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空き部屋の声、1986年の女  作者: ひまえび
第六章――「灰の東京、母と復員兵」

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第8話(後編2)「王室の晩餐、声を刻む機械」

 電灯の実演を見た3組の客夫婦は、すぐに動き出した。劇場、銀行、ホテルから正式な見積もりの依頼が入り、さらに噂を聞いた商人や貴族の屋敷からも問い合わせが続く。モロー電光工房は、まだ小さな作業棟にすぎない。だが、ロンドンの夜を変える光は、すでに王室の耳にも届き始めていた。後編2では、直樹が王室の晩餐会へ招かれ、電灯と蓄音機を披露する。直樹はその功績により「サー」の称号を受け、夜には同伴したメアリーと喜びを分かち合う。

 翌日から、モロー邸の玄関には馬車が途切れなくなった。


 劇場主ベルは、約束通り劇場の正面と婦人用控室の見積もりを求めてきた。銀行家エインズワースは、試験設置の条件を細かく書いた手紙を寄こした。ホテル経営者ホワイトモアからは、食堂と玄関広間の2案で見積もりを出してほしいと使いが来た。


 それだけでは済まなかった。


 クララ夫人、アメリア夫人、マーガレット夫人がそれぞれの付き合いで電灯の話をしたため、半日もしないうちに別の劇場、宝飾店、新聞社、貴族の屋敷からも問い合わせが入った。誰もが同じことを聞いた。火を使わずに本当に明るいのか。煤は出ないのか。客の前で使えるのか。晩餐会で話題になるのか。


 エレノアは食堂の机を占領し、紙を分けて並べた。


「劇場、銀行、ホテル、個人邸、商店。用途ごとに分けます。見積もりを一つにしては駄目です」


 直樹は頷いた。


「大口から順番に受けます。全部を一度にはできません」


「その方がよろしいです。先に受けすぎると、工房が潰れます」


 メアリーは台所から顔を出した。


「工員も増えますね」


「増やします」


「では、食事も増やします。昨日の倍で足りるかどうか」


 エレノアはすぐに紙へ目を落とした。


「食費は別に計算します」


「お願いします」


 メアリーは素直に答えた。以前なら少し言い合いになったかもしれないが、今は役目がはっきりしている。エレノアは金を守る。メアリーは人の腹を守る。どちらも欠ければ工房は動かない。


 ルイーザは応接室で手紙を読んでいた。


 その中に、厚い封筒が一通あった。封蝋には王室に近い紋が押されている。ルイーザは一度だけ息を止め、直樹を呼んだ。


「モローさん。王室筋からです」


 直樹は手を止めた。


 ハリントンも呼ばれ、封筒を開いた。手紙には、王太子アルバート・エドワードの晩餐会へ出席し、電灯の実演を見せるよう求める言葉があった。さらに、可能ならば、イタリアで話題になった「声を記録する機械」も持参してほしいと書かれていた。


 直樹は革鞄の方を見た。


 カルロッタの声を刻んだ円筒が、まだそこにある。


 ルイーザが静かに言った。


「電灯だけでも十分ですが、蓄音機を見せれば、ただの技術者では済まなくなります」


 エレノアは慎重な顔をした。


「大きすぎる話になります。王室へ見せるなら、今後の契約も、周囲の目も変わります」


「変わるなら、早い方がいい」


 直樹は答えた。


 メアリーは少し離れたところで聞いていた。自分には王室の作法など分からない。食堂で皿を並べることならできる。工員に食事を出すこともできる。だが、王太子の晩餐会など、聞いただけで肩が固くなる。


 そのメアリーに、直樹は目を向けた。


「メアリー、一緒に来てください」


 メアリーは驚いた。


「私が、ですか」


「はい」


「ルイーザの方がよろしいのではありませんか。作法も、話し方も、私とは違います」


 ルイーザは何も言わず、直樹を見た。


 直樹は首を振った。


「今度は、あなたに来てほしい。あなたは最初にこの屋敷の火と鍵を預かりました。工房の職人や少年たちの食事も見ています。電灯を作るのは職人たちです。その職人たちを支えているのは、あなたです」


 メアリーは言葉に詰まった。


 エレノアは紙を閉じ、静かに頷いた。


「私も、それがよいと思います。王室の晩餐に出るには不安もありますが、モローさんの横に立つ理由はあります」


 ルイーザも微笑んだ。


「私が支度を手伝います。王室の席で困らないように、最低限のことだけ覚えれば大丈夫です。全部を貴婦人のようにする必要はありません。メアリーはメアリーのまま、少しだけ整えればよいのです」


 メアリーはしばらく黙っていた。


 それから、直樹へ頭を下げた。


「分かりました。ご一緒いたします」


 声は硬かったが、目には光があった。


 ◇ ◇ ◇


 晩餐会の日、メアリーは深い藍色のドレスを着た。


 ルイーザが選んだものだった。派手ではない。だが、布はよく、胸元も袖もきちんと整っている。髪はいつもの布ではなく、低い位置で上品にまとめられた。荒れた手には薄い手袋をはめている。それでも、彼女の手が台所を知っていることは隠しきれなかった。


 メアリーは鏡の前で何度も息を吐いた。


「笑われないでしょうか」


「笑う者がいれば、その者の方が失礼です」


 ルイーザが答えた。


「歩き方はゆっくり。話しかけられたら、先に相手の言葉を聞いてください。分からなければ、無理に飾った返事をしないこと。モローさんの隣に立つのですから、卑屈になる必要はありません」


 エレノアは小さな紙を手渡した。


「人の名前です。覚えなくても構いません。聞いた時に見ればよいです」


 メアリーはその紙を受け取った。


「2人とも、ありがとうございます」


 ルイーザは少しだけ笑った。


「今夜はあなたの役目です。しっかりモローさんを支えてください」


「はい」


 メアリーはそう答えた。


 直樹は、黒い正装で玄関広間に立っていた。若いが、もう駅へ降り立ったばかりの異国人ではない。モロー電光工房の主人として、王室の晩餐会へ向かう男の顔になっている。


 メアリーを見ると、直樹は静かに微笑んだ。


「よく似合っています」


 メアリーは頬を赤くした。


「ありがとうございます。転ばないように気をつけます」


「私が支えます」


「今夜は、私が支える側です」


 メアリーはそう言い、少しだけ背筋を伸ばした。


 馬車は霧の中を進んだ。


 王室の晩餐会が開かれた館は、モロー邸とは比べものにならないほど広かった。高い天井、金の縁取りのある鏡、厚い絨毯、赤い制服の従者、燭台の列。だが、部屋の奥には、直樹が用意した電灯の器具が運び込まれていた。まだ王室の部屋に正式に設置されたわけではない。今夜は実演である。


 王太子アルバート・エドワードは、客たちに囲まれていた。


 直樹が紹介されると、王太子は興味深そうに近づいた。


「あなたがモロー氏か。イタリアで光を灯した若い発明家だと聞いている」


「ナオキ・モローです。お招きいただき、光栄です」


 直樹は深く礼をした。


 メアリーも、ルイーザに教えられた通り、深すぎず浅すぎず頭を下げた。


 王太子はメアリーにも目を向けた。


「夫人もご一緒か」


 メアリーは一瞬だけ息を止めたが、すぐに答えた。


「はい。モローさんの屋敷と工房を支えております」


 飾った言葉ではなかった。


 王太子は少し笑った。


「それは大事な役目だ。発明家は機械だけでは生きられない」


「おっしゃる通りです」


 メアリーはそう答えた。


 直樹は横で、それを頼もしく見ていた。


 晩餐の席では、最初は電灯の話が続いた。ガス灯より安全なのか。劇場で使えるのか。銀行で夜の事務に耐えるのか。発電機の音はどの程度か。直樹は一つずつ答えた。エレノアが用意した数字を頭に入れていたため、費用の話でも曖昧にしなかった。


 食事が進むにつれ、王太子が言った。


「では、そろそろ見せてもらおう。ロンドンの夜を変える光とやらを」


 直樹は立ち上がった。


 従者が燭台の一部を下げ、部屋の明るさを落とした。人々の声が小さくなる。婦人たちの扇が止まり、紳士たちの視線が作業台へ集まった。


 直樹は職人に合図した。


 発電機が静かに回り始める。


 次の瞬間、白い光が広間の一角に灯った。


 客たちが息をのんだ。


 炎ではない。ガラスの中の細い線が白く輝き、金の額縁、銀器、婦人たちの首飾りをはっきり照らした。燭台の揺れる光とは違う。部屋の中に、まっすぐな明るさが生まれた。


 王太子は光へ近づいた。


「熱も少ない。煙もない。なるほど、これは話だけの品ではない」


 婦人の1人が手袋を外し、光の下で宝石を見た。


「石の色が、昼間のように見えますわ」


 別の紳士が低く言った。


「新聞社がこれを欲しがるはずだ」


 直樹は深く頭を下げた。


「これは、明るくするだけの道具ではありません。夜に仕事をする者、劇場へ来る客、ホテルで食事をする客、銀行で書類を見る者、そのすべての時間を変えます。私は、この光をロンドンへ広げたいと考えております」


 王太子は満足そうに頷いた。


「よろしい。だが、手紙にはもう一つの機械があると書かれていた。人の声を刻む機械だそうだな」


 広間の空気が、さらに変わった。


 直樹は従者に合図し、箱を運ばせた。


 小さな蓄音機である。円筒は布に包んであった。直樹はそれを取り出す時、ほんの一瞬だけ手を止めた。


 カルロッタの声。


 ナポリで別れた女の声。


 ここで出すのは、ただの実演ではなかった。過去に置いてきた声を、ロンドンの王室の広間で響かせることになる。


 メアリーはその手の動きに気づいた。


 だが、何も言わなかった。


 直樹は円筒を蓄音機に取り付けた。


「これは、声を刻んだ円筒です。人が話し、歌った時の振動を記録し、あとからもう一度鳴らします」


 王太子は身を乗り出した。


「声を閉じ込めるのか」


「閉じ込めるというより、刻みます」


 直樹は装置を動かした。


 最初に、かすかな雑音が流れた。


 広間の者たちは眉をひそめた。だが次の瞬間、女の声が出た。


 遠い。


 少し震えている。


 けれど、確かに人の声だった。


 カルロッタの声が、王室の広間に響いた。


 婦人たちは扇を止めた。紳士たちは椅子の背から身を離した。王太子も黙って聞いていた。そこにいるはずのない女の声が、機械の中から戻ってくる。歌のようでもあり、祈りのようでもあった。


 メアリーは、初めてその声を聞いた。


 胸の奥が少し痛んだ。直樹が別の町に置いてきた女の声なのだと、はっきり分かったからである。だが、不思議と腹は立たなかった。むしろ、直樹がその声を大事に革鞄へ入れていた理由が分かった。


 人の声を失わない。


 それは、電灯とは別の意味で、人の夜を変える機械だった。


 声が終わると、広間にはしばらく沈黙が残った。


 王太子が、ゆっくりと言った。


「光だけでも驚くべきものだ。だが、今の声は、それ以上かもしれない。人は遠く離れ、死に、忘れられる。だが、この機械は声を残す」


 直樹は頭を下げた。


「まだ改良が必要です。音も荒く、長くは記録できません」


「それでも、これは始まりだ」


 王太子は周囲を見た。


「モロー氏。あなたの電灯と、この声を刻む機械は、英国にとっても大きな意味を持つだろう。女王陛下にも報告する。正式な文書は後日となるが、今夜この場で、私の口から先に告げておきたい」


 広間の者たちが静まった。


 王太子は直樹の前に立った。


「女王陛下の御名において、あなたをナイトに叙する旨が伝えられる。以後、あなたはサー・ナオキ・モローと呼ばれることになる」


 直樹は一瞬、言葉を失った。


 メアリーも息をのんだ。


 若い異国人としてロンドンに来た男が、王室の広間で、サーと呼ばれたのである。


 直樹は深く頭を下げた。


「身に余る光栄です」


 王太子は笑った。


「光を持ってきた男には、光栄も似合う」


 広間に笑いが起きた。


 だが、その笑いは軽いものではなかった。驚きと敬意が混じっていた。紳士たちが直樹へ近づき、婦人たちはメアリーへ声をかけた。王室の晩餐会は、ただの実演の場ではなくなった。サー・ナオキ・モローの名が、そこで生まれた。


 メアリーは直樹の横に立ち、何度も頭を下げた。


 胸が熱かった。


 自分は、あのサザークの広場で縄を巻かれていた女だった。その自分が今、王室の広間で、サーと呼ばれた男のそばに立っている。夢のようだった。だが、夢ではない。足元の絨毯の感触も、手袋の中の汗も、隣にいる直樹の体温も、すべて本物だった。


 ◇ ◇ ◇


 モロー邸へ戻った時、夜は深かった。


 玄関広間では、エレノアとルイーザが待っていた。2人とも眠っていなかった。馬車の音が近づくと、すぐに立ち上がった。


 直樹が玄関へ入る。


 メアリーがその横にいる。


 2人の顔を見ただけで、ルイーザは何かが起きたと分かった。


「どうでしたか」


 直樹は少し笑った。


「サー・ナオキ・モローになりました」


 エレノアは目を見開いた。


「本当に?」


「王太子から、女王陛下の名において伝えられました。正式な文書は後日ですが、今夜からそう呼ばれることになります」


 ルイーザは扇を閉じることも忘れた。


「それは……もう、ただの工房主ではありません」


「明日から、さらに手紙が増えるでしょう」


 エレノアはすぐに現実へ戻った。


「では、契約書の控えを増やします。見積もりも、王室へ出すものと民間へ出すものを分けます」


 メアリーは思わず笑った。


「エレノア、今夜くらい喜んでもいいでしょう」


「喜んでいます。だから急ぐのです」


 その言葉に、直樹もルイーザも笑った。


 メアリーは直樹の方を見た。


 王室の広間で、彼は電灯を灯し、蓄音機で女の声を響かせ、サーの称号を受けた。その姿を隣で見ていたせいか、メアリーの胸はまだ熱い。誇らしさと、少しの嫉妬と、強い欲が混じっていた。


 直樹も同じだった。


 王室で認められた高揚が、まだ体に残っている。サーと呼ばれた喜び。電灯と蓄音機が人々を黙らせた瞬間。カルロッタの声を聞いた時の胸の痛み。それらがすべて、目の前のメアリーへ向かっていく。


 直樹はメアリーの手を取った。


「今夜は、あなたと過ごしたい」


 メアリーは一瞬、息を止めた。


 メアリーの番は、すでに一度あった。だが、今夜の直樹はあの夜とは違っていた。王室の広間で認められ、サーと呼ばれて戻ってきた若い男である。疲れているはずなのに、目の奥が熱い。


「はい」


 メアリーは答えた。


 ルイーザは静かに目を伏せた。昨夜は自分の番だった。まだ体の奥に余韻も残っている。けれど、今夜、王室の広間で直樹の横に立ったのはメアリーだった。そこは譲るしかなかった。


 エレノアも何も言わなかった。嫉妬はある。だが、直樹がこの夜を誰と分かち合いたいのかは、2人とも分かっていた。


 直樹はメアリーを連れて2階へ上がった。


 寝室へ入ると、メアリーは手袋を外した。指先に赤い跡がついている。慣れない席で、ずっと力を入れていたのだ。


 直樹はその手を取った。


「疲れたでしょう」


「疲れました。けれど、悪い疲れではありません」


「怖くありませんでしたか」


「怖かったです。でも、あなたの横に立っていたので、逃げたいとは思いませんでした」


 直樹はメアリーを抱き寄せた。


 メアリーはすぐに応じた。王室の広間では、作法を守り、言葉を選び、背筋を伸ばしていた。だが、ここは直樹の寝室である。彼女はもう遠慮しなかった。


 直樹の口づけは深かった。


 メアリーは受け止めた。受け止めきれないほどの熱が来ると分かっていても、退かなかった。むしろ、直樹の背を強くつかみ、自分からも求めた。


 その夜の直樹は、昼間の発明家でも、王室で礼を尽くす若い紳士でもなかった。


 サーの称号を受けた喜びを、体の奥に抱えた20歳の男だった。


 メアリーは、その直樹を真正面から受けた。最初は笑っていた。次に息が乱れた。やがて言葉が途切れ、直樹の名だけを呼んだ。直樹は応え続けた。昨夜のルイーザへ向けた熱とは違う。今夜は、王室で隣に立ってくれたメアリーへ、その喜びを惜しみなく向けていた。


 メアリーは30歳だった。


 苦労はしてきたが、体はまだ十分に力を持っている。台所で鍋を持ち、階段を上り下りし、工員の食事を支えるだけの体力もある。だが、その夜の直樹は、それを上回った。メアリーは何度も直樹の肩へすがり、最後には笑う余裕もなくなった。


 それでも、嫌ではなかった。


 むしろ、これほど深く求められることが、自分をあの広場の女ではなく、直樹の女にしていくようだった。


 夜が深くなり、暖炉の火が小さくなったころ、メアリーは直樹の腕の中で動けなくなっていた。


「大丈夫ですか」


 直樹が聞くと、メアリーは目を閉じたまま、小さく笑った。


「大丈夫ではありません」


「すみません」


「謝らないでください。こういう大丈夫ではない夜は、嫌いではありません」


 直樹は苦笑し、彼女の髪に口づけた。


 メアリーはそのまま、片手を自分の下腹へ置いた。


 根拠などなかった。


 今すぐ分かるはずもない。


 それでも、彼女の体の奥に、確かな熱が残っていた。前に結ばれた夜とも、ただの余韻とも違う。直樹の喜びと、自分の喜びが一つに沈み、そこから何かが始まったような感覚だった。


 メアリーは目を開け、直樹を見た。


 言おうとして、やめた。


 今はまだ言葉にしない方がよい。言えば、夢のように軽くなってしまう。だが、彼女の中ではもう決まっていた。


 今夜、自分の中に直樹の子が宿った。


 そう感じた。


 メアリーは直樹の胸へ頬を寄せた。


「サー・ナオキ」


 小さく呼ぶと、直樹は照れたように笑った。


「まだ慣れません」


「私は、少し誇らしいです」


「私も、あなたが隣にいてくれてよかった」


 メアリーは返事をしなかった。


 ただ、直樹の胸に手を置き、目を閉じた。


 ロンドンの夜は、まだ暗い。だが、モロー電光工房の光は、王室の広間にも届いた。声を刻む機械は、人々の耳に消えたはずの女の声を戻した。そしてその夜、モロー邸の寝室では、メアリーの中にも新しい命の予感が残った。


 直樹は、ロンドンで光を得た。


 名も得た。


 そして、その未来は、工房の注文書だけでなく、ルイーザとメアリーの身体の奥にも、まだ言葉にならない形で宿り始めていた。

 後編2では、電灯の実演成功をきっかけに注文が殺到し、直樹は王室の晩餐会へ招かれる。直樹はメアリーを同伴し、王太子の前で電灯を披露する。さらに、カルロッタの声を刻んだ蓄音機を初めて王室で鳴らし、人の声を記録して再び聞かせる技術を示す。その功績により、直樹は王太子から女王陛下の名において「サー・ナオキ・モロー」と呼ばれる栄誉を受ける。夜、王室で認められた喜びに高揚した直樹は、同伴して自分を支えたメアリーと再び深く結ばれる。メアリーもまた、その夜、自分の中に直樹の子が宿ったような予感を抱く。

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