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15話 眠姫のお目覚め


 夜ににぃ様と話せなかった。だから、早朝、眠そうなエレを起こしての話し合い。


「しゃぁーしゃぁー」


 エレは眠くてご機嫌斜め。


「エレー、可愛いー、笑ってー」


 ゼロがエレを宥めてくれている。


「一番危険そうな場所として、この辺りをギュゼルの巡回場所とする。それで異論はないか?」

「意外と狭いね。これならエレも……疲れはするか」

「それと、巡回に俺とルーも入れて良い」

「了解。祭りは十日間だったよね」


 士気を高めるため。なんて表では言っているけど、それ以外の方が重要だろう。


 この祭りは、見定め。宮で働く全員を対象に。


「中央は入れ替え多そうだね。他はどうなんだろう」

「主宮も入れ替えがあるだろう。他にも」

「難しいお話なの。エレ帰る」

「にぃ様、こんなの実際見てみないと分かんないんだから、話すのやめない?」

「そうだな。今ここでする話でもない」


 話やめただけなのに、エレがすりすりしてくれる。


 ほんとは、事前に監視を強めるためにも話を続けたくはあるんだけどね。にぃ様と連携していかないといけない部分ではあるから。


 にぃ様だけじゃなくて、ルノ達やルーとも。ルーは、言ってはいないけど、今回ここへきたのはにぃ様の命だろう。フィルも、なにかしら頼まれていたはずだ。


 今回の祭り、安全なんてない。その前提で開かれているんだろう。話には出さなくとも、こうして面と向かって話せば分かる。


「……フォル、表では」

「分かってる。言うわけないじゃん。これでも、僕は主様の忠実な部下ですから」

「報告書の滞納に命令無視の数々。良くその言葉を当然のように言えたな」

「報告書の滞納に関してはこの前全部提出したけど?命令無視に関しては、主様以外でしているから」


 それに基本、僕がやる必要のない命令ばかりを無視していただけ。


 ちゃんと役目だけは果たしている。


「役目を果たしているからとこんな事ばかりだと目をつけられると分かっているか?」

「エレと関わっていく以上そこは避けられないでしょ。まぁ、知られたら困る事だけは隠し通すよ。神獣の王の家系として、その程度の事は心がけているつもりだ」

「と神獣の王が言っているの。笑えるの」

「変な誤解生む事言わないでくれない?」

「事実じゃないの?だって神獣の王は、ふみゅ⁉︎」


 余計な事言う前に口塞いだ。魔力吸収を抑えたクッキーをエレの口に入れた。


 神獣の王に関しては、言及してほしくないんだ。いくらにぃ様だろうと。その秘密は、僕とフィルだけしか知らなくて良い事。


 エレはかなり深く関係しているから別だけど。


「にぃ様、ゼロの世話よろしくー」


 僕は、エレを連れて逃げるように部屋に戻った。これ以上いればエレが何でもかんでも言う可能性があるからね。


「はーなーしーてーさーらーわーれーるー」

「君が余計な事言うから。神獣の王の件は言っちゃだめ」

「……知る権利はあると思うよ?始まりの黄金蝶の方も、終焉のジェルドの方も。エレは関係ないけど」

「君が一番関係あるだろ。ジェルドの姫君」

「……」


 この世界にもう、知る人はいない。古い伝承。


 僕は、収納魔法にしまっていた、オリジナルの魔原書を出した。


 リプセグとは違う。原初の樹の意思を記す紛い物ではない。本物の魔原書。


 世界は崩壊と創生を繰り返す。この書には、その記憶が少しだけ載っている。それに、伝承も。


 そこに載っている種族の話。全ての世界の崩壊を招いたジェルドと、そこから新たに生まれた黄金蝶。


「関わっているなら知る必要はある。そうでなければ、こんな事知る必要がない」

「……エレはそう思わないけど、でも、エレはフォルが決めた事に従う。今は……エレは眠っているから」

「いつになったら起きてくれるんだろうね。あの眠り姫は」

「分からないよ。あの日、突然眠って起きる事はほとんどなくなった。あの子は今、何を見ているんだろう」

「君も分からないの?あの子の精神が今どこにいるのか」

「うん。そうじゃなかったら、エレの真似をしていない。紋章が出ていると思わせるだけにしている」


 エレは昔、色々あって、ジェルドに魅入られた。その後から、知らない世界に一人で彷徨うようになったと、時々起きては言うんだ。


 エレはほとんど起きない。今は。エレの中にいるジェルドが出ている。


「……ふみゅ?朝なの?朝なのかもしれない。夜なのかもしれない。朝じゃないと推測。ねむねむの時間と推測。絶対ねむねむの時間なの。これはねむねむするべきなの」


 起きた。この可愛さはエレにしか出せない。エレ特有の可愛さと思わせる可愛さが出ている。


「おはよ。朝だから起きないとだめだよ」

「……ねむねむじゃないとだめなの?」

「起きないとだめ。いつまで寝るつもりなの?」

「……みゅ。今日もお話し相手になってくれるの?」

「うん。話して?」

「ふみゅ。あのね、フォルに会ったの。エレの事が好き好きって言ってた。エレもフォルが好きって言ったの。可愛いの。すごい可愛いって言っていたの。エレ可愛いの」


 今回は、良い場所だったみたい。エレの話によると、エレが眠っている間にいる世界は、過去のどこかの世界。


 エレはそこで何も知らずに過ごしているんだって。その話を起きた時にこうしてしてくれる。


「お外は何があるの?」

「今度祭りがあるんだ。その時まで起きていてくれれば良いけど……祭りの時、エレの可愛い姿を見たいんだ」

「ふみゅ、エレ頑張って起きているの」

「うん。あんまり効果はないだろうけど、ここにいられるようの加護をかけるよ」


 僕は、エレがここに留まりやすくするための加護をかけられるんだ。効果に期待はできないけど。いつまで持つか分からないから。


 できるだけ長い時間、エレと一緒にいられるように。そう願って、加護をかける。


「……お祭り、楽しみなの」

「……うん。そうだね」


 エレは、祭りの裏で起こる事なんて何一つ知らない。最終日に表立って動く組織の事も。知っていた方が良いんだろうけど、僕の側にいさせれば知らせる必要はないかな。


 なにがあっても、守れば良いだけだ。


「ぷにゅ。巡回もするの?エレも一緒にして良いの?」

「うん」

「一緒にいられる嬉しい」

「僕も嬉しいよ。エレ」


 エレが僕に抱きつく。まだ少し寝ぼけているようだけど、このまま寝ようとしないよね。


「じゃあ、エレすりすりしても良い?」

「うん」


 エレにとって、すりすりは好きな人にする一番の愛情表現。


「俺もエレとすりすりするー」

「早くこっちくるの。こないとしないの」


 エレは、僕とゼロを飼い主だと思っているんだ。ほんとに純粋で可愛いんだけど、飼うつもりはないんだよなぁ。


「お祭りでなに起こるか楽しみなの」

「……エレ勝手に共有使うな」

「やなの。エレとゼロは心配しなくて良いの。エレもゼロもやる時はやるんだから」

「エレの言ってる事は気にしなくて良いけど、エレと一緒なら、心配しなくても大丈夫なんだ」


 エレもおんなじような事しか言っていないんだけど。ゼロの耳にはどう聞こえていたんだろうか。


「エレは、なにもしなくて良いからな。俺の側にいれば良いから」

「みゅぅ」

「エレが起きてる間は、俺が全部やってやるから。風呂も一緒に入って洗ってやる。着替えも全部俺がやってやる」


 ゼロがこうやって甘やかすからエレがなにもできないままなんだ。とは言っても、僕もなにかさせたいなんて思わないけど。


「ふみゅぅ、エレはなにもやらせてもらえないの。ゼロはきっとエレをフォルのお嫁さんにさせないようにしているの」


 エレが拗ねた。むぅって頬を膨らませている。すりすりはやめていないけど。


 ゼロが来たから、交互にすりすりしている。


「なにもできないとかそういうのは、僕気にしないけど」

「エレ世話したい」

「うん。それは分かる」

「ふみゅ、エレは愛玩動物なの」

「エレ、それだとペット枠狙ってるようにしか聞こえないよ」


 エレの驚きポーズが可愛い。でも、驚くとこあった?


「ペット違うの?」

「違うに決まってるでしょ」

「……フォルのペット枠だったら、ギュゼルに入ってフォルの側入れると思ったのに」


 全部声に出てる。ほんと隠し事苦手だよ、この子。


 ていうか、悔しそうにしてるけど、ペットで良いのかな。


 気は進まないけど、ジェルドの意識ではない、エレ本人になら。


「そんなになりたいなら、試験してあげようか?」


 あっ、分かりやすく目が輝いてる。ゼロも。


「知っての通り、危険と隣り合わせの仕事だ。でも、他でもないエレの願いなら」

「ふみゅ?」

「君の事情を知っている身として、ギュゼルに入れば君は自分の身を守る事に繋がる。別にギュゼルにこだわる必要はないけど」


 エレをどこかの組織で所有する。あのジェルドの意識のままだったら、考える必要はなかったけど、エレが出てくればこれが一番なんだ。


 エレは、よく分かっていないみたい。自分の事なんだけどなぁ。


「……兵器としての所有権」

「そういう事。エレがそれを使わないとも限らない。危険になれば使ってでも自分の身を守ってほしい。そのためにも、僕やにぃ様が所有権を持っていた方が良い」


 ギュゼルは僕主体の組織だから、僕が兵器の所有者になれる。ギュシェルになれば、にぃ様になるだろうけど。


「ふみゅ。試験結果で決まるの?」

「……これ裏あるだろ。一度もフォルの口から、ギュゼルに入れてやるとは言ってねぇし」

「それはそうだよ。これは所有者を決めるため。でも、これに合格できれば、見習い試験でもやってあげるよ」


 今回は、エレとゼロにとっては難しくないだろう。


 二人で顔を見合わせて喜んでる。


 ……本物が出てきた以上、僕も決断しないとか。エレとゼロとの在り方を。

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