第7話(中編1)――「モロー電光工房、社長直樹」
ベッラヴィスタ家の応接室に、蝋燭でも油でもない白い火が灯る。直樹が作った電気の光は、ドメニコ、カルロッタ、テレーザ、職人たちに大きな衝撃を与える。だが直樹は、その技術をただ差し出すつもりはなかった。翌朝、港で公開したいと望むドメニコに対し、直樹はモロー電光工房を作り、自分が社長として技術と経営権を握ると宣言する。ベッラヴィスタ家は最初の出資者となり、カルロッタはその場で、直樹が父の家に使われる客人ではなく、自分の力で立つ男だと知る。
金細工師ジュゼッペが帰った日の夕方、直樹はベッラヴィスタ家の裏手にある小さな作業部屋へ入った。
そこは本来、壊れた燭台や馬具の金具、扉の蝶番などを直すための部屋だった。壁には古い工具が掛かり、木の作業台には鑢、金槌、小さな万力、油差し、針金、真鍮の部品が置かれていた。窓の外では、灰をかぶった葡萄棚が夕方の薄い光に沈んでいる。遠くのヴェスヴィオは、まだ低く唸っていた。
直樹は、昼に得たリラの一部を使い、銅板、亜鉛板、細い銅線、ガラス瓶、陶器の皿、木炭、真鍮の支柱、薬屋から取り寄せた酸をそろえさせていた。
カルロッタは、入口に立ってそれを見ていた。
胸元には、直樹が留めた真珠のブローチがあった。黒いドレスの上で、白い真珠が静かに光っている。
「ナオキさん、これは何を作るためのものですの?」
「光です」
「光?」
「蝋燭でも、油のランプでもない光です」
カルロッタは作業台の上を見た。
銅、亜鉛、酸、木炭、ガラス。どれもこの時代にあるものだ。だが、それらがどうして光になるのかは分からなかった。
「火を使うのですか」
「少し違います。火に似て見えますが、油も芯も使いません」
「ますます分かりませんわ」
「夜になれば分かります。ただ、危ないので、近づきすぎないでください」
「わたくしを呼んでおいて、近づくなとおっしゃるの?」
「見てほしいんです。けれど、酸が跳ねる場所には立ってほしくありません」
カルロッタは直樹の顔を見た。
若い男が婦人の気を引くために珍しいことをする顔ではなかった。何かを本当に作る者の顔である。昨日、金細工師を相手にした時とは違う。今の直樹は、町の相場を知らない異国人ではなく、頭の中にある形を、目の前の材料で組み上げようとしていた。
「分かりましたわ。では、わたくしは少し離れて見ています」
「お願いします」
直樹は作業台に向かった。
右手にはまだ包帯が残っている。そのため、細かな作業は左手と、動く範囲の右指で行った。銅板と亜鉛板を交互に並べ、酸で湿らせた布を挟む。何組も重ねて木枠で押さえ、端に銅線をつなぐ。長く使えるものではない。だが、短い時間だけなら強い電気を取り出せる。
次に直樹は、硬く焼いた木炭を削った。
黒い炭素棒を2本作り、真鍮の支柱に向かい合わせに取りつける。背後には磨いた反射板を置く。ガラスの覆いは完全なものではないが、火花と煙を少しでも抑える役には立つ。
ドメニコも、途中で作業部屋をのぞきに来た。
「ナオキは、何をしている」
「光を作るそうですわ」
カルロッタが答えると、ドメニコは口ひげの下で笑った。
「太陽でも作るのか」
直樹は顔を上げた。
「太陽は無理です。ですが、夜の部屋を昼のように見せることはできます」
ドメニコの笑みが少し薄くなった。
「本当にできるのか」
「試作品です。長くは持ちません。危険もあります。ですが、1度は灯せます」
ドメニコは、作業台の銅線と酸の瓶を見た。
船会社を率いる男である。蒸気機関も電信も知っている。だが、屋敷の応接室に油を使わない光を灯すなど、すぐに信じられる話ではなかった。
「よし。見せてもらおう。ただし、子どもを近づけるな。酸の瓶には誰も触らせるな。火と水も用意しておけ」
「ありがとうございます」
直樹はうなずいた。
夜になると、ベッラヴィスタ家の小応接室に、限られた者だけが集められた。
ドメニコ、カルロッタ、イザベッラ、テレーザ、金物屋の職人、ガラス職人たちである。マルコ本人はまだ寝台から動けない。だが、弟を救った異国人が何かを見せると聞き、屋敷の中は落ち着かなくなっていた。
小応接室の窓は閉められ、厚いカーテンが引かれていた。外では、灰を踏む馬車の音が時折聞こえる。遠くの港からは、夜の作業をする男たちの声がかすかに届いていた。ヴェスヴィオは暗い山の形を黒く残し、時々、低い唸りを夜へ落としている。
室内には、まだ燭台が灯っていた。
蝋燭の火は黄色く揺れている。壁の絵も、銀の杯も、カルロッタの顔も、その揺れに合わせて少しずつ色を変えた。これが、この時代の夜だった。油の匂い、蝋の匂い、火の揺らぎ。人が夜に集まる時、そこには必ず火があった。
直樹は、丸卓の上に試作品を置いた。
木の台。銅線。真鍮の支柱。2本の黒い炭素棒。小さなガラスの覆い。部屋の隅には、銅板と亜鉛板を重ねた電池が置かれている。陶器の皿からは、酸の匂いがわずかに立っていた。
「ナオキさん」
カルロッタが言った。
「危険はありませんの?」
「あります」
直樹は答えた。
室内の空気が少し固まった。
「だから、誰も触らないでください。火花が出ます。眩しいです。長くは灯しません」
ドメニコが低く笑った。
「それで安心しろと言うのか」
「安心ではなく、準備です」
直樹は銅線を確かめた。
右手の包帯が白く見える。カルロッタはそれに気づき、思わず近づきかけた。
「手は大丈夫ですの?」
「短い時間なら大丈夫です」
「無理をなさる方ですわね」
「最初に見てほしい人がいますので」
カルロッタの目が、そこで止まった。
周りには人がいる。だから彼女は何も言わなかった。ただ、胸元のブローチに指を添えた。
直樹はテレーザに言った。
「蝋燭を消してください」
テレーザは少し迷い、ドメニコを見た。ドメニコがうなずくと、テレーザは1本ずつ蝋燭を吹き消した。
火が消えるたび、部屋の隅が暗くなった。最後の1本が消えると、小応接室はほとんど夜に沈んだ。廊下から漏れるわずかな光だけが、家具の輪郭を残している。
人の息が聞こえた。
カルロッタのドレスの布が、静かに擦れた。
直樹は、炭素棒の先をほんの少し近づけた。次に、電池から伸びる線を接続した。
最初は何も起きなかった。
部屋の誰かが息を吸った。
直樹は、支柱の小さなねじを回し、炭素棒の距離を変えた。
次の瞬間、ぱち、と乾いた音がした。
黒い炭素棒の間に、小さな青白い火花が走った。
それは一瞬で消えた。
イザベッラが小さく声を上げた。テレーザが胸の前で十字を切った。職人たちは身を乗り出した。
直樹は表情を変えず、もう1度ねじを動かした。
ぱち。
今度は火花が長く伸びた。
そして、2本の黒い炭素棒の間に、白い弧が生まれた。
火ではなかった。
炎の形をしていない。芯もない。油もない。風に揺れない。ただ、2つの黒い先端の間に、強い白い光が張りつき、部屋を一気に照らした。
眩しさに、何人かが目を伏せた。
小応接室の壁が、昼のように浮かび上がった。ナポリ湾の絵、銀の杯、椅子の脚、カルロッタのブローチ、テレーザの鍵束、ドメニコの白い口ひげ。すべてが黄色ではなく、白く見えた。
蝋燭の夜ではない。
ランプの夜でもない。
部屋の中央に、小さな昼が生まれていた。
「聖母様……」
テレーザが震える声で呟いた。
ガラス職人は口を開けたまま、光を見つめていた。金物屋の職人は、真鍮の支柱ではなく、直樹の手元を見ている。ドメニコは立ったまま動かなかった。港で蒸気機関を見てきた男でさえ、自分の応接室にこの光が灯るとは思っていなかったのである。
カルロッタは、何も言わなかった。
光は彼女の顔を真正面から照らしていた。黒に近い髪の線、頬の白さ、胸元の真珠。蝋燭では隠れていたものまで、白い光は容赦なく見せた。けれど、カルロッタは目をそらさなかった。
彼女は光を見ていた。
次に、直樹を見た。
直樹は、光の強さと炭素棒の減り方を見ながら、支柱のねじを少しずつ動かしていた。眩しさに目を細めても、手元は揺れない。右手の包帯が、白い光を受けてさらに白く見えた。
この男は、本当に夜を変えた。
カルロッタはそう思った。
金細工師を相手に値を上げさせた若者。自分の胸にブローチを留めた若者。マルコの熱を下げた若者。その同じ男が、今、屋敷の夜を白く変えている。
直樹は30秒ほど光を保った。
炭素の匂いが立ち、細い煙がガラスの中にこもった。酸の匂いも強くなった。電池の容器がわずかに泡立っている。これ以上続ければ危ない。
直樹は線を外した。
白い光が消えた。
部屋は、一瞬で暗くなった。
誰もすぐには声を出さなかった。
テレーザが慌てて燭台に火を戻した。
黄色い火が灯った。だが、さっきまで当たり前だったその灯りは、もう貧しく見えた。小さく、揺れ、煙を出し、部屋の隅を暗いまま残す光だった。
ドメニコが、ようやく口を開いた。
「ナオキ」
「はい」
「今のは、何だ」
「電気の光です」
「電信に使う、あの電気か」
「同じものです」
ドメニコは椅子に座った。力が抜けたようにも見えたし、頭の中で金の計算を始めたようにも見えた。
「これを、港で灯せるのか」
「今のままでは無理です。電池が弱い。炭素も悪い。熱も危険です。ですが、蒸気機関で銅線を巻いた機械を回せば、もっと強くできます」
「蒸気で、光を作るのか」
「はい」
ドメニコは、しばらく直樹を見た。
やがて、静かに言った。
「明日の朝、食堂で話そう」
「分かりました」
カルロッタは、直樹を見つめていた。
彼女はもう、直樹を父の客人としてだけ見ることができなくなっていた。
翌朝、ベッラヴィスタ家の食堂には、いつもと違う緊張があった。
庭にはまだ火山灰が残っている。男たちは石畳を水で流し、女中たちは窓枠と手すりを布で拭いていた。葡萄棚の葉は白い粉をかぶり、馬車小屋の屋根にも灰が薄く積もっている。だが、屋敷の中で話題になるのは、もう灰ではなかった。
昨夜の光である。
蝋燭でも油でもない、白く揺れない光。小応接室にいた者は、誰もそれを忘れられなかった。テレーザは台所で何度も十字を切り、ガラス職人は朝早くから門の前へ来て、もっと丈夫な覆いを作らせてほしいと頼み込んだ。金物屋の職人は、自分の削った真鍮の支柱があの光を支えたことを、酒場で話したくてたまらない顔をしていた。
ドメニコ・ベッラヴィスタは、食堂の席で直樹を見た。
「ナオキ。昨夜の光を、港で見せたい」
ドメニコは率直に言った。
直樹は、すぐには返事をしなかった。
テーブルには硬いパン、チーズ、オリーブ、卵料理、薄い葡萄酒が並んでいる。窓の外から入る朝の光は、灰でまだ弱い。直樹は左手でカップを置き、ドメニコの顔を見た。
「見せることはできます」
「なら、準備をしよう。港の倉庫を使う。蒸気機関もある。人も職人も出す」
「その前に、決めておくことがあります」
直樹の声は静かだった。
ドメニコの目が少し細くなった。
「何を決める」
「モロー電光工房を作ります。社長は私です」
食堂が静かになった。
イザベッラは驚いたように直樹を見た。テレーザは皿を下げる手を止め、すぐに目を伏せた。カルロッタだけは、直樹から目を離さなかった。
直樹は続けた。
「昨夜の白い火は、ベッラヴィスタ家の応接室で灯しました。今日からは、港で大勢に見せる話になっています。そうなれば、ただの余興では済みません。商売になります。名誉にもなります。だから、先に権利をはっきりさせます」
ドメニコは椅子にもたれた。
「お前は、はっきり言う男だな」
「曖昧にすると、あとで揉めます」
「その通りだ。では聞こう。お前は何を望む」
「技術、設計、改良の判断、工房の名前、契約の最終決定権は、すべて私が持ちます。ベッラヴィスタ家には、最初の資本、港、倉庫、蒸気機関、職人、町での信用を出していただきたい。その代わり、出資額に応じた配当を出します」
「出資者として扱う、ということか」
「はい。ベッラヴィスタ家は最初の出資者です。恩人でもあります。だから粗末にはしません。ですが、工房の主人は私です」
ドメニコは黙った。
直樹はさらに言った。
「装置そのものは売りません。設置と管理を契約にします。港、倉庫、劇場、工場、役所。相手によって条件を変えます。利益から費用を引き、出資者には配当を出す。けれど、技術と経営権は渡しません」
ドメニコは口ひげを撫でた。
「私の港で、私の蒸気機関を使い、私の職人を動かす。それでも、お前が社長か」
「そうです」
「ずいぶん強気だ」
「私は、この国では身分の紙も、家名も、港も持っていません。だから、ベッラヴィスタ家の信用が必要です。そこは認めます。ですが、光を作るのは私です。そこを手放すなら、港では灯しません」
脅しではなかった。
直樹は、ただ線を引いていた。助けてもらうことと、支配されることは違う。資本を受けることと、技術を奪われることは違う。その境目を、最初に決めている。
カルロッタは、黙って聞いていた。
昨夜まで、彼女は直樹を守り、自分の目の届くところに置こうとしていた。けれど今、直樹は彼女の父を相手に、自分の足で立っていた。ベッラヴィスタ家の客人ではない。発明を持つ若い男であり、自分の工房を作ろうとする者だった。
その強さが、カルロッタの胸を深く打った。
ドメニコはしばらく考えていた。
やがて、低く笑った。
「ナオキ。お前はこの国では家もなく、港もなく、後ろ盾もない若者のはずだ。それなのに、交渉の線だけは船主より硬い」
「ここを曖昧にすると、後で必ず揉めます。ベッラヴィスタ家を軽く見ているのではありません。大事な相手だからこそ、最初に決めておきたいのです」
「よし」
ドメニコは机を軽く叩いた。
「ベッラヴィスタ家は、モロー電光工房の最初の出資者になる。港、倉庫、蒸気機関、職人、材料費を出す。その代わり、最初の事業利益から応分の配当を受ける。だが、工房の社長はナオキ・モロー。技術と契約の最終決定権はお前が持つ。これでいいな」
「はい」
「ただし、支出は帳簿で明らかにする。港の人手、蒸気機関、倉庫、職人の賃金、材料費。すべて記録する」
「当然です」
「カルロッタ」
ドメニコが娘を見た。
「お前は、ベッラヴィスタ家の側で帳簿を見ろ。出資者として、金の流れを確認する」
カルロッタは静かにうなずいた。
「承知しましたわ」
直樹はカルロッタを見た。
「カルロッタさん」
「はい」
「あなたには、工房の共同経営者になってほしいわけではありません」
カルロッタの指が、膝の上で少し動いた。
直樹は、言葉を続けた。
「仕事は私が決めます。出資はドメニコさんと話します。帳簿は家の仕事として見ていただく。ですが、あなた自身については、別の話をしたい」
ドメニコが眉を上げた。
「食堂でする話か」
「本当は、2人だけで話すべきことです」
カルロッタの頬に、わずかな赤みが差した。
直樹は、それ以上は言わなかった。
ドメニコは口ひげの下で息を吐いた。
「ナオキ。お前は光だけでなく、家の中まで火をつけるつもりか」
「火ではありません。光です」
「うまいことを言うな」
イザベッラが小さく笑い、テレーザはわざと食器の音を立てて空気を変えた。カルロッタは目を伏せたままだったが、胸元の真珠のブローチに指を添えていた。
朝食が終わると、直樹は港へ向かう準備に入った。
それから3日間、ポルティチの小港、グラナテッロは奇妙な熱を帯びた。
火山灰をかぶった石畳を男たちが洗い、倉庫の前には木の柵が組まれた。港の奥では、荷を上げるための小型蒸気機関が引き出され、油で黒くなった車輪とベルトが点検された。普段は樽や木箱を持ち上げるための機械である。それを光に使うと聞いて、港の男たちは半分笑い、半分本気で気味悪がった。
直樹は、蒸気機関の横に発電機を据えた。
鉄心に銅線を巻き、回転する軸とベルトでつなぐ。粗い作りである。音も大きい。接点も熱を持つ。だが、電池だけに頼るよりはずっとましだった。直樹は職人たちに、同じ部分を2度説明しないようにした。ガラス職人には覆いだけを作らせ、金物屋には支柱だけを削らせ、銅線を巻く細かな作業は、直樹のそばで限られた者だけにさせた。
カルロッタは、ベッラヴィスタ家の出資側として帳簿を持った。
彼女は港へ出る時、濃紺のドレスに灰色のショールを重ね、胸元には真珠のブローチをつけていた。港の潮、魚、油、濡れた縄、石炭の煙、男たちの汗は、屋敷の応接室とはまるで違う匂いを作っている。だがカルロッタは、そこに立った。
誰が何を持ってきたか。何にいくら払ったか。どの職人に何を見せたか。直樹が誰に何を命じたか。彼女はそれを丁寧に記した。
職人の1人が、銅線の巻かれた機械へ近づこうとした。
「奥様、そこがどうつながるのかを見ておきたいのですが」
カルロッタは、柔らかい声で止めた。
「そこから先は、ナオキさんの作業です。あなたは支柱だけを見てくださいな」
「ですが、奥様」
「お代はきちんとお支払いします。ですが、モロー電光工房の中身をすべてお見せするわけにはまいりません」
職人は黙って下がった。
その様子を見て、直樹は近づいた。
「見事ですね」
「出資者側の帳簿係ですもの」
「それだけですか」
カルロッタの目が一瞬揺れた。
「港でそういうことをおっしゃらないで」
「では、屋敷なら?」
「屋敷でも、場所を選んでくださいな」
それだけ言うと、カルロッタは視線を帳簿へ戻した。だが、耳のあたりが少し赤くなっていた。
直樹は、それを見逃さなかった。
公開前日の夕方、最初の試運転が行われた。
蒸気機関が動き、ベルトが回る。軸が唸り、銅線を巻いた機械が震えた。最初は何も起きなかった。港の男たちが顔を見合わせ、何人かが小さく笑った。
直樹は気にしなかった。
接点を磨き、ベルトの張りを変え、炭素棒の先を調整する。手元の動きは速く、何度失敗しても、次に直す場所をすぐに見つけていた。
2度目に回した時、炭素棒の先で青白い火花が飛んだ。
笑っていた男たちが黙った。
3度目には、短い白い光が走った。まだ昼間なので、弱く見える。それでも、火でも油でもない光がそこに出たことだけは、誰の目にも分かった。
港の男が、思わず言った。
「本当に、火じゃねえ」
カルロッタは、その声を帳簿の隅に書き留めた。
火ではない光。
それは、明日の見出しに使える言葉だった。
中編1では、まず応接室に白い電気の光が灯り、直樹の技術がドメニコたちの前で形になった。翌朝、直樹はモロー電光工房を立ち上げ、社長として技術と経営権を握ることを宣言する。ベッラヴィスタ家は直樹を保護する家ではなく、最初の資本と信用を出す出資者となる。カルロッタは共同経営者ではなく、出資者側の帳簿を見る立場に収まりながらも、直樹の強さと独立心に惹かれていく。ポルティチの港での公開実験を前に、直樹はすでに客人ではなく、未来の光を売る男として動き始めた。




