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ビッグ・ブラザー 2

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「パチンコ店は潰せ! 賭博の禁止を謳いながら、存在を認めている皇の欺瞞は徹底的に叩け!」


 エスポワール戦隊の活動は人々への制裁に留まらなかった。パチンコ店や風俗、貸金業者等。法律や倫理観に引っ掛かりそうな、ありとあらゆる場所への攻撃が行われていた。


「皇は生まれ変わるんだ! 我らエスポワール戦隊の手で!!」

「調子に乗るんじゃねぇ!」


 だが、人々も何もしない訳ではない。強化外骨格(スーツ)を装着した自衛隊や派遣軍は勿論、その中に怪人化した者達の姿も混じるようになっていた。


「やはり、我が国はジャ・アークとさえ手を組んでいたのか! リーダーは正しかったのだ!」

「誰が追い込んだと思ってやがる! ぶっ殺せ!」

「お前達に負けはしない! この心に、希望がある限り!」


 質で勝負するエスポワール戦隊と数で対抗するジャ・アークと皇の連合。

 全国で戦争が行われている中、議事堂はエスポワール戦隊に占拠されていた。周囲には、自衛隊、派遣軍、リングを破壊された者達と変身が解除された隊員の死体が転がっていた。


「与党の先生方は丁重に扱え。野党の議員、エスポワール戦隊にバッシングを飛ばしていた議員共はそこに並べろ」


 一部の議員は隊員達に保護されるが、それ以外の議員達は一か所に集められていた。ガジェットを向けられながらも、彼らは毅然とした態度を崩さなかった。


「ククク。見ろ、こんなことをする馬鹿共はさっさと始末しておくべきだったんだ」


 パン。と、乾いた発砲音が響いた。悪態をついた議員の眉間には風穴が空いた。膝から崩れ落ちた男は、表に運び出された。

 歯向かうのは得策ではないと判断した彼らの視線は、大坊と対峙している神田首相へと向けられていた。


「どうも。初めまして、俺の名前は知っているよな?」

「勿論だとも。どうして、こんな愚かなことを」


 大坊や周囲のカラード達から殺気を当てられながらも、神田首相は一切臆することは無かった。


「俺はヒーローですから。悪を倒すのは使命なのです。首相ともあろう者が、俺達にして来た仕打ちを知らない訳が無いですよね」

「知っているよ。だとすれば、これは復讐か?」

「復讐? とんでもない。ヒーローの動機としては余りにも不純です。我々は皆の心の指標となるべき存在ですから」

「お前達が? 笑わせる!! お前達の幼稚で身勝手な正義が誰を幸せにした!? 人々に恐怖を与えて来ただけだろうが!!」


 自らの危険も顧みずに神田は咆えた。エスポワール戦隊の処刑により溜飲が下がった思いをした者達は居ただろう。だが、些事で命が奪われるという恐怖に怯えた国民も決して少なくはない。


「俺達の行動は首相の為でもあったんですよ? SNSでロビー活動をする工作員。好き勝手な記事を書いて、人々の怒りを煽り立てるゴシップ記者。エスポワール戦隊を糾弾し続けて来た議員や関係者。そいつらの処理も担当していたんですから」

「……誰に頼まれた?」

「俺達は固い絆で結ばれていますのでね。名前は死んでもばらせません」


 先程連れて行かれた議員達の中に居たのか。あるいは連れて行かれた者達全員か。ヒーロー達は、想像以上に皇の根深い所にまで食い込んでいた。


「では、復讐では無いなら。何が目的だ?」

「皇の再誕ですよ。この国は汚濁に染まりすぎている。日々を平和に過ごしている者が涙を呑み、誰かを嘲笑い、貶す物だけが得をする。そんなのおかしいじゃないですか」

「なるほどな。で、この行為は誰が喜んでいる?」

「必要なことです。そもそもの話、俗世に染まった者達が人をどうにかしようとするから歪が生れるんですよ。だから、俺達ヒーローが導かなければならない。誰よりも気高く、志の高い我々によってだ」

「面白いジョークだ。今後、皇の人々には悪口や暴言を吐いたり、誰かに迷惑を掛けている人間は殺しても良いと教えて行くのか。大したヒーローだ!」


 揶揄するつもりで言ったが、彼らは誰も笑いも怒りもしなかった。大坊は真顔のまま言った。


「はい。その通りです」

「……は?」

「人と言うのは善良な存在だ。道端で泣いている子供が居れば、話は聞いてやるし。落ちている財布は届けるのが当然なんだ。だから、悪事をする奴はおかしい。ジャ・アークやそれに連なる世界侵略を企む存在に決まっている」


 絶句した。この男は、人々が善良な存在であると信じて疑わない。逆説的に言えば、善良ではない存在は人として見ていない。


「壮大な陰謀論だな。では、私もジャ・アークの様に別世界から侵略して来たか。あるいは、復活した彼らのシンパだとでも言うのかね?」

「今は、疑っている状態ですね。既に仲間達からはジャ・アークと手を組んだという話も聞いていますので」

「殺すのか」

「いいえ、貴方ほどの能力を持っている人間を殺すのは惜しい。俺達と協力して、皇の再誕を手伝って貰います。おっと、その前に。お前達」


 大坊が合図を飛ばすと、集められていた議員達に一斉に攻撃が加えられた。悲鳴と断末魔が響き、阿鼻叫喚めいた光景をまざまざと見せつけられた神田は目を覆った。


「お前達は戦後、最悪の犯罪者共だ」

「でしたら、今後。俺達の様な存在が生れない様にするにはどうしていくべきか。一緒に考えましょうか」


~~


「狂っている」


 議事堂へと放っていた反町の子機から送られてくる情報を見て、フェルナンド達は冷や汗を流していた。野党議員達は人質に取るかと考えていたが、甘い考えだった。政府から派遣された男は膝を付いていた。


「そんな…………」

「おい、桜井。気分いいか?」


 処刑された者達の中には、エスポワール戦隊を糾弾して来た者達も居た。彼らが殺されて溜飲が下がったかと言われたら、そんな筈が無かった。


「聞かないで」

「その様子だと、お前はまだ正気みたいだな。うっし、時間が無い。攻め込む連中と本部を護衛する組と分かれる。


 時間は想像以上に残っていない。今、動かねば殺される。敵の懐に飛び込む者達は、前ジャ・アークの怪人達ばかりだった。


「僕達は本部からバックアップをする。既に交戦の為に外に出ている連中もいるし、リングも持って行って」

「逃げ惑っている奴らに渡すのか? でも、避難所に行こうとしている奴らとの区別なんてつくのか?」

「うん。避難所では、前科や評判をチェックする際。弾かれた奴に『証』を付けるから」


 軍蟻が手にしていたライトを掌にかざすと。『罪』という文字が浮かんだ。


「こんな細工が」

「普通の奴には分からないけれどね。でも、怪人化した皆にも見えると思う。その文字が浮かんだ人には、遠慮なくリングを渡して。戦力にも囮にもなると思うから」

「今もエスポワール戦隊員として活動している者達の殆どはカラードだ。激戦は必須になるだろう。目標は、議事堂にいるレッドだ。全員、敵を討つ時が来たぞ」


 ここに来るまでの間に沢山の仲間を失った。大なり小なり罪を犯した者の集まりだが、殺されなければならない程の事をしただろうか?

 ヒーロー。実績を残した善意と善行の代行者に送られる言葉ではあるが、今となっては響きすら憎い。


「生きて帰ってこいとは言わねぇ。俺も行く。決着を付ける時だ」


 宿命、因縁。ドラマティックに盛り上げられ場所は殆ど無く、只管に殺し合うだけの日々だった。だが、それも今日で終わる。

勝敗の結果はどうなろうとも。どちらか生きるか、くたばるか。どちらに転んでも皇の歴史に残る戦争になるだろう。今も壁面のパネルで交わされている命の遣り取りを見ながら、桜井は呟いた。


「何処で。止まれたのかな」

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