中華そばの湯気が少しずつ下がり、スープをすする音が続いていた。煙草の煙は照明の上で薄くたまり、角の水割りの氷は少しずつ角を失っていく。外では夜の商店街がまだ生きていて、看板灯の色が濡れた路面に揺れている。


 尚人は水割りを口に運びながら、店のざわめきの向こうに、木曜日の朝の光を思った。ゆかりは単純だが、ただの軽い女でもない。腹の中に何かを抱えていても、男に気を許したふりをする術は知っている。だからこそ、乗ってきた時の揺れが見える。


 それで十分だった。今夜は、そこまで行けばよかった。

この回では、尚人の商売が机の上の数字から、ふたたび土と人の匂いの中へ戻った。町田小山田では、草に埋もれた谷を歩き、雑貨屋の老女から持ち主を聞き出し、その日のうちに資産家の男と5億円の話まで持っていく。八王子と青梅も見たうえで、初手の本命を町田に定める流れがよく締まっていた。尚人がただ勘で動いているのではなく、日曜の地面と持ち主の顔を見て順番を決める男だと、はっきり出た。そして後半では、舞台が横須賀の夜へ戻り、今度はゆかりとの距離が静かに縮まる。ママ不在の『さざなみ』で、尚人は中華そばを5つ頼み、場を和ませながら、保育園理事長の名刺を見せ、木曜の約束まで取りつける。昼は土地の本命を見抜き、夜は女の揺れを拾う。その2つが同じ日に置かれたことで、第四章の対決が、力ずくではなく、観察と間合いで進む話だとはっきり分かる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ